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泉器を求めて

 炎陽えんようは思いを告げてから、距離を詰めてくるようになった。今までそれほど一緒にいることは授業以外なかったのに、授業時に近い席に座ってきて、休みの時間まで喋りかけてくるようになった。それに対抗するように慶透けいとうはいつも隣にぴったりくっついてくる。さすがに五家が二人もいては恐ろしいのか、楽平らくへい賢奨けんしょうはあまり話しかけてくれなくなった。ああ、そういえば私も五家の人間になったんだったっけ。

 賢奨はちらちらと視線を送って機会をうかがっているだけだが、楽平は何故か私を睨みつけてくる。でもそんな顔されたって私にはどうしようもないよ。私が移動したらたぶん二人ともついてくるし、一回そうしたら逃げたのは楽平の方だろ!と声を大にして言いたい。

 「君のせいで二人が手伝いを引き受けてくれなくなった」と先生たちには文句を言われるし、「その分君が働くべきだ。もう銀家の者だからな」と賢叡けんえい先生には授業準備を頼まれるようになってしまった。「あの窮屈そうな環境から救い出してやっているのだから、礼が欲しいくらいだ」と言われた時には「先生も冗談を言うんですね」とうっかり言ってしまい睨まれてしまった。どうやらその言葉は冗談でもなく本気でもなく、嫌味だったらしい。酷い。でもその冗談も手伝いにまで二人がついてくるようになってからは言われなくなった。流石に同情されるようになって、手伝いの頻度は落ちた。


「二年が始まって一月、お前と話した回数は片手で収まる」

「うっ」


 試験が終わるごとにある休日は五家の子息は家の手伝いに行くことが多い。慶透は毎回家に戻っていたが、炎陽はそうでもないらしく、二人と落ち着いて話すのは久し振りだった。ちなみに私は銀家本家筋ではあるが、当主代理の銀叡ぎんえいの家系が仮の本家となっているため(ややこしい)、そういった手伝いは回ってこないらしい。


「まあまあ楽平。いいじゃない、こうして話せるんだから」

「賢奨~!!」


 賢奨は穏やかな笑みで楽平を慰めたが、彼はむすっとしたままだった。


「別に!いいけど!こんなこそこそ会わなきゃならない関係ってなんだよ」

「こそこそする必要もないと思うけどね。楽平から話しかけに来てくれればいいじゃない」

「はぁ?!あんな怖い顔して睨みあってる慶透様と炎陽様の前に行けるかよ!公清がこっちに来てくれ」

「前行ったら逃げたの、楽平だろ?!あの時の私の気持ち、考えたことある?!」

「ぬあ!そのことについては悪かった!」


 楽平は申し訳なさそうに項垂れた。


「二人とも何やってるの。せっかくの話せる時間を漫才で終わらせないでね」

「「漫才じゃない!」」

「あはは、はいはい。ほら、準備できたら行くよ」


 二年の一月は復習のための期間だ。その後はまた新しいことを習得していく。そして、次の授業は泉術で、泉器せんきが必要になる。各家に代々受け継がれる泉器はあるのだが、学生が練習の段階で壊してしまうと大変なので、つくりの粗いものを授業用に買うのだ。

 私の場合はある程度の品でないと泉力を受けきれず壊れてしまうので、予め銀家から持ち込んだ物を使うのだが、せっかく慶透に泉器について教えてもらったのだから、二人に助言する立場でついて行くことにした。

 学校が休みということもあって、街は賑わっていた。泉器を使うのは泉族だけだと思っていたが、泉器を扱う店にはそうでない人も多くいた。


「泉器はお守りにもなるからね」

「お守り?」

「そう。魔獣が来た時に泉器があれば、泉族がそれを使えるから置いてる家もあれば、支持する家に泉力を定期的に注いでもらって、有事の時に一度限りでも使えるようにしてある家もあるよ」


 そういったことに関しては全く知らなかった。賢奨の説明になるほど、と頷いていると、楽平が嬉しそうに一つの泉器を手に取った。


「うわ!これ、すげーいいやつだ!」


 楽平が持っていたのは金色の石が飾りとなった指輪だった。石はぎょくほどではないが、高価なものである。それがついた泉器がこんな街中で売られているとは思わなかった。


「兄ちゃん、見る目があるな。そいつは綺麗なんだがよ、使い方がわからないって、売れ残ってんだ」


 泉器は泉力を使えば使用できるもので、基本的にわかりやすい形をしている。靴ならば移動に使うし、服ならば体の動きを補助する。服のように纏えばよいものは色々な効果のあるものがあるが、たいてはどういう用途で使うのか、種類別で売られている。指輪も服と同じで、一般的であるが、買わない限り試せないため、説明のないものは敬遠される。下手な買い物はしたくない、ということだろう。


「使い方がわからないのは困るなぁ」

「楽平、見せて」

「ほらよ」


 私は受け取った指輪の石をじっと見る。金色であれば、へきの要素が強い。もしかすると楽平には使いやすいものかも知れない。

 慶透が教えてくれたが、泉器は札のようなものである。泉力はそのままでは使えない。札を書くように、決まった効果を出すには決まった形を取らなければならない。


(ちらちら()()()のは基本要素だ。初めての札の授業で扱った、護符の基本形。「留」も入ってる。でもやっぱり壁が多い)


「たぶん、盾になったり結界になったりするんじゃないかな」

「な、見てわかるのか?!」


 楽平の手に戻すと、彼はびっくりした顔で私を見た。私もそこまでわかるとは思わなかったけど、見ているうちにどの要素が使われているのか、何となくわかったのだ。

 泉師せんしなどの高位の人は、他人の泉力がわかる。見える、匂いがする、などと言っていたが、これもそれと似たようなものなのだろう。見えないが、たしかに()()()()()()()のだ。


「何となく、そうなんじゃないかなって」

「じゃあ俺、これ買うよ」

「え?!確証はないんだよ」


 自分の感覚だけで、実際にそれにそういった効果があるかは、使ってみないとわからない。


「お前の言葉だけで十分だ。それに、見た目も綺麗だしな!」


 楽平はにっと笑った。それを見ていた店主は、面白がるように彼の頭を撫でる。


「いいねえ、兄ちゃん。まけてやるよ」

「いいんですか?!」

「いい、いい。買い手がつかなくて困ってたんだ。似たようなやつが他にもあってな。ほら、お前さんたちもどうだ?一個くらいなら安く売ってやる。選びな」


 店主は一度奥に引っ込んで、同じような指輪を持って来た。指輪の入った箱を賢奨と私の方に差し出してくれた。


「やったあ!ね、公清、私のも選んでよ」

「うん、もちろん」


 賢奨の指輪を選んだあと、お礼という形で私の分の指輪を二人が買ってくれた。泉器としては使えないかもしれないけれど、三人の思い出の象徴のようで、私は嬉しかった。



*



 学校に戻った時にはもう暗く、今日は慶透が長丁場だと言っていたので何の仕込みもしていなかった私は二人と一緒に食堂で夕食を取ることにした。


「あ、公清様!」


(公清、様?!)


 食堂に入ったところで、誰かに呼び止められる。声の方を見ると、黒帯の学生だった。顔は知っているので同学年だろう。彼は私と目が合うと、嬉しそうに駆け寄ってきた。


「不在中に、手紙が届いてましたよ」

「手紙?」


 普段なら各部屋ごとに分けられて籠に入っているはずだが。不思議に思いつつ、受け取る。


「ありがとう」

「いえ!」


 渡してくれた子が席に戻ったあと、とりあえず賢奨と楽平と席を取って、その手紙を眺めてみた。


「良い紙だな。封の紙ならもっと粗末でもいいはずなのに」


 楽平が横から覗き込んでそう言った。その言葉に、私は嫌な予感がする。同じく覗き込んできた賢奨も何となく察したのか、顔を青くした。


「どうしたんだ?二人とも」


 楽平は不思議そうにしていたが、私が裏を向けた瞬間に息を飲んだ。


「なっ!」


 食堂内の灯りにきらりと反射するものがある。そう、この手紙は玉を砕いたもので封がされていた。それを使えるのは、王族のみ。

続きます。

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