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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第十四章 失望の反動
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党からの追放

 それから連日開かれた議会により、予算は固まって行った。


 民権党の意見が反映された予算案に少しずつ女性党の色が混ざり、さらに地域住民や誠心治安管理社と言う名の大企業の後押しを受けた議員たちがそれぞれの色を垂らして行く。

 そして二大政党はおろか誠心治安管理社とのすり合わせも何もない正道党は、一滴を垂らすのさえも苦労している。


「我々は!いずれ来たる拡張の際に盾となる警察官、及び管制塔本体の職員たちへの待遇改善を求めます!」

「では民権党の」

 一〇〇分の一の朱原がいくら激しく声を上げようとも、その声は届かない。町の一番肝心な部分が民権党と女性党と言う旧来の政党によって決められて行く。

 幾度もそんな事が繰り返されるたびに話は固まり、来年度に向けての新たな歩みが始まろうとしている。


 そしてその度に、朱原の機嫌は斜めになって行く。藤森さえも目を合わせなくなり、清掃人たちさえもこわごわしている。

「どうもお疲れ様です」

 言葉面では丁重を装っているが歩きは大股、誰にも目もくれずに議場を出る様は文字通りの不機嫌であり、日が経てば経つだけ程度が深くなって行く。







「町を拡大します、警察官を増やして安全にします。それでこっちのご機嫌を取ったつもりなんでしょうかね」

「そのつもりかもしれませんね」

 午後五時、夕日が主張し始める時間に議員宿舎に戻った朱原は、いつも通りその機嫌を持ち込んだまま黄川田に電話をかける。その機嫌のまま言葉を並べ、またいつものように黄川田に賛同してもらう。そうしてもらう事で気分がほぐれ、いくらか楽になる。明日は休みと言う事もあり、いったん本部に戻って黄川田に癒してもらうつもりだ。


(自分たちはこんなにも正しいはずなのに。なぜわざわざ間違いたがるの?なぜわざわざ、町を危険にさらそうとするの?)


 決して、既得の高所得者層を嫌っているつもりはない。だが自分たちがいてこそ、町の健全な往来と安全は守られるはずだ。

 それほどに高貴な存在であるはずなのに、なぜ誰も彼もやる気を見せないのか。

 藤森から神林以下多数の怠惰な人間の愚痴を聞かされた時には、何べんでも何べんでもうなずく事ができた。入町管理局とてそれは同じであり、朱原は自分が十働いている間に他の人間は五も働いていないと思い、その度に内心でいら立ちを膨らませた。

 もちろん清く正しい人間である彼女はアングラエンタメ施設になど通う事もなく、仲間たちとの高尚なおしゃべりによってその不甲斐なさを晴らしていた。同じ気持ちでいた、仲間たちと一緒に。



 そんな時に出会ったのが、黄川田達子だった。


 ある時たくさんの仲間と共にやって来た彼女は自分たちの不満を受け止め、素直に聞いてくれた。いきなり現れた時には警戒もしたが、いつの間にか受け入れていた。なぜ自分たちが冷遇されねばならないのか、こんなにも高尚な仕事をしているはずの自分がなぜ軽視されるのか。いや、なぜこんな高尚な仕事を皆進んでやろうとしないのか。

 確かにパッと見の求人倍率こそ馬鹿高いが、いざ入ってみるとその事に安心してだらけている人間が多い。多すぎる。

「この町を女性だけの町から女性のための町にする、それこそが真の目的のはずだと言うのに……再び、無理解な男たちの恐怖を感じねばならぬのかもしれませんね」

 そのために町を拡充し、その分だけ危険性を高めればみんな目を覚ますはずだ。そう幾度も言われ、やがてすっかりその気になっていた。

「明日もまた頑張ります」

「どうかよろしくお願いいたします」

 朱原は電話を切り、深くため息を吐く。


「そう言えば武田さんは……」


 そんな彼女の頭に次に入ったのは、武田だった。

 かつて議会が始まる前の騒動で中枢部から疎遠になっていた彼女が選挙区内で政治活動をしているのか、朱原は知らなかった。龍崎と虎川にも聞かなかったため本当に何をやっているのかわからない。

 藤森と一緒に、未来を創ろうと五人仲良く語り合って来たのに。あっという間に当選確実が出て、五人仲良く法案を通過させまくる予定だったと言うのに。

 一方で、正道党議員・達川美津子の文字はない。達川美津子自身が既に離党届を書いている事も、二大政党に満たされない物を感じ新たなる果実に飛びついた自分の愚かさを嘆いている事も、朱原は知らない。

 改めて電話を握り武田を呼び出そうとするが、「おかけになった電話番号は」と言う音声しか来ない。もう一度黄川田にかけようかと思ったが、目的を伝えられる自信がない。あの時以来秘書の海藤が武田を毛嫌いしているのもあるが、それを怠ったのは単純に不注意だし、情けなかった。だがなぜ武田の携帯電話のスイッチが入っていないのだろうか。まだ仕事を終えるには早いはずだ。話し中にしても誰と何をしているのかわからない。そんな事を考えながら虎川への呼び出しをかけようとすると、耳にかけようとしていた電話が鳴り出した。


「もしもし、海藤拓海です」



 ————————————————————海藤だった。



「朱原です」

「武田がこの町に男を連れ込もうとしていました」







 その海藤が、朱原の意識をいっぺんに停止させる爆弾発言を投げてよこした。




 当然の如く被弾した朱原が再起動するまで、三分の時を要した。

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