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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第四章 エンターテイメント
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一流施設

 美香の休日は、基本的にエンタメ施設をめぐる事で費やされる。


 ビルの中に立ち並ぶネオンサイン――昼間なので輝く事のないその下を通りながら、行きつけの店へと足を運ぶ。

 出入り口のゲートに会員カードを突っ込み、「指定席」へと足を運ぶ。常連になるといつの間にかできてしまう立ち位置へと、勝手に動いてしまえる。その程度には、人間は慣れてしまう生き物だった。

 その行きつけのロッカールームと言うか、ロッカーの備え付けられたボックスへと入る。盗撮・盗聴防止のために細かく区切られた部屋にて美香は下着姿になり、持ち込んで来た服を着る。鼻からは平日の朝に聞いていた歌を流し、これまた行きつけの場所へと向かう。

「ああ美香」

「由紀」

 同じ職場ではないが管制塔傘下の企業に勤めている高校の同級生が、すでに美香の定位置の真向かいにいた。言うまでもなく彼女にとっては親友の一人であり、週末はいつもこうしてここで汗を流していた。

「お互いどう、婦婦になれそうな人見つかった」

「ムリムリ、私だってそんなにお金持ってないし、美香も同じ調子?」

「うん。まあちょっとお金使い過ぎとは思うけどね」

 由紀もまた肉体労働者ではなく、給与的には美香と全く差のない中流階級だった。そんな中流階級にとって、金を貯めると言うのは永遠のテーマである。言うまでもないが婦婦が婦婦になるためには、愛と、それから金も欠かせない要素である。

「給料上げてくれって思うけどね」

「でもさ、結局は頑張るしかないんじゃないの。それからスキルも上げてさ。今度の簿記検定受ける気?」

「それはもちろんだけど」

 他愛ない会話と共に、二人はテニスラケットを握る。緑色の人工芝に覆われたいわゆるカーペットコートの上で二人はジャンケンを行い、グーでチョキに勝った美香がボールを握った。

「ま、とりあえず1セットって事で」

 美香は格好を付けるようにボールを高く上げ、由美のコートへと打ち込んだ。時速にしてみれば120キロ程度の、しかしそれだけが取り柄の素直なコースのサーブを由美は丁寧に受け止め、やはり丁寧かつ素直に美香の下に打ち返す。そして美香も由美の立ち位置と同じ場所に打ち返し、ラリーを続けた。

「なんで動かないのよー」

「もっと前に出て来るんじゃないの」

 二人の言葉が裏をかけなくて悔しいのか、それともただふざけあっているのか。その事はどっちもわからない。ただ確かなのは、高校三年間テニス部で汗を流していたとは思えないほどには二人とも身体能力が優れていないと言う事だけである。良く言えば仲良し、悪く言えばなれ合い。そんなテニスだった。


 それだから1ゲーム美香が取るのにわずか5ポイントしか入っていないのに10分を擁し、とても6ゲーム1セットマッチなどできそうになかった。


「結局ここは美香にやられちゃったけどね、次はサーブ権私が持ってるし行っちゃうからね」

「おいでおいでー」

 相手のサービスをブレイクしなければ勝利などありえないのだが、そんな事などお構いなく二人は笑顔でラケットを振っている。通勤に五分しかかけない美香と違い由紀は徒歩二十分の道を毎日行き来しているが、それでも仕事では座りっぱなしである事に何の変わりもない。まだ二十代半ばとは言えそれでも体力はそれ相応に落ちていた。と言うか、二人とも補欠かそれに近くまともな試合などほとんどなかった。それでも放課後や模擬戦などでは幾度も戦い、自分たちなりに楽しく過ごして来た。

「そう言えばさ、顧問の先生のこと覚えてる?」

「ああ、浅村先生」

「あの人人気はあったけど教えるのはうまくなかったかもね」

 遅い足で走り、ボールを受け止めネットにぶつけながら思い出話をする。このエンタメ施設のようにあっちこっちにテニスコートを含む様々なスポーツが行われている施設はあったが、そこにコーチと言うたぐいの人種はいない。せいぜい、基本的なルールを教える存在がいるだけである。学校の指導者と言うか顧問たちも、怪我をさせない事が最優先で技術の向上は二の次三の次だった。二人の所属したテニス部の顧問の浅村と言う教師も、本職は国語であってテニスはまったく未経験だった。

 そんな顧問に教えられていたテニス部員たちの、優雅と言うより悠長なテニス。


「今日は私の負け。ギブアップって事で、いいよね……」

「由紀がそうならそれでいいよ」


 結局一時間半かけてスコアが4-2になった所で由紀が負けを認め、戦いは終わった。お互いがお互いの手を取り合い、健闘をたたえ合う。

「でさ、この後はやっぱりお昼?」

「そうする。私いいとこ知ってるから。パスタのお店」

 気持ちいい汗をかいた二人は各々のロッカーボックスへと戻り、一人で入った施設から手をつなぎながら二人で出た。

 ―—――――――――これから先、この二人は婦婦になるかもしれない。

 すれ違う人にそんな風に思われている事など気づかないまま、二人はテニスで減らしたカロリーを取り戻すべく町を歩き出した。

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