国事犯たち
「私は男を許せなかった。だからそうしただけです」
「動機はもう聞きました。犯行の経緯と仲間たちの情報を述べてください」
「既に黄川田さんも龍崎さんも藤森さんも死んだんでしょう、それに虎川さんも逮捕されましたし、もうこれ以上何も知りません。
私たちは、女性のために戦って来たのです。ここの住民は何を言っても自分たちが楽園に住み、世界を救える力を持っているのに気づかない。そうやって自分たちが特権階級を気取り、目の前にある危機を見過ごす。それが許せなかっただけです」
民権党や女性党の支持者のみならず自分の党の支持者にさえもケンカを売りまくった女たちの事実上の長は、警察署でもふんぞり返っている。
そしてまともに取り調べを受ける気もなく、自説を披露して首を横に振られている。
そんなだから取り調べを行う警官の階級も年齢もどんどん上がり、わずか一日足らずで四人目の警官になっている。
「それで、被害者の皆さんに対して何か言うべき事があるはずではないのですか」
「私はあなたたちを苦しめたかったのではありません。まるっきり自由を奪われ歪み切った愛情により拘束される苦痛を味わわせるような輩をこの世界から根絶させたいだけです」
「その輩が好んでいたのが、あの議会で流された映像ですか」
「そうです。まともに女性も愛せない歪んだ男たちが作り出したあの存在を、皆さんも殴り飛ばしているのでしょう?それは正義の鉄槌であり、その鉄槌を全世界に下すがために私たちはこうして事を起こしたのです」
「それと同じ事を言っていたのが、あのJF党でした。今回と同じ事件を起こした、第三次大戦の最大の原因である存在の、JF党と」
「へえ」
JF党。
その名前を聞いてもまともにリアクションを取らない拓海に、五十路の叩き上げ警官は本格的に絶望した。移民とか以前の問題だ。
「この町がなぜ安全かわかりますか?」
「男がいないからでしょう」
「話を聞きなさい。かつてのJF党事件のおかげさまです。それにより町民たちは安全について考えるようになり、より世界を平穏にするべく動くようになったのです。
あくまでも、表に出す事もなく。数多の犠牲者のために」
JF党によるテロ事件—————いわゆる第三次大戦において、この町はかなりの死傷者を出した。それに伴い町民の安全意識も高まったが、そのJF党の首謀者たちが揃って処刑されてからは犯罪もぐっと減った。
「JF党の政策はあなたたち正道党と酷似していました。
男性への攻撃、町の拡張、文化の矯正……このような政策を見れば支持しようとはなりません」
JF党は町の拡張と男性の好む退廃文化への攻撃を呼びかけかなりの議席数を獲得したが、その時の選挙で僅差ながら敗北で終わったのと内部告発で女性を決して男にとって扇情的な存在でなくすための衣装と言うか町民用の制服まで用意する計画まであった事が露見し、さらにそこから支持が離れ出した所からの内部告発者殺害を含む連続テロによって完全に政治生命を失った。だがそうなってなお残党たちが必死に抵抗を続け根絶するのに町長認定で一年かかった。しかしその後も残党によるテロ行為は絶えず、結局完全根絶宣言が出されたのは二年後だった。
「私たちは違います」
「違いません」
「違います」
何があっても噛みついてやると言わんばかりの狂犬ぶりは、もはや黄川田の予想すら超えていた。
JF党の名前を出してもひるむ事はなく、逆ギレと言うより順ギレ。決してひるむ事はなく、目の前の相手を自分たちの支持者にしてやろうと図っている。
「朱原も虎川も既に罪を認めました、自分たちの政策がJF党のそれと酷似している事も認めた上でそれでも飛びついてしまったと言っています」
「ああそうですか」
「ここで素直に罪を認めた方が、心証もいくらか良くなりますよ」
「罪って何ですか、自分たちの政策を伝えるために各地で爆発を起こし、管制塔を強引に奪った事ですか?それなら罪ではありません。巻き添えの被害者にはお詫び申し上げますが、だとしても素直に賛同してくれれば良かっただけです」
「わかりました。ではしばらく収監となります」
結局、取り調べのプロをして会話を放棄するしかなくなった。
本当なら机の一つでも叩いてやりたいが、それをやった所でどうにもならないのが簡単にわかる。彼女に必要なのは何か。おそらくその答えを黄川田達子は知り、その上で自分たちの仲間に引き込んだ。
もちろん警察とて、海藤拓海の事は知っていた。
二十数年前、外の世界の穢れ切った男により一年間人形扱いされた過去。それから中学時代の事件、就職後の彼女の境遇とこの町に来た経緯。
だが、それはそれ、これはこれなのが警察であり行政だった。
あくまでも犯罪者として、最大級の犯罪者として裁かねばならない。党首の黄川田達子の代わりなのがほんの少しだけ心苦しくもあったが、いずれにせよやらねばならぬ。
「裁判まで時があるからね」
そのついでに、彼女の関係者を調べるようにと言う依頼もこなさなければならない。
私的ではあるが、それでも必要不可欠だと依頼者が信じてやまない行い。その役目に駆り出される事となった警官たちは少しばかり不安ながらも、同時に楽しみでもあった。
その程度には、人間は意地の悪い生き物である。
この作品はもう一歩で完結します。
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