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女性だけの町  作者: ウィザード・T
最終章 望むべき回答
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裏切り、裏切られ

「はぁ……」

 海藤拓海こと「さいてい」の死刑判決確定から一週間が経過した警察署では、外の世界から帰って来た警官の置き土産が並べられていた。


「外の世界ではこっちのニュースはどれだけ伝わっていますか」

「今度の事件は本当すぐでしたね。まるでこっちが正道党を張り込んでいたみたいに」

「張り込んでなおこの結果とは情けないにもほどがありますがね……」

 警察上層部は、正道党をかつてのJF党と同じ臭いがすると言って警戒に当たらせていた。それが見事に大当たりだったわけだが、それでも少なからぬ被害が出た。


「入町管理局の職員を押さえていたのは予想外でした。まさかそこから武器が入って来るとは……」

「これで誠心治安管理社の威信は落ちるわね。とりあえず入町管理局の職員はかなり数が増やされるかしら、正直今まで少なすぎたとも思うけど」

「でもその数が増えたとしても逆に非効率になるんじゃないですかね」

「移住者と職員のつながりを無視する事はできないけどあまり強すぎるとこうなる事が分かっちゃったからね、これから移民も大変よ」


 そして最大の誤算は、七年前にやって来た黄川田達子を始めとした集団移住者が揃いも揃ってそのたぐいの人間だった事だ。話によればその女性たちを嬉々として出迎えていたマンションのオーナーはひどくショックを受けて娘婦婦にオーナーの座を譲り、老人ホームに入ってしまった。

 あまりにも能天気に受け入れすぎたのかもしれない。いや、思想信条だけではなく武器まで分解して持ち込んで来たと言うのは予想外であり、その上に入町管理局と言う関所さえ取り込めばいくらでも思うがままと言うこの町の欠陥が今回浮き彫りになった。


「女性も女性で悪い所はある、正論にすればあっけないですけどね、それにしても……」

「ええ。これがもしあれば、いや単なる繰り言ですけどね。後は責任者に任せましょう」

 その七年前に来た人間にあっという間に呑み込まれた女性の、心から欲しかっただろう存在。もっとも、これでテロを防ぐ事などできなかったのはわかっている。わかっている上で、その存在を使うか否か。この人道的問題をどう解決するか、結局警察は丸投げするしかなかった。




※※※※※※※※※




「楽しみにしてるんでしょうね、男たちは」


 死刑囚「さいてい」は、実に恨みがましい顔をしている。自分の死が女性たちの死であると信じて疑わない、純粋なる魂。

 一方で「はかのこ」と「ためめす」は、何もかも諦めがついたかのようにじっと座っている。時々自分たちの全てを見極めたかのように泣いたり、巻き込んだ存在に対して謝罪の言葉を口にしたりする。

 だが「さいてい」は鉄格子と反対側の方向ばかり見つめ、眼力で壁を破壊して逃げ切ってやろうとさえしている。純粋と呼ぶには汚れすぎたとも言えるその魂に対し、看守は何もリアクションしない。どうせ何を言った所で、反応は同じなのが分かっているからだ。

 例えばさっきの質問に対し「はい」と言えば「じゃあ今すぐ釈放して下さい~」となり、「いいえ」と言えば「あなたも男の手先ですか~」となる。そして「わからない」と言えば「その程度の発想しかないのに~」であり、「関係ない」と本音をぶつけても「この町を、自分の故郷を何だと思ってるんですか~」である。


「はかのことためめすはおとなしくその時を待っています。その時まで自分の犯した罪を悔い改めて下さい」

「罪を悔い改めるとか、ない物をどうやって悔いろと?あなたこそ女性を解放する力があるはずなのにどうしてそれを怠るのです?」

「学校を出てからも十数年外の世界の女性たちと過ごして来たはずです。そこで何か思う事はなかったのですか?」

「誰も助けてくれませんでした、少しでも恨みつらみを吐けばすぐさまそんな事など忘れて生きろしか言わない。ええかっこしいばかり。年を重ねればもう少し気持ちもわかってくれればいいと思ってたのにみんな同じ事ばかり。本当、バカばかりです」


 と言うか、少しばかり話を進めるとすぐこれだった。おしゃべりとか言う訳でなく、最後の最後まで醜くあがこうとしているだけ。必死に相手を自分の色に染めようとしている。その上で少しでも反抗すればなおさら不機嫌になり、その挙句に拗ねる。

 確かにこれを理解するにはよほどの器量がなければいけないと思わせる程度には「さいてい」は特異であり、世界中の監禁事件の被害者から非難されるに値する程度には奇形だった。

 その彼女をどうすれば死に向かわせられるのか。おそらく最後の最後までわめくか呪詛を吐くかしそうな彼女を救えるのか、その必要も少ないのに看守は頭を抱えた。










 ズガーン










 そして二人のすぐそばで、あの事件以来の爆発音が響いた。




 耳だけでなく体中を揺らす、重く太い爆発音。




 軽く地震を起こすほどの爆発音。




 その音を聞かされた「さいてい」は、なぜか急に泣き出した。

この作品はもう一歩で完結します。

新作はこちら、追放もの異世界ファンタジーです。→https://ncode.syosetu.com/n1072ih/

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