返答
慶透に助けを求めると、諫められてしまった。
当然のことではあるが、いきなりのことでうまく考えることができない状態をどうにかすることができない。
(炎陽と、結婚?嫌なのかと言われると別にそうでもないけど、じゃあいいのかって言われると不安になる。結婚なんてずっと先の話だと思っていた)
「公清、君は炎陽のことをどう思う?」
慶透が優しく問う。
「私は、炎陽のことを――」
どう思っているだろう。
「――たぶん、好きだと思う」
「たぶん……」
炎陽が何とも言えない顔で繰り返す。
「その、好きだよ、ちゃんとね。でも、炎陽のいうことに繋がる好きかは、わからない。
楽平も、賢奨も好き。二人は友達だけど、友達として好きだからといって好きって感じ方が一緒な訳じゃない。だから、二人と同じ形の好きなのかって考えても、そもそも二人に対する好きって感じ方が違うから差異を出せない」
「ややこしいやつだな」
「別にいいでしょ」
炎陽は緊張が少しとけたようで、普段に近い態度になる。
「じゃあ俺のことがどういう風に好きなんだ?差異なんて考えなくていい、お前は俺をどう捉えている?」
「炎陽は――」
最初は五家の子息、それ以上でもそれ以下でもなかった。朋泉である慶透に挑発的に絡んできたし、八つ当たりされたらどっちかというと悪い印象だったかもしれない。
けど、最初の試験以降は気さくに話しかけてくれたし、からかわれることも多かったけど、当時はどうしようもなかった私の術の修業にも付き合ってくれた。彼に励まされたこともあれば、悩みを聞いたこともあった。
「強くて優しい人だと思う。努力家だし、真っすぐだ」
「ありきたりだな」
「文句あるの?正直に言ったのに」
「冗談だ。嬉しいよ」
炎陽は口角を上げて笑う。そしてがっしりとした大きな手が私の頭を撫でる。ちょっと乱暴で、髪が乱れる撫で方。今は結んでいるのでそこまでは崩れないけど。
「炎陽は、いつもそうだ」
「何がだ?」
乱れた髪を手で撫でても、本当にわかってなさそうな炎陽は首を傾げるだけだ。様子を見守っている慶透の眉が少しだけ上がっている。
「慶透は、特別。朋泉だし、存在を感じるととても落ち着く、安心できる。
それと逆の意味で、炎陽も特別なのかも」
「俺が?」
「炎陽はいつだって、私を乱す。髪もそうだけど、からかったり、好きと言って態度を急に変えたり……」
「そう聞くと俺は中々に嫌な奴だな」
「嫌じゃないよ。炎陽の行為から悪意を感じたことはないし、それが却って私を救ってくれることもある」
あの時。魔が暴走して、深が目の前で倒れて、自分ではどうにもできなくて、ただただ落ちていくしかなかった中で、炎陽は私を助けてくれた。魔に侵されてつらかったはずなのに、顔だって真っ青だったのに、笑って、いつもみたいにからかうから、そちらに気を取られて、暗闇を見失えた。
「うん、炎陽には心乱されてばかりだ」
慶透は私を振り回しはするけれど、彼といて心が乱れることはない。彼は私を自身の一部だと思って彼の意の向くままに動く。
炎陽はそれこそ私を振り回す慶透を呆れた目で見るけれど、私を動かすためにわざとそのための言動をとる。
困る時もあるけれど、恥ずかしくてどうすればいいかわからなくなってしまうというほうが近い。
「お前、それは――」
炎陽が私の頬に触れる。その手がいつもより少し冷たく感じた。
「はあ、反則だ」
炎陽は急に私の両頬をつまんだ。
「何するの」
軽い力だったので、引っぺがして頬を抑える。
「そんな変な顔してた?」
「ああ、目を疑うほど綺麗な微笑みだった」
思わぬ言葉に、顔がぼっと熱くなるのがわかる。
「今度はかわいらしくなったな」
「な、な、なに言って!」
からかっているくせに、優しい眼差しに、また頭が混乱する。その内に炎陽にまた顔を両手で挟まれてしまう。
「そんな顔しておいて、俺を好きと言ってくれないのか」
「言ったでしょ!」
「たぶん、な。楽平や賢奨に対する好きとの差異もわからない、と」
「後でちゃんと言った」
「ああ、お前は楽平や賢奨――そして、慶透にだってこんな反応はしないな」
やけに嬉しそうな炎陽は、そのまま私を抱きしめた。
「こんなことしてくるの、炎陽だけだよ」
「そうかもな?では、他の人間がこんなことをしたら、お前はどう思うんだ?」
楽平や賢奨はこんなこと絶対しないし、慶透もそう。可能性としては朗妃と堅玄はするだろうけど、朗妃は普段の延長線のようなものだし、堅玄こそ通常運転だ。
もし、他の、例えば大して親しくもない人だとしたら……たぶん、こわいし嫌だ。
「そうだね。恥ずかしいけど嫌じゃないのは、炎陽だけかも――うっ」
腕の力が強くなって息が漏れた。と思ったら急に拘束から解放される。
「公清に好き勝手し過ぎだ」
慶透が炎陽の腕の中から救い出してくれたらしい。
やっぱり、慶透の傍はとても落ち着く。
「いつも好き勝手してるのはお前の方だろ」
「私は彼女の朋泉だ」
当然だろうという態度は流石慶透である。
「まあいい、俺も浮かれて本題から逸れてしまった」
炎陽は一つ咳払いすると、真面目な表情に戻った。
「公清、俺と結婚してほしい」
言っていた。これが最後なのだと。今後はもうないのだと。
私は炎陽から引きはがす時から肩に置かれたままの慶透の右手に、自分左手を重ねた。
(大丈夫、私は落ち着いている。炎陽にきちんと向き合って答えを出せる)
慶透は優しく左手をその上に重ねてから、私の手を元の場所に戻してくれた。そして、そのまま背中を押すように彼の手を私から離した。
「まだ、そうしたい、とは言えない。
それでも、炎陽にそう言われて嫌だとは思わないし、炎陽となら結婚してもいい、とは思う」
『俺はお前と結婚したい。お前はそうしたい――までは行かずとも、そうしてもいいと思うのか、嫌だと思うのか、それが知りたい』
炎陽の言葉に甘えた、逃げに逃げた答えしか出せないけれど、これが今の私の気持ちだ。
「炎陽、そう言えるくらいには、私は君のことが好きだよ」
言い終えない内に、私はまた彼の腕の中に収まっていた。
続きます。
次で最後です。




