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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第十四章 失望の反動
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正道党の惨敗

「町議会の招集は」

「明後日です」


 正道党事務所は、集団葬を行う直前のような空気になっていた。


 黄川田達子を含め一〇一人の候補を注ぎ込んでおきながら、議席はわずかに二つ。うち達川美津子はこの二大政党制同然の中で無所属議員と言う貴重な立ち位置であり続けたほどの強者であり、実質一議席と言っても過言ではなかった。

「私はどれほどの事ができると言うのでしょうか」

 その一議席を獲得した朱原も、まったく迫力のない顔をしていた。朱原が選挙で獲得した得票率は、わずかに四十五%。民権党と女性党の混戦の隙を突いただけとでも言うべき数字であり、真に支持を得たとは全く言えない。

 達子や朱原、海藤拓海などお互いが目で合図し合うばかりで、誰も次の言葉を紡ごうとしない。お前がやれよと言う言葉が部屋中を飛び交い、責任の押し付け合いが始まろうとしている。

「二人でも議員は議員ですから」

 やがて武田が言葉を発するが、そこに集まった視線はちっとも温かくない、なぐさめ以下の気休めでしかない文句であり、一〇〇議席獲得を目標としていた政党の現状としてかけらもほめられるそれではない。

 ついでに言えば町長選及び選挙区における総得票率も2.3%。議席数にふさわしい得票率である。


「なぜこんな事になったんでしょうね」


 達子は武田から目を反らしながら、そう大げさに嘆いて見せた。あの午後八時から何べんも何べんも飽きずにやっているし、誰も飽きる様子がない。達川美津子でさえも幾度か嘆き節をこぼした事もあったほどに、飽きの来ない遊びだった。


「外の世界では女性たちが男たちに搾取され続けているか、幾度も訴えたつもりだったのに……」

「具体例を出すべきだったと」

「出せるわけがないでしょう。あんな淫乱な性欲の塊。最終的には根絶するのが目標である事を忘れたのですか」

「それは…」

「わかっています。あるいはあなたから一冊融通できないかと思いましたが無理でしたね。そして勝つためとは言えあなたにも無理強いさせる訳に行きませんでしたね」

 かつて泉と言うシェフの教習も行った追放教習所の職員もまた、正道党から出馬して落選していた。彼女はその商売上搾取者たちが好む存在を記した本を持っていたが職務規定の関係で持ち出しはできず、また元書店員の候補も同様にくすねる事などできなかった。

「ルールを守って戦わねば誰も付いて来ない……そうですけどね」

「ええ……」

「その結果がこれでは…………」

 ルールに基づいて勝ってこそ意志を通せる。そのはずだった。

 そのルールに従い、意志を通したはずだったのに。

「どうしてこうなったんでしょうか……」

 なぜ、負けたのか。


 彼女らの話は、一向にそこから進まない。



「あの大戦以来、ずっと民権党は政権を独占しています。町民の意志を全く顧みていません」



 最高責任者がそう言うと、空気は一気に温まった。


「そうです。政権と言うこの世界でトップクラスに甘美な果実を、民権党は独占しています。それではやがて民権党は腐敗し、この町その物を腐らせます」

「それは困ります!」


 拓海は甲高く叫びながら背筋を凍り付かせる。

 政権与党の腐敗は町の荒廃を招き、住人の不幸を招く。この町からもう二度と出る気のない拓海にとっては一大事だった。

「そのために野党がいるのです。例え政権を奪えなくても、おごれる支配者に常に警告を発し続け、失政や醜聞あらばすかさずそこを突く。それは野党の仕事です。それなのに…………それなのに!」


 達子は少しだけ溜め、右の拳を叩き下ろす。テーブルが激しく揺れ、達子の感情を部屋中に分散させる。

「女性党も女性党で実にふがいない!今回の選挙は政権獲得の可能性も十分に秘めたダブル選挙であり、民権党の失政を付けば不可能ではなかったはず!それなのに結果は二議席の減少、いや減少はともかくわずか二議席の変動!これこそ、全くやる気のない何よりの証拠です!」

 民権党の暴走を止められなかったのは悔しい。だが正道党だけでなく、女性党すらできない。

「あるいは現在の議席を守る事にきゅうきゅうとしていたとも」

「かもしれません。だいたい全選挙区に候補者を出した以上、一〇〇議席当選を狙うべきもの、五十議席とは二の句が継げませんでした。その結果があれでは、もはや野党の資格すら怪しい物です。そして、誰がこんな事をさせたと思います?」

「誰が……」

「他ならぬ、町民です。政治に無関心で思想を持たない、お追従だけが取り柄の人間たちです」

 拓海の相槌に応えるように、右手の中指と人差し指を突き出す。二本の指で場の全てを支配した達子は、これまで進めてきた話をさらに前進させるぞとばかりにさらに勢いづく。


「かつて数多の男性が、莫大な権力を盾に世界を苦しめました。

 その男性悪の極み、独裁政権を生み出したのは一体何か。

 それは他ならぬ、政治的無関心です。その病巣はどこにでも巣食い、自家中毒として人々をむしばみます。その結果として、何をやっても言われないから好きにやっていいと言う免罪符を得てしまえば、暴走しないはずがないのです」

 民衆と言う名の権力者、監視者がその任を怠れば為政者は暴走する。


 ——————————今は、その状態に向かいつつある。


「だからこそ、独裁を止めねばならないのです。速やかに。男性悪を踏襲しない前に!」


「女性にも、独裁者はいます」


 そうして場が温まっていた所に、水をかけに来た女性がいた。




 武田である。

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