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初めての順位

 秋期も終了が近づいた今、授業も実戦重視になっていた。初めの一月は座学もあったのだが、それ以降は一日中山にいることが多くなっていた。


堅玄けんげん、そっちにいったよ!」

「任せろ、微光!」

「はい!」


 朗妃ろうひは体が小さいこともあって動きが俊敏で、魔獣を追い込むのが上手い。


「発動したらすぐに閉じる!」


 堅玄は結界術が得意で、器用にほんのわずかな隙間を残して結界を作ることができるし、その穴を瞬時に閉じることができる。


水浄矢すいじょうや!」


 そのおかげで、制御のきかない私でも術を使うことができるようになった。

 残った隙間に札を差し込み、泉力を流してから手を引っ込める。そうすると、真っすぐに魔獣に飛ばずとも、結界内で術が跳ね、その範囲を狭めていくことによって最終的に魔獣に当たる。

 術を吸収しないようにするのも、張った結界を縮めていくのも、堅玄でなければできないらしい。頑張れば慶透けいとうもできると言っていたが、精度はどうしても落ちるとのことだ。


「慶透!」

「ああ」


 慶透は全てのことが突き抜けて上手い。が、その中でも札と術が得意で、浄化の札にするりと泉力を流して魔の残滓を消し去った。


「完了ですね!」

「ああ、だが、まだだ。微光、あそこに動きの遅い魔獣がいる。いけるか?」

「任せてください」


 私は弓を構えて矢を番えた。無駄な力は抜いて、泉力を流す。相変わらず制御は得意ではないが、極端に多い少ないはなくなってきた。

 狙いを定めて指を離すと、矢は狙い通りの所に刺さった。


「おお!流石!あれほど大きいものでも、矢で仕留められるんだね!」

「朗妃!まだ弓を持っている時に飛びつかれると、危ないです」


 朗妃の飛びつきにはもう慣れたが、山中は足場が悪いし、手がふさがっていると受け止められない。


「離せ」

「はいは~い、慶透はいつまで経ってもケチだねぇ」


 ぱっと身体を離した朗妃の言葉には耳も貸さず、慶透は私の弓を背に戻してくれた。そしてその場から札を飛ばして、魔の浄化も終えてしまう。


「おい、微光!どういうつもりだ!」


 向こうから肩をいからせて炎陽えんようが歩いてくる。


「先に仕留められたからって、言いがかりはよせ。お前が遅かっただけだろう」


 炎陽がこちら側に辿り着く前に、堅玄が言葉を投げた。


(堅玄様、わざとでしょ……)


 私だって知っていれば手を出したりしなかったから、そんなすごい形相で睨むのはやめて欲しい。後ろの丈拳も困ったように私と炎陽を見比べている。


「ごめん、炎陽!次は気をつける」


 とりあえずやってしまったことに変わりはないので謝ると、炎陽が何とも言えない顔をした。それを見て朗妃と堅玄は声を上げて笑っていた。失礼である。

 と、まあ、このように冬の実戦に向けての演習は着実に進んでいた。

 そしてこの授業は三回の試験があり、その三回目の試験が今日だったのである。だから、一つ獲物を奪われた炎陽が怒るのも無理はない。けれど、私は今はそれほど気にならなかった。


(もうすぐ、師匠に会える!)


 明日は成績の掲示と、そして何より、師匠が来てくれる決起会があるのだ。



*



 翌朝は掲示板の前に人が集まっていたが、その誰もが浮かれている。成績が良かろうと悪かろうと、今日は家族に会えるのである。


「うわ~、微光、一番だよ、一番!」


 先に来ていた楽平が教えてくれた。

 泉力の授業では最初に計測器を壊すという大失態を犯したが(弁償はないとのことで安心した)、朗妃や堅玄、慶透に支えられて泉力の扱いがマシになった。また、泉力の試験は二回のみで、それ以外が得意だったことも関係しているだろう。

 それでも、一番というものは嬉しい。


(これでやっと、慶透の朋泉として堂々とできる。慶透は成績なんて気にしないだろうけどさ)


「えへへ……」

「うわ、見たことないくらい緩んだ顔してるよ」


 楽平に頬をつつかれても、どうでもいい。こんなに優秀な成績を収めたんだ。きっと、決起会に参加してくれる師匠も褒めてくれるに違いない。家から届いた手紙にかいてあったのだ。


「楽平と賢奨けんしょうも上位だね。おめでとう」

「ありがとう。微光が頑張ってると、私達も頑張ろうって思えたんだよ」

「そうそう!」

「それを言うなら、私だってそうだよ」


 四人組での行動が増え、以前よりは交流が減っていたが、楽平や賢奨の姿を見るたびに励まされていた。正直、五家の子息のそばにいるのにはまだ全然慣れないのだ。


(慶透は別だけど)


「それで?この後どうするんだ?慶透様は決起会の準備だろ?」


 そう、決起会自体は各派閥で行われるのだが、泉師学校に関しては五家が開催することになるので、準備で慶透は朝から忙しいのだ。ちなみに、泉弟の学校では実戦に参加することはないので、決起会は泉師学校の特徴ともいえる、と賢奨からきいた。


「よかったら私達と一緒に会場に行かない?荷造りはもう済んでるでしょ?」


 決起会の後はそのまま帰省になるので、荷物はもうまとめてある。


(楽平はちゃんとできてるのかな?)


「何だよ、俺だってできてるっての!」


 思わず楽平を見てしまい、考えていることを読まれてしまった。

 楽平は不満そうな顔をしていたが、


「私が三回は催促したよね?」

「うっ」


 とのことらしい。


「夏期は5回だったから、まだマシだけどね」


 賢奨は困ったように笑った。


「俺だって成長してるんだぜ?」

「小さな変化みたいだけどね」

「なんだとぅ!」


 賢奨の周りをまわって鬼ごっこをしていると、突然前から誰かがぶつかってきた。


「いたっ!」


 人影は確認できていたのでぶつかる前に止まったはずなのだが、衝撃は大きかった。思わず地面に尻をつく。


「危ないな。一位は取れても所詮はただの門衛もんえいか」


 そこにいたのは、かつて食堂で絡んで来た白聡廉(そうれん)だった。銀家の門下で、囲山いさんの家格だが、あの一件(で茨塊から脅されて)から関わりがなかったので驚いた。


「今ぶつかってきたのはお前の方だろ!」


 楽平が食ってかかるが、白聡廉は冷めた目で彼を見た。


「こんな人のいるところで走り回っているのが危ないと言っているのだ」


(それは確かにそうだ)


「失礼いたしました。以降、気をつけます」


 彼の方からぶつかってきたとして、私達の行為が危なかったのには変わりない。

 素直に謝ったのに、聡廉の顔に青筋が浮かぶ。


(なんで?!)


 理解できない内に胸倉を掴まれて立たされる。


「随分としおらしいな。他者の実力を己がものにしておいて、図々しいやつだと思っていたが」

「他者の実力?」

「お前は全てそうだ。慶透様の朋泉になり、彼の足を引っ張っているのに、彼のおかげで成績を維持できている。まさか、君の実力だとはいうまい?」


 以前ならばその通りだと思ったかも知れないが、ここで反論をしないわけにはいかない。


「朋泉の成績は二人で一つだ。慶透が優秀なのはもちろんだけど、私だって努力をした。最初はそりゃ、全然だめだったけど、今回は私の努力が認められたからこそ、一位になれたんだ」

「生意気な!」

「生意気かな?成績について文句があるなら、先生に言いなよ」

「この!」


 怒りで顔を真っ赤にした聡廉の後ろに、酷く悲しそうな顔をした少年を見つけた。たぶん、彼の朋泉だったはずだ。掲示板に目を向けると、聡廉の名前は中間あたりにあった。長年囲山の家格を維持してきた彼にとっては低過ぎる順位だ。


「まさか、成績が落ちるのは朋泉の片方が悪いからだと思っていませんよね?」


 再び聡廉に視線を戻すと、視界の端で彼の朋泉がびくりと肩を揺らした。


「私の場合においては、それくらいしかありえないかもしれません」


 慶透は完璧だから。


「私はあなたの普段の成績を知りませんし、授業中も自分のことに手一杯で周りを見られていないので確かなことは言えません。

 ただ、成績は朋泉で一つ。本来ならば一方的に足を引っ張ることはあり得ません。なぜなら、朋泉は助け合うものだからです。もし一人が苦手な分野があるのなら、共にそれに向き合い、努力していくことで成績はぐんと上がるはずです」


 聡廉が嫌そうに顔をしかめる。


「あなたは自分の朋泉に何か助言をしましたか?もし朋泉が足を引っ張っていると思うなら、当然、その課題点に気づいていましたよね?二人で一つの成績なのだから、その課題点もあなたの成績に関わってくるのはわかっていたはずです。なんとか解決しようと、努力しましたか?」


 どちらかというと足を引っ張っている立場の私がえらそうに言えることではないが、自分が朋泉に引きずられて成績が落ちたと思っているのなら、慶透を引き合いに出さないで欲しい。

 彼はずっと私に向き合ってくれた。最初の授業から、ずっとそうなのだ。

 その努力をないものにして話を進めないでもらいたい。


「あなた自身が努力していないわけではないでしょうが、きちんと朋泉にも目を配れていなければ、配っていてもそこに乗り出していかなければ、成績が上がるはずありません。そこを理解して共に助け合っている朋泉も多いからです」


 特に家格の低い者はそうだ。黒帯だと、朋泉もこえて、みんなで話し合ったりする。


「言いたいことはそれだけか?」

「はい」


 淀みなく答えると、ばしりと頬を打たれた。泉力の流れている攻撃は通常より威力がある。首がもげそうになったが、それだけだ。


「ふん、親の顔が見てみたいものだな」


 それだけ言って、聡廉は去って行った。


「なんだよ、あいつ。微光、大丈夫か?」

「うん」


 乱暴に離されたせいで余計に乱れた服を整えると、楽平が頬に手を当てて、泉力を流してくれた。


「うっ、」

「悪い、あんまりやったことなくて。大丈夫か?」

「うん、誰がやっても多分こんな感じになるよ。ありがとう」

「ごめん、何もできなかったね」

「賢奨が気にすることじゃないよ。

 それより、会場に行こうよ。もうすぐ始まる」


 大きな音に驚いていた周りの生徒も、ちらほらと掲示板の前から去っている。

 賢奨は心配そうな顔をしながらも頷いた。

続きます。

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