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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第十三章 選挙の時
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選挙の日

 運命の日まで、あと○日。そんなカウントダウンが、テレビではくどいほど流されていた。

「今回は十二年に一度の町長・町議のダブル選挙となります。皆さん、町のために、あなた自身のために、ぜひとも一票を!」

 そんなキャッチフレーズもすっかり頭に染み付き、子どもたちさえも連呼していた。



「是非ともその日は、皆様の一票を!」

「皆様のご遺志をお示しくださいませ!」

「どうか、どうか我々正道党に力を!」


 民権党も、女性党も、正道党も叫ぶ。最後の最後まで、必死に世論の支持を取り付ける。

 そしてその間にも、庶民たちはじっと政党たちの動きを見極める。正道党は無論民権党も女性党も政策や候補者のアピールをしまくっていたためにそれなりに把握しており、個々人の思案の中でどの政党がいいか見極めていた。







「ふぅ……」

 石田友里恵は小さなマンションの中のテレビを見ながらため息を吐いていた。パートナーの意見は聞いていないが、実際こうやって数字を出されると気が重くなる。

「どうしたの」

「いや何でもないわ、それより今度の日曜日の約束、忘れてないからね」

「ありがと」

 娘の芽衣との約束を忘れる気はない。その日はパートナーと共に、娘の望みをかなえてやらねばならない。だが、それでも目の前の現状は、正直楽観的とは言えない。もちろん単純に財布の問題もある。富裕層ではない共働きの彼女からしてみれば、外食はなかなかの痛手だ。そしてそれと同じぐらい、自分が投票しようとしている党の支持率の低さに悩んでいた。


(婦婦であっても○○党を支持しろとか言えたもんじゃないわよね、みんなちがってみんないいって……)


 行きつけと言う訳ではないがあのゲーセンの店員と、個人的に仲良くする機会もあった。その際に選挙の話になり、その際に支持政党を聞いてからはますます仲良くなれる気がした。元々は管制塔本体の人間で今は体を壊してゲーセン店員となっていた彼女もまたその党の支持者で、立候補予定だったのが叶わず応援に回ったらしい。その彼女のためにも一票を入れたいが、あいにくパートナーはその気がない。と言うか、別の党の支持者だった。この子たちのために、何ができるか。

 その結果の答えを口にできない自分が、友里恵は少し嫌いだった。




「敦子さん……ちゃんと見た?」

「何をですか?」

「選挙のチラシ」


 漁業区では中年の女性が義母と共に三枚のチラシを囲んでいた。


「まあ私が云々言う事じゃないけどね、きちんと三人の政策をよく見ておく事だよ」

「はい…」

 三枚のチラシを一枚ずつつかむ彼女の手は、節くれ立ちながらも力強さを失っていなかった。第二次大戦の時からの生き残りは力強く、女性だけの町で純粋培養された嫁を見つめる。

「戦争は、言うまでもなく悲惨な事だよ。でもね、どうやって戦争が起きたかの理由については知らなきゃいけない。どうしても自己主張を通せなくなった時、無理矢理にそれを通そうとするのが戦争って奴なの。思えばあの時もね、その下地はできてた。あの時もし選挙で彼女たちが勝ってたら、今頃この町は大変な事になっていたかもしれない」

「JF党ですか」

「そう。あの時から選挙制度は今の方式になった。いっぺんに無茶苦茶な事にならないためにもね」


 ちなみにこの時JF党が食い荒らしたのは女性党の議席であり、戦後女性党が政権交代できる力を持てなくなったのもこの時の打撃から立ち直れていないからだ。

「まあね、選挙がどんな結果になろうが受け入れる事ね。それが民主主義のお約束なんだから。選挙に行かないって事はどうなっても構わないって事、わかるでしょ」

「はい……」

 義母の言葉に首を縦に振りながら、敦子は三枚のチラシを改めて眺めた。自分の一票を、どう使うかを全力で考えながら。




「いよいよだな」

「そうね、明後日ね」

 さて、都会のマンションでは婦婦が子どもを抱きながら明後日の事を思い合っている。

「この子にはまだ早いけど、それでもサービスはしっかりしてるからいいわよね」

「そうだな、あたしも思いっきり食えそうだしな」

 明後日の昼は、豪勢なレストランでディナーを堪能する事になっている。子宝を謳う町だけに子ども向けのサービスも充実しており、赤ん坊連れでも文句は言われない。と言うより、文句を言う事自体がサービス業としての資格を問われる事態でもある。もちろんモンスターカスタマーも生まれたが、そのほとんどが第三次大戦の前に消え去っている。

「そんで、お前もう決めた?」

「決めた。で、今からこっそり教え合わない?」

 婦婦は三枚のチラシをテーブルに置く。ベビーベッドですやすや眠る我が子に安堵しながら、二人はいっせーのせで右手の人差し指をチラシに突き出す。

 そして二人とも同じそれを指した事に笑い、婦婦のきずなを確かめ合う。

 薫と静香は、とても幸せだった。

作者「「ザ☆ピース」って知ってる?あ、古すぎる?」


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