話し合い
秋季の授業が始まってからかなり時間が過ぎ、一二年生の仲も深まってきたころ、初めての泉力の試験が終わった翌日、銀賢叡の部屋に五人の生徒が集められた。
銀家長男、希杏、啓家長男、炎陽、壁家長男、堅玄、麗家次男、慶透、穣家次男、朗妃。
泉師学校の教師は五家の出身が多く、幼い頃から交流のある彼らは、度々教師に声をかけられることがある。授業の手伝いであったり、生徒目線の意見を求められたり、先生の暇つぶしに専門的な話し合いに参加させられたりすることが多い。
だが、今回はそうではない。
「休日にすまないな。今日は五家として伝えておくべきことがあり、集まってもらった」
泉師学校は全寮制である。優秀な生徒は家の手伝いに寮を出ることもあるが、基本的には家の者との私的な交流は禁じられている。与えられた任務以外の情報は得ることができない。必要であれば学校にいる者から伝えられ、それが今日の集まりなのである。
「以前から続いている魔獣の暴走だが、休校期間に活発になることから、犯人は泉師、泉弟学校の生徒で間違いないとのことだ」
入学してから実家に戻っていない妖は知らないことだが、彼女が入学して初めての長期休暇の時に、魔獣の凶暴化による被害が異常に増えたのである。基本的には獣の習性の残る魔獣が、山を出て、意思を持って人々に襲い掛かったのである。それが夏期休暇にも起こり、犯人探しが続いていた。
「我が校からは二人の人物に容疑がかかっていたが、この前の授業を見る限り、雪微光は除外してもよいだろう、ということになった」
泉力の測定をする道具には源泉の水が入っており、それによって泉力を測るのだが、魔に反応するのも源泉の特徴である。
「もう一人、茨塊については警戒が必要だが、泉力の制御もできずに装置を破壊するような人間が、魔の力を隠せるとは思わない」
賢叡の声はどこか呆れを含んでいた。実際に現場を目撃した朗妃はくすり、と小さく笑みをこぼした。
「茨塊で確定、ではないのですか?」
「可能性は極めて高いが、確定ではない。彼は泉族ではないだろう?」
炎陽の言葉に銀叡が答えると、堅玄がふっと、馬鹿にしたように笑った。
「炎陽、お前の不出来を人に転嫁するのはよくないぞ」
「は?何の話だ」
「お前の最初の試験、魔獣を茨塊が唆したとなれば、適切な判断ができなかったお前の失態が緩和されるだろう?」
「誰もそんな話してないだろ。それにあれは、ただの魔獣じゃなかった。状況を見て判断し、先に足場を崩したんだ」
「では茨塊にこだわる必要はないだろう。もう少し視野を広く持て。他にも泉族のための学校はある。学期もたいていは同じなのだ」
堅玄の言葉に、炎陽は出かけた言葉を飲み込んだ。自分が茨塊にこだわっていることも自覚があり、何も反論できなかったのだ。
止めに入ろうとした希杏は、二人の様子を見て、浮かしかけた身体を元に戻した。
「向こう側の者がいる、というのは確定事項なのですね?」
炎陽と堅玄の方を見向きもせずに訊ねたのは慶透だ。表情は寸分も変わっていないが、彼は内心、朋泉への嫌疑が晴れて安心している。
「それはそうだろう。今までぶつくさと文句を言っていた連中が大人しくなった。彼らの中で企みがあり、それを実行できるような者が現れたと見て間違いない」
「つまり、魔を操れる者、ですね」
希杏の言葉に賢叡が頷く。
「君たちはまだ学ぶ身ではあるが、生徒の中では先導する立場だ。今まで以上に警戒を怠らぬように」
全員が首肯する。
「そして、これは個人的なことだが……」
この言葉には多くの者が驚いた。賢叡は厳格な人物であり、学校という公の場に個人的な意見は持ち込まない。彼も人間なので全くないわけではないが、自らそのような言葉を口にするような人ではない。
そんな中、希杏だけが淡い期待を乗せて賢叡を見た。
「銀家当主のことだ」
銀家当主といっても、希杏の父のことではない。表向きは希杏の父が当主となっているが、銀家の中では彼はあくまで当主代理なのである。
「微光のことですよね」
雪微光。雪家長男。体が弱く幼い彼を知る者はいないが、入学してからは随分と有名人である。
慶透の朋泉で実力が釣り合っておらず、足を引っ張っている、試験場を破壊する、賢叡先生に攻撃的である、と悪い方で名が売れていたが、今では剣と弓の名人として注目されている。
「初めは偶然だと思った。彼の作った護符に、杏澪の癖を見つけた。あれほど高位の札を書けるのは彼くらいだろう。
確信に変わったのは、彼の演習を見た時だ」
「剣、ですよね。あの動きは本家の者にしか教えられないはずです」
「そうだ。それに、あの弓。私は杏肇を思い出した」
銀家の者によって交わされる会話に、朗妃がきょろきょろと周りを見た。
「どうしてみんな驚かないの?
僕は杏澪様も杏肇様も存じ上げないんだけど」
騒がしいその小さな頭を堅玄がぱしりと叩く。
「あいた」
「五家ならば知っていて当然だろう?
一つ上の世代の銀家本家は三兄弟だった。希杏の父である杏叡様、杏澪様、杏肇様だ。
銀家は生まれ順ではなく、才ある者を後継に選ぶ。本来であれば三男の杏肇様が当主となっていたのだ」
堅玄はじろりと炎陽を睨んだが、炎陽は視線を外しただけだった。
「詳しい事情は言えない。希杏であっても全ては教えられていないだろうが、その二人は十数年前から行方がわからなくなっていたのだ」
希杏は曖昧に微笑んでから、視線を落とした。
詳しいことは知らないが、三人の関係性は知っていた。仲の良い兄弟で、跡継ぎに関しても揉めなかったらしい。三男を追っていった次男までもが戻らず、父は深く落ち込んだと聞いていた。
当主代理となり、彼らが戻る見込みもないので当主扱いになったが、そのことには納得いっていないようで、今でも苦しそうな表情を見せることがある。希杏自身もこのまま当主となってしまうのは嬉しいことではないし、まだ見ぬ叔父たちに会いたい気持ちもある。
微光の剣を見て、淡い期待を抱いたのである。
「つまり、微光の師が杏澪様か杏肇様かもしれないと?」
「そうだ。その両人であればなおよいのだが……」
微光の発言からして、師が複数いるわけではないと気づいているのだろう。
何より、二人とも揃っているのであれば、どうして未だ行方知れずのままで、銀家に顔を見せないのかがわからない、というのが二人を知る賢叡の考えだった。
「微光の反応からすると、師について内密にするようにとは言われていないだろう。決起会には師が参加すると言っていたから、そこで現れることにかけるしかない。
もし本当に杏澪か杏肇が現れれば、混乱は避けられないだろう。基本的には五家の本家は決起会に参加しない。その場を抑えられるのは君たちだけだ。その他の生徒たちと一緒に騒ぐのではなく、その場と親たちを落ち着かせて欲しい。
教員だけでは手が足りない上に、その場に残されるであろう微光に構ってやる暇はない。彼自身も、師について詳しくないようだから、詰め寄られても困るだろう。その時、生徒として彼のそばにいてあげてほしい。
もし違えば、何もなかった、ただそれだけだが、万が一のことを考えて伝えさせてもらった」
賢叡の言葉に、それぞれが頷いた。
五家に関することならば責任が及ぶ立場であるし、微光とそれなりに仲を深めた今、彼を見捨てることは出来ない、というのが四人の意見だ。
朋泉に対しては、誰よりも思い入れの強い慶透に関しては言わずもがなである。
「では、解散」
この言葉で、話し合いは終了した。
実は外では色々起きてます。他にも理由はありますが、学校は情報が遮断されやすいので、二月開校一月休暇になってます。
五家についてはそれぞれの家で方針が違いますが、本家から一人跡継ぎを決めるのは変わりありません。その他は分家と縁があれば分家として、自分の派閥の他家と縁があれば婿入りし、独身であればそのまま銀家を名乗りますが、跡継ぎに子どもが生まれた時点で本家から外れます。
銀の名を持つ分家もありますが、銀家長男とか紹介で言えるのは本家だけです。
どうでもいい補足でした。
続きます。




