表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/75

あちら側と留家

 「さて、本題だ」


 仕切り直し、とでもいうように炎陽は握っていた拳を解き、背筋を正した。


「夏季休暇初日の魔の山の実習で、学生が数人行方をくらました。茨塊と理雪りせつだけじゃない」

「どういうこと?」


 てっきり茨塊と深だけだと思っていた。あの場にいたのは二人だけだったというのもあるが、そもそもあの場で姿を消してどうなるのだろう。茨塊はあちら側に行くと言っていたが、それにしてもあの場所は人が住めるような場所ではないはずだ。


「何から話せばいいか。こういう説明は俺に向いていないな。

 まず、今回消えたのは学生だけではない。その親、家ごと消えている。泉師学校に通う子どもがいない家や泉弟の学校に通っている子どもがいる家もだ。集団が計画して実行したことだ。この話は先にされていないか?王家に反対する勢力だ」

「それは知っている」


 私を狙っている、と師匠が言っていた。


「ではなぜ、彼らが王族を厭うかわかるか?」

「それは――」


 知らない。


「今の王家は()()()()()というのだ」

「正しくない?」

「血筋的には正当なものだが、在り方が歪だと。お前も知らされたのだろう?かつて、りゅう家が存在していたことを」


 茨塊が言っていたことだ。慶透も知っているようだった。


『留家は滅びた』

『そう、六百年前にな。当主が死んで、()()()()の者も反逆の罪に問われたからだ』

『やはり、()()()()の人間か』


 二人の会話を思い出し、あることに気づく。


「もしかして、魔の山の向こう側には、人が住んでいるの?それが留家?」

「そうだ。もともと知られている話はこうだ。神が地上を二つにわけ、あちら側は魔の巣窟となった。それからしばらく経ち、こちら側で不思議な女性が見つかった。魔獣を飼っていた女がいたのだ。()()、と呼ばれたその女は当時の留を足した六家ろっかに王宮へと呼び出された」

「王宮に?」

「ああ、その時代はそうだった。

 魔女は特に身寄りもなく、麗家に引き取られることになった。どちらかというと監禁、だが、危険な力を持っている以上、自由にはできなかった。

 王は六家とも話し合い、あちら側の調査を行うことにした。魔女がいるのであれば、あちら側の魔も抑えられるのではないか、と。当時の導師どうしは留家の者で、その者が指揮を執ったが、あちら側で反乱を起こした。魔女を利用して、魔の山の魔獣をもってしてこちら側を攻めようと企んだのだ」

「そんな話は知らない」

「家格によって伝わる話は違うのだろう。当時まだ雪家が門衛もんえいであったなら、この話はもみ消されている。反乱を起こし、留家が潰れた、そう伝わっている。それももう何百年も前のことだ、わざわざ語り継ぐことでもない」

囲山いさん以上は知っているんだね?」

「そうだ。話が継承されていれば今もな」


 炎陽は肯定した。


「留家が潰れたのは間違いない。導師は元当主だったから、派閥ごと反逆の意ありとみなされた。留家はもちろん、その周りの家の者も罰を受けた」

「だから王に逆らう?」

「ああ。導師は反逆の意志などなかった、それは我々も同じだ、と何度も訴えたが王は聞き入れなかった。向こう側で起きたことに王は関わっていない。泉族のみが向こう側に行ったからだ。向こう側では混戦状態であまり状況を理解できていなかった者も多いが、魔に降伏して導師の気が触れた、という話も上がった。しばらくは大人しかった魔獣が、急に襲い掛かってきた、というのは帰還した者が口をそろえて言っていたため、魔女が関わっているのは必然であり、あの場で一番力のあった導師が戻らないのはその魔女を操っていたからだと言われている」


 よく考えてみればそうだ。導師は泉族の中で最も優れている。こちら側に戻れている者がいるのなら、導師も戻れるくらいの状況だったということだ。それでも戻らなかった。


「魔に侵されたのか、もとよりそのつもりだったのかは知らないが、導師が魔を利用しようとしたのなら、それは大罪となる。その通りだが、当然、納得できない者もいる。こちら側に残された者たちだ。留家と親しかった者はもちろん、あちら側に渡った家族が帰って来なかった家もだ。当時は何も手がかりがなかった。それが不思議なことに、数十年経って、証言を覆す者が現れ始めた。あちら側で起きたことは反乱ではなかった、と。王の判断が間違っていたとも捉えられかねないことだ、詳しく話すことはなかったがそういった曖昧な話が出てきて、元留家の人間は真相を探り始めた。銀家も、向こう側の争いで多くの者を失くし、調査に協力したという」

「それは、いいの?」

「銀家は特別だ。どの家が導師になろうとも、泉族を指揮する立場にあるのは銀家だからな」

「その調査で、何がわかったの?」

「何も」

「え?」

「何も、わからなかったそうだ」


 もしかしたら、と真実を探しても見つからなかったというのは、酷な話だ。


「だから余計に、王家を恨む気持ちが強くなったのだろうな。反逆が起きたというのは泉族たちの証言のみで、反逆ではないというものもいる中で、結局真相はわからなかった。残るのは留家が潰れたという事実だけだ」


 半分逆恨みにも近い形だが、処罰の与え方がもっとあったのではないかという思いもあるのだろう。


「留家の存在は王家にとっては邪魔だったから、というのもある」

「泉族と王族なのに?」

「そうだ。それも、正しくないと彼らが言う一つの理由だ。

 神々が地上と交流を持っていた時代には、預泉家と王家――正しくは神代主しんたいしゅという二つの存在で国が成り立っていたのだという。神代主はその血で神を地につなぎ、預泉は泉を守ることで神の力を地上につなぐ。そういう仕組みだったのだ。

 世の理が変わり、神は地上との繋がりを絶った。だから神代主という役目はなくなった。その中で唯一のこされた神代主の一族が今の王族だという」

「今の認識だと、王と導師が同じ位で、五家はその下、という感じだから変な感じだ」

「本来ならば王と五家は等しい立場だ。それでも分かれていた国が一つになることで、家を越えた泉族としてのつながりが必要になり、導師という存在が誕生した。それに合わせて王が導師の下になることがないよう、実際は五家と等しい王が見かけ上は導師と等しい立場になるように泉族が配慮した。

 まあ、導師も泉族の代表といった立場で、実質的な権限があったわけではない。そういった役回りは銀家に任されていたからな」


 炎陽が語るのは、遥か昔の話だ。長い時間の中で人が変わり、当たり前が当たり前ではなくなって、認識が変わり、徐々にその名の持つ意味も変わっていったのだろう。


「もともとは王と泉族は等しかった。ではなぜ今、泉族は王の元に仕えているのか。泉師が、王を主とするのは何故か」

「王が、ぎょくを持っているから」


 私もその力を身を持って知っている。あの加工された玉は、泉族にとって天敵だ。


「そうだ。何故王族が玉を持つ?玉は見目も美しいが、その性質から泉族にこそ価値のあるものだ。泉力に作用するのだから。

 たしかに王は泉族を、泉力を封じる手段を与えられた。それが今の国宝だ。泉族が地上を支配しないように、そうなった場合に抗う立場として与えられた唯一の玉だ。それが王家の使命でもあり、王家が設けられた理由だ」

「では今の玉は?王家はかなりの数を持っている」

「もとは、留家のものだった」


 茨塊が持っていた剣には玉がいくつも装飾されていた。どうしてそんな剣を持っているのか不思議だったけれど、もとは留家のものだったのならば納得できる。それを見て、慶透がどこで手に入れたのか訊いたのも。


「邪魔だった、というのはそういうことだ。結果留家が滅んで、王家が泉族の上に立てるものを手に入れた。真相がわからずとも留家を処分したのは、もともと王家にその気があったからだ。留家から奪った玉を用いれば泉族に対して大きく出られる。

 だがそれは留家が滅んだ結果だ。もともとの形ではない。神が定めた王家の在り方ではない。だから、王家は()()()()()のだ」


 私はもう王家が玉を所有しているのが当たり前の時代に生まれたから、そこに疑問など抱いたことはなかった。


「先程はなにもわからなかった、と言ったが、わかったこともある」

「わかったこと?」

「こういった話だ。それまでは誰も、どうして今の体制ができたのか知らなかった。その理由もわからなかった。

 地上は二つに分けられたが、それは何故か。神が怒ったからだ。どうして怒ったのか、花の子を傷つけられたからだ」


『今向こうにいる神は、花の子を大事に思っている。だからこそ、地上は二つに分けられたとも言える』


 師匠の言葉を思い出す。


「お前も知っただろう?花の子は泉力も、魔を操る力も使える。地上の理が変わった世界において、異質そのものだった。そのせいで迫害を受けることが多かった。それに耐えかねた神の怒りで地が別れたのだ」

「どうして神は花の子にこだわるの?」

「それははっきりとはわからない。杏澪きょうれい様はある程度の仮説を立ててらっしゃったが、おそらくは慶透が詳しいだろう、と」

「慶透?」


 炎陽は困ったように頭をかいた。


「あいつは朋泉にこだわるだろう?朋泉制度のもととなった物語は花の子と、その友、麗家の者の話だ。麗家で資料を漁ってたんだろうよ。銀家にはない書物も当然あるだろう。

 まあその物語が普及したのも、元留家や銀家のおかげだ。あちら側で起こった真相はわからなかったが、そこらを探す中で、神の怒りに触れた祖先たちが隠してきた話を知ることができた。本来ならば起こらなかった知識の空白が埋められたんだ。それも最近の話だけどな。

 主に銀家や麗家に残る資料をつなげて、その物語の元の話を辿ることができた。地上が分けられた時に同じく調べた泉族や王家は花の子に辿り着いたが、それがわかれば、その者達が犯した罪が露見すると資料を消した。だから正確にはわからないが、こうして花の子の存在は今、泉族の中で認識されている」


 それがなければ、私は生まれた段階で忌み子として殺されていたのだろう。魔女の存在自体は伝わっていたようだったから。師匠は、それでも私を助けてくれただろうとは思うけれど、ずっと隠れて生きていくことにはなったはずだ。


「元留家のおかげでもあるのか……ん?でも結局、留家は残ってたんだよね?あちら側で」

「そうだ。それを五家は知っていた」


 慶透の反応からしてもそうだろう。茨塊をあちら側の人間だと判断していた。


「花の子の存在については俺達が生まれる前からわかっていた。あちら側の存在に気づいたのはそれよりも最近だ。

 王家が玉を手に入れたのは六百年前。昔の国の制度や花の子については、ここ数十年でわかった話だ。そもそも六百年前から今まで、元留家の主張は気にも留められていなかった。だから王家が絶対的な権力を保持してきたともいえる。

 王家と留家の話を今して混乱を招くだけだ。今の導師である穣家が、十年ほど前、魔の山の調査に向かった。そこで向こう側で暮らす者の存在を知ったのだ」


 六百年もの間、あちら側で過ごせたのは驚きだ。あちら側は魔に汚染されている、というのは本当の話だろう。実際にこちらの魔の山もあちら側に近づくほどに強い魔獣がいる。倒しても湧いてくるのは魔獣があちら側からやってくるからだ。


「五家には報告が入ったが、対処については意見が分かれた。へき家や啓家はすぐに討伐しに行くべきだと言ったが、銀家が止めた。あちら側にいる者が反逆者だとは限らない、ということだ。六百年前の真相は未だにわかっていない。視察にいった穣家も、今のところこちらに向かってくることはないようだったからすぐに攻め入る必要はないだろう、ということだった。ただし、反逆の意志はある、という見立てだった。魔獣が襲い掛かってきたという」

「あちら側の者が操ったと?」

「そう見えた、と。そもそもあの魔獣だらけの場所で生きているのがおかしい。源泉もないあちらでは、泉族として適性があれども、その泉力を授かることができない。あちら側に花の子が生まれたか、何らかの方法で魔を操ることができる者がいるだろうと」

「たしかにそう考えても不思議ではない」


 魔の山にずっといろと言われれば無理だ。魔の山よりも魔が蔓延っている向こう側で生活を続けられるのなら、魔獣や魔に対しての対抗する力を持っていると考えた方が良い。


「とにかく、なんだ。今まででお前には何がわかった?」


 私がいちいち質問するから、炎陽が考えていた話の流れとずれてしまったのだろう。私はこれまでの話を整理してみる。


「ええと、六百年前に留家は反乱を起こして処分されたとされていたけどそれは真偽が怪しくて、あちら側に生きている人達がいて、それが留家の人間だって話だよね」

「そうだ。もちろん、全員ではないだろうが、時を重ねてほぼそうなっていると言っていい」

「それが一番新しい話で、それとは別に王家は正しくない、っていうのが元留家中心の調査で強く支持されてきた。これが数十年前?」

「ああ。ついでに花の子についてもそこで存在が知られ始めた。

 そこまでわかっていればいい。お前に起きたことについては食後に話す」


 気づけば随分と時間が経っていた。炎陽の言葉に、もともと空いていた腹を意識する。


「とりあえずは、飯だ」

ややこしくてすみません。

この辺の説明は後でもう一度出てくると思います。

続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ