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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第四章 エンターテイメント
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「輸入品」

 メイド服を身にまとい、ピンク色の長髪をして手には剣を持った女。


 こんなのが一体どこから出て来たのかと言う質問の答えは、先ほどその三次元に存在しない女を殴打した彼女とほぼ同じ姿をした女が持ち込んで来ていた。




「オスの鳥さえも通さないとはさすがですね」

 ゲートをくぐった軽トラは、いつもの書店の前で止まった。管制塔傘下でないせいかやや小ぶりで薄汚れていたが、それでも倒産の二文字からは全く縁遠いと店の中に書いてあった。

「しかしこうもたくさん資料があるとは、本当に辛い仕事をなさっているのですね」

「資源の無駄とか揶揄されていますけどね」

 書店員は特別な病気でもないのに使い捨ての手袋をし、スーツの女性から慰労の皮を被った皮肉を浴びせつつ本を受け取っていた。そんな冷たい目つきと態度にもスーツの女性は全く動じることなく、合わせるように愚痴をこぼしながら素直に本を渡す。

「私はかつて、これらの存在により親友を失ったのです」

「ええ……」

「今頃彼女は無残にもてあそばれているのでしょう。二十年近く仲良く過ごして来たのに」

 その本の使い道がわかっていながら、こんな事を言い出す程度には書店員の恨みつらみは深かった。

 人を殺せるほどの厚みもない本。いや、どちらかというと同人誌。

 その同人誌こそ、この書店の最大の収入源だった。

「私にとってこれらの書籍は飯の種に過ぎないのです。あなただってそうでしょう」

「ええ。自分でも相当に姑息な商売だと思います。そんな姑息な商売だけで身を立てられるわけではありませんからね」

 彼女はこの後、あと二か所に同じ本を卸していた。目的は全く同じであり、その三か所への取引がほぼこの町に来た全ての理由だった。

 とにかく仕事を終えて荷物を軽くした彼女は、深々と頭を下げて軽トラに乗り込んだ。


 彼女が置き残した同人誌の中では、メイド服を身にまといピンク色の長髪をして手に剣を持った女が頭を深々と下げ、虎猫のような耳を頭に付け露出を猫の毛皮のような模様で覆い隠しながら少女が飛び跳ね、手も足もむき出しにした白い着物だけ身にまとった少女が右手から吹雪を出している。

 さらにその中では、見た目からして活力がなかったり、軽薄な言葉を吐きそうだったり、とにかく不愉快な「男」がやたらと女たちに大事にされていた。たまに人間とは思えないような男もいたが、先のような特徴を兼ね備えている事に大差はなかった。


(こんな本なんか未だにあるのがおそろしくてかなわないわ……)

 ため息を飲み込みながら書店員は同人誌たちを書店へと入れた。つかめる物ならばピンセットかなんかでつまみたいほどの代物を抱えて持っているのは、先にも述べたように飯の種でしかないし、さらに言えば書店員と言えど彼女が下っ端に過ぎないという現実である。

「あらご苦労さん」

「すみません、ちょっと……」

 あわててトイレに駆け込み、使い捨ての手袋を石けんを付けて洗う。一分近く洗って手袋をゴミ箱に捨て、ようやく呼吸を落ち着かせてトイレから出て来られた。

「いつもの人でしょ、あいさつはしたの」

「しました」

「それならいいんだけど」

 店主が事もなげに同人誌を触るのを見るだけで、下っ端書店員は気分が悪くなる。幼い時に本屋に来てたくさんの本に出会ってたこの道を志さねばと決めた時以来、ずっとそのために頑張って来たつもりだった。

 だが管制塔傘下の出版社への就職希望は叶わず、そこ一点だったために就職浪人同然となってしまった結果現在は下っ端の書店員。もちろん管制塔傘下のそれを含め出版社への就職希望の望みは捨てていないが、それでもこういう悪書の存在を知らしめられてしまって正直やる気が失せかかっていた。

「で、いつ焼くんです」

「ちょっと落ち着いて」

「ああすみません冗談です、冗談。これあそこの店に卸すんですよね。なるべく醜いのを」

「そうよ。困ってる人たちや志高き子たちのためにね」


 その手の同人誌がアングラ娯楽施設ではなく書店に卸されるのは、選り分けのためである。その中で特に醜悪な物を選んでは提供され、パンチング人形やボール当ての的、さらには大学の社会科の教科書にも使用される。ちなみに大学の本もここには売っているが、それらの本はいわゆる18禁ならぬ19禁ゾーンに置かれていて高校生以下には買う事ができなかった。

「この町ができた理由、この町の外にあふれるそれらを知っておくことは重要だと思うけどね」

「私はそれができないから大学を出てもダメだったんでしょうか」

「まあいろいろ知っておくことは大事だと思うわよ。今度一冊融通してあげるから今からでも読んでみたら?」

「……考えさせてください。ああ私カウンター行きますんで」

「頼んだわよ」

 相手を傷つけたくないゆえにNOと言う文字を飲み込むが、それでも目の前に鎮座するおぞましき代物に対する恐怖から逃げるようにフリーター新米書店員は目を背けながらカウンターへと向かった。

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