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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第四章 エンターテイメント
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ゲームセンター

「外山瞳、入町を認めます」


 トラックがこの町に入ってきたちょっと前、一人の女性がゲートをくぐっていた。


 一日分の着替えとスケッチブックとペンと手提げバッグしか持っていないその女性の目的が移住でない事は、ほとんどの人間の目から見ても明らかだった。


 外山瞳と言う名前のその女性は、全く外の世界の人間だった。

 年齢は二十六歳、家族はなし。正確に言えば故郷に父母と兄夫婦と犬のコータローがいたが、同居人としてはゼロだった。彼女が自分の仕事について不満を持ったことはない。時として多忙により手や腰を痛める事もあったが、それでも子どもの頃の夢を十分に叶えているつもりだった。

「噂には聞いてたけど、本当に女性しかいないんだね……」

 商売柄と言う訳でもないが、まったく未知の存在からさまざまなインスピレーションを得る事を彼女は好んだ。女性だけの町と言う存在を知ってからずっと、いつか来訪しようと心に決めていた。

 そんな彼女が真っ先に向かったのは、管制塔でもショッピングセンターでもなく、ゲームセンターだった。道中本屋の前を通る時に少し冷たい目線を感じたが、それでも気にする事もなくその施設に彼女は吸い込まれた。

 そこにあふれかえっていたのは、クレーンゲームばかり。しかもほとんどがどこか古めかしいデザインのぬいぐるみ、いや筐体ばかり。ただ筐体そのものはかなり新しく、中身のぬいぐるみもくたびれている様子はない。見ているばかりではいけないとばかりにコインを入れ動かし、ボタンを押してアームを動かす。やけに熟練した腕を持つ彼女は6プレイで3個のぬいぐるみを確保し、袋を受け取って突っ込んだ。

「すごいな、お姉ちゃん慣れてるの」

「今日は運が良かっただけですよ」

 瞳は小学生の少女に向けて笑ってごまかしにかかったが、実際彼女はかなりうまかった。瞳がその少女ぐらいの年頃にはおこづかいのほとんどをこのゲーム機に注ぎ込んではぬいぐるみをかき集め、クラスメイトから職人とあがめられて過ごして来た。

 だが彼女にとってそれはついでであり、本当はそのぬいぐるみを持ち帰ってイラストを描くのが目標だった。だから彼女はある一定まで数を稼ぐとやめてしまい、その後はそのぬいぐるみを模写する事を好んだ。それからも取ってくれと頼まれる事もあったが、本人が積極的に取ろうとはしなかった。

 そして今は「アスタリスク」と言う名の女性向け恋愛ゲームが、彼女の主な仕事だった。他にも多数のスマートフォン向けゲームに登場するキャラクターのイラストを描き、それらに金を渡す男たちによって彼女は食を得ている。彼女の職場の近所にもそのゲームとシンクロするゲーム機があり、売上調査もまた彼女の仕事のひとつだった。その際に昔取った杵柄を発揮するようにクレーンゲーム機に触る事もあり、それな

りに戦果も挙げていた。


 とにかく戦果は上がったしと思い出ようとすると、視界の端に平べったい筐体を発見した。



 これまで以上に古めかしい、いや骨董品とでも言うべき筐体。業界に入るに当たり学んでおかねばならない必須科目、と言うか教科書に載っていた筐体。

 だが、やはりやけにきれいだった。メンテナンス作業が丹念に行われていると言うより、まるで新しく作られたばかり。

「これは何ですか?」

 恐ろしく野暮な質問をした瞳に対し、係員と呼ぶにしてはやけに落ち着いた色合いの服を着た女性がゆっくりと近づいて来た。服とは裏腹にその顔は上から目線と言うよりは期待に満ちたそれであり、今から説明できるのが楽しくて仕方がなさそうだった。

「これは当施設で開発されたゲーム機です。基本的には二人で仲良く健闘をたたえ合い、コミュニケーションを高めるためのツールとして機能しております。あくまでもそのためにあるのです。決して勝ち負けにより熱くなり、乱闘を起こすための存在ではありません」

 どこか演説めいた物言いをする店員の目の輝きに、瞳は自分がかつて知っている転移の目を思い出す事はできなかった。上客になる前から自分にいろいろ親切にしてくれた店員が今どこで何をしているのか残念ながら瞳は知らないが、それでも公平かつ優しく教えてくれた店員さんの事は記憶に残っていた。

「そうですか……」

 淡々と答えた瞳に対し、店員はさらに食いつくように視線を向ける。

 確かにゲームはコミュニケーションツールとしても重要だが、収集欲や征服欲を満たすのにも重要だった。取り分け瞳が担当しているいわゆるソーシャルゲームでは多数のキャラを集めると言う事に重点が置かれており、正直ゲーム性と言う点では……と社の他部門から苦言を吐かれる事があった。それでも全てのキャラの、全ての衣装を集めるのは自分だって楽しいし、そのためにどうさせるか考えるのも仕事だった。

 ふと手元の紙袋の中に入ったぬいぐるみを見てみると、古めかしいと言うより古臭く見えて来る。

 このぬいぐるみたちから何が得られるのか。


 瞳は少しばかり疑問を覚えていた。

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