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女性だけの町  作者: ウィザード・T
最終章 望むべき回答
120/136

さようなら、お気楽さん

さらに暴力描写は過激化しています……。

 もし、○○なら。もし、○○だったら。


 そんなたらればかもならの事例は枚挙にいとまがない。


 もしあの時ああしていれば、ああしなかったら——————————。


 そんなありふれた話の一種でしかない。


 そのはずだった。










「何が起こったんですかぁ!」

 その日、彼女はあと少しの勤務を完遂しようとしていた。

 退職願を提出し、引継ぎを含めたあと十数日の勤務と余っていた有給休暇の申請を行い、ほどなくこの管制塔を去る予定だった。だからこそ、本来来ないはずの昼間にやって来て、上司に書類を提出したのだ。

 そんな最中に起きた、突然の爆発音。退職願を受理した上司に何があったのかと問い詰めたくなった彼女だったが、その上司さえも首を横に振りながらおびえていた。


 これは一体何事だ。今すぐ逃げ出したい。でもどう逃げたらいいかさえもわからない。今彼女がいた階こそ四階だがそれでも階段及びエレベーターからは非常に遠い部屋であり、一つしかない出入り口まで行くにはかなり時間がかかる。ましてやこの爆発音が何なのか、彼女も上司もわからない。

「とりあえず連絡を!」

 二人は電話で警察に連絡を入れる。それだけでどうにかなるかどうかわからないが、こうなったらもう事態が解決するまでは静かにするしかない。幸いすぐ駆け付けますと言う言質だけは取れたが、まったく安心などできない。

 なぜなら

「それがここだけじゃなく、あちこちで似たような事件が起きてるって」

「爆破事件が!?」

「いや、爆破事件を含むテロ事件が、あっちこっちで。漁業区では漁師の女性が殺されたって」

 と言う状態で、警察全体がてんやわんやなのである。偶発的と呼ぶにはあまりにも用意周到で、あらかじめこの日を予定していたかのような行い。


「これってもしかして…」

「ええ、JF党の」

 そこまで二人が言った所で、あらかじめ閉めていたドアが鳴り響いた。手で押す音ではなく、足で蹴り飛ばすような音。明らかに、まともな侵入者のそれではない。

「窓から…」

「無理よ、この窓はめ殺しだし、しかもここは四階よ」

「何か叩き割れる物って!」

「わかったわ!」

 二人は机を持ち上げ、窓ガラスに叩きつける。火事場の馬鹿力と言う訳か、何十キロ単位の机は床を離れ、ガラスにすごい勢いで叩きつけられる。

 その一撃が実ったか、ガラスは粉砕こそされなかったが大きくひびが入り、文字通りの致命傷と言う体にまでなった。

「でもこれって」

「いいの!確実にこれはただ事じゃないから!死ななければいいの!」

 覚悟を決めた上司に付き合うように、ほどなくこの場を去る予定だった彼女は観葉植物の植わった鉢を持ち上げようとした。数年間、キーボードをたたいて過ごして来たとは思えないほどの腕の力で、その力を見せる気でいた。


 バキィ、ダァーン!


「ひゃあ!?」


 だが、寸刻の差があった。


 ついにドアが耐えられなくなり、銃を持った人間たちが乱入して来た。その人間が放った一発の銃弾が、彼女の上司の胸にめり込む。その衝撃により上司は吹き飛ばされ、自らの手で粉砕しかかっていた窓ガラス共々地面へと向かった。



「な、なんて、事を……」

「この義挙から逃げるなど、それこそ女の敵のする事だと思うけど?神林さん」

「義挙、って……!」


 上司を殺したも同然の犯人に向かって吠えようとした女性、神林と言う名の女性は自分の名前を呼ばれた事に動揺し、そのまま胸元に銃を突き付けられた。


「藤森、さん……」

「そう、私。私はね、この世界を変えたかった。あなたにも味方になって欲しいの」


 かつての同僚であった藤森。

 その藤森が、今こうして自分の命を奪いに来ている。


「ちょっと何が言いたいんだかわからないけど」

「私は昔、あの第三次大戦で家族を失った。母親も、祖母たちも。どうしてこうなったと思う」

「それは、その、えーと……」

「男たちのせいよ。男たちが私たちを傷つけなければ、そもそもこんな町は必要がなかった。私は、そのために管制塔の職員になった。男たち、いやオスたちと戦うために」


 決して激昂はしない。あくまでも冷静に、淡々と言葉を紡ぐ。この場に勤めている時と、ちっとも変わらない。


「藤森さんは私に何をして欲しいの?」

「あなたには私たちと共に、全世界中の女性を解放して欲しいの。少しでも女の尊厳を踏みにじるような存在あれば、すぐさま滅ぼせるようなシステムを」

「居酒屋のメニューは何がいい?」


 神林がこんな事を言ったのは、挑発と言うより逃亡、いやある意味決意だった。

 藤森がどんな夢を抱こうが勝手だったが、自分にとってはそれより将来の自分の方が大事だった。


「私はね、居酒屋のオーナーさんと交際して、平々凡々に生涯を送りたいの。藤森さんがどうしようが構わないけど、私はあなたの夢と一緒には過ごせない。だからはやくどいて」

「………………あなたのサボリ癖は天性だったようね」


 もっとも、相手はそんな居直りが通じるほど頭の柔い相手でもない。

 その事を一緒に過ごしたくせに忘れる程度にある意味芯の通っていた神林の運命は、この時決まっていた。




「来世では、バリバリ働きなさい……」




 藤森の手により、神林の夢は永遠の夢となった。

 居酒屋の店員としてオーナーと結婚し、二児の母となり、娘や孫たちに見送られながら死ぬと言う彼女の人生設計も、全てが夢になった。


 藤森の流した涙は神林の遺体に当たらず、両足の間に落ちる。そしてため息はその涙を乾かし、血を固めた。

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