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二年生と四人組

 春期休暇同様、徐々に人が戻ってきて、慶透けいとうは最終日にようやく寮についた。


「変わったことはなかったか?」

「特には。山で泉に浸かりそうになっていた人を助けたら、高価な指輪をもらったくらいだね」


 正直に夏季休暇の出来事を話したところ、慶透は一瞬考えるような仕種を見せた。しかし、特に何もなかったのか、


「そうか」


 と言っただけだった。彼自身はもう泉族として活躍しているし、似たような経験があるのかも知れない。

 慶透はと訊ねると、


「何もない」


 とすっぱり切り捨てられてしまった。


「それより、今期からはより実戦に近い形になるが、君は大丈夫か?」


 前半は基礎的な体力づくりと方法を学ぶ段階だったが、冬期の演習に向け、秋は実際に身体を動かす修業が多くなっていく。


「たぶん。この半年はきちんと練習できなかったけど、感覚はそこまで鈍ってないと思う」

「そうか。共に頑張ろう」


 お互いに気持ちを確認して、久し振りに二人での食事を取った。



*



 学期の始めだからといって特別な儀式があるわけではない。演習場所に集められて、授業が始まるのだと思っていた。しかし、どうやら違うようで、みんな揃っているのに中々始まらない。


「さて、みなさん。ご存じの方も多いでしょうが、今期からは実際の動きを覚えていくということで、今までのように足並みをそろえるのは難しくなります。一人一人、個性というものがありますからね。

 そこで、今期から半年間、二年生と四人一組となって授業に取り組んでもらいます」


 そんな話は聞いたことがなかった。私は思わず周りを見ると、同じように黒帯の子たちが驚いていた。泉族の中でもおそらく泉弟の子たちも同様である。


(泉師の家系だと親から内容を聞くことも多いのかもしれないな)


「では、二年生のみなさん入ってきてください」


 先生の言葉で、演習場の入口からぞろぞろと二年生が入ってくる。

 彼らはもう一度は実戦に参加したことのある人たちだ。既に家の手伝いをしているであろう慶透は何も思わないかも知れないが、私にとっては十分にすごい人達である。


「挨拶は組み分けをしてからですが、同じ組の人とだけしか交流をしてはいけないわけではありません。一年生は積極的に二年生に質問に行って、どうすれば自分の動きがよくなるかを考えましょう。二年生もできれば一年生に声をかけてあげてください」


 組み分け自体はもう済んでいるようで、二年生がそれぞれ一年生のところに合流してくれるらしい。顔見知りはすぐに合流していたし、顔がわからなければ名前を呼んでいた。

 私たちの名前は呼ばれず、すたすたと歩いてくる人がいた。


「やあ慶透、久し振り。そして初めまして、せつ微光びこう


 大きな丸い目が特徴的で、茨塊とはまた別の方で女の子のような顔をしている。癖のある髪が首の後ろで結ばれていたので、私は驚いた。

 慶透に気軽に話しかけるのは(私はおいておいて)同じ家格の者、つまりは五家の子息である。泉族は髪を伸ばし、括る位置で家格が表されることもある。明確な決まりはないが、だいたいそうなので、結ぶ位置で大抵の家柄を測れたりするのだ。

 五家ならば頭のてっぺんで結ぶのが基本なのだが、と混乱しているところに、彼の朋泉と思われる人が追いついた。


「慶透、久しいな」


 彼は背が高くがっしりとしていて、丈拳じょうけんに近い体格だった。楽平らくへいと同じように、長い髪が一つの団子にされている。もちろん高さは違う。


「そして君か、噂の雪微光」


 鋭い目にじろりと睨まれて思わずたじろぐが、とあるところで引っかかりを覚えた。


「噂の……?」


 私は今や門衛もんえいに落ちた雪家の長男 (のはず)で、慶透や炎陽のように話題に上る人物ではない。首を傾げると、先に声をかけて来た方の二年生が身体を揺らして笑った。


「あはは!噂の!だよ!

 君ね、あれほど派手に演習場を破壊されたら誰だって有名になるよ!しかも()()慶透の朋泉!」


 大きな声で言われてしまい、思わず頬が赤くなる。


(たしかに、演習場は多くあるわけではないし、二年生も使用する。全然交流がなかったから意識がいかなかったけど、もしかするとかなりご迷惑をおかけしてたのかもしれない)


「あ~あ~、真っ赤になっちゃって。かわい~ね~」

「ふむ」

「う!」


 いきなりぐっと顎を掴まれた。そのまま強制的に顔を上に向けさせられて、後に来た方の二年生とばちりと視線が合う。


「病弱だったせいか?肌が白いな。髪で隠れていて気付かなかったが、綺麗な顔立ちをしている」


 顎を掴んでいるのと反対の手が迫ってきて、思わず目をつぶると、


「いきなり触るな。微光が怯えている」


 慶透の声が間近で聞こえ、何の感触もなく、顎を掴んでいた手も離れていった。


「ふ、すまないな」


 目を開けると、先程までこちらを睨んでいた目がすっと細められ、微笑まれる。


「小さい者はつい、からかいたくなる」

「え~、僕は~?」

「お前は別だ」

「ひっどいなぁ!ま、いいけど。

 それにしても、僕より小さい子なんて滅多にみないからさ、嬉しいよ!」


 と、伸ばされた手をぱしりと慶透が叩き落とした。


「挨拶がまだだ」

「慶透って本当にお堅いよね~」


 小さい方の先輩は叩かれた手をひらひら振って、口を尖らせたが、すぐにぱっと表情を変えて笑顔になる。


「初めまして!僕はじょう朗妃ろうひ!穣家の次男だよ」

「俺はへき堅玄けんげん。壁家長男だ」


 予想はついていたが、二人とも五家の子息である。


 (慶透と炎陽で気が緩んでたけど、ありえない状況だよね)


「雪家長男、雪微光と申します。ご指導よろしくお願いいたします」


 失礼にならないようにと礼をすると、


「やだやだ、堅苦しいのはやめてよね」


 と、朗妃にぺしりと肩を叩かれた。


「僕のことは朗妃でいいよ。敬語もやめてね」

「あの、でも……」

「こいつは誰に対してもこんな感じだ。気にするな」

「堅玄様……」

「俺はそのままでいい。もし微光が慣れれば、呼び捨てでも構わない」


 どちらかというと堅玄の方がありがたい。私は大きく頷いた。


「慶透はもういいよね、それじゃあ早速取りかかろうか!」



*



「泉族は浄化が役目。基本的には暗い場所に溜まりやすい魔を浄化する。そのために札や術を使用することが多い。

 けど、この魔はかなり厄介で、生き物に取りつくことがある。それが魔獣だね。魔獣はもとの生き物が死ぬか、魔自体が浄化されない限り暴れ続ける。そして魔獣は生き物の身体が邪魔して泉力を使った攻撃が通じにくいし、魔の力があることで通常の生き物より物理的な力に強い」


 組ごとに演習場に散らばり、充分な距離を取ったところで朗妃が剣と弓を一組持って来た。


「だから、泉術以外にも剣や弓の修業が必要だし、泉力を使いながら剣や弓を扱うことに慣れる必要がある。

 はい、微光」


 私は渡された剣と弓を受け取った。


「ありがとうございます」

「あ、敬語!まあいいけど。

 微光は自分のものがないから今は学校に借りられるけど、なるべく早いうちに準備しておいた方がいいよ。五家に入門してる人は既に自分の剣や弓を持ってるから、友人にも相談するといいかもね」


 彼の言葉通り、私以外はそれぞれ特徴的な武器を持っていた。

 泉師学校にいる間は携帯できないが、このような場では使用することができるらしい。


「本当なら黒帯には一から教えるんだけど、君は師匠がいるんだよね?」

「はい」


(慶透が言ったのかな?)


「じゃあ、僕と手合わせしよう」

「え?!」


 急に手合わせと言われても、五家の人間に敵う気がしない。


「いきなりすぎじゃないですか?!剣はあまり得意ではないです」

「体が小さいと、そうだよね。でも大丈夫!僕も強くはないからさ」


 背も変わらないくらいで、筋肉も多くはない朗妃の身体はいくらか説得力があったが、剣は体格だけがものを言うわけではない。


「大丈夫!型の確認だと思えばいいから!」


 にっこりと笑われてしまい、私はしぶしぶ頷いた。そもそも、五家の人間に逆らうべきではない。



 久し振りに剣を握った割には、いい動きができたんじゃないかと思う。もちろん、朗妃が合わせてくれたのも大きいだろうけど。


「ちょっと微光!君、どこが得意じゃないんだい?!」


 朗妃は嬉しそうに笑いながら、拗ねたようにそう言った。


「ええ?特に上手くはないと思いますよ。全力ではない師匠から一本も取れたことはないですし、師匠も剣は得意ではないと仰ってましたから、その通りだと……」


 幼い頃は師匠が強すぎると文句を言ったこともあったのだが、師匠はやれやれと首を振って、「私より強い人なんてたくさんいますよ」と言ったのだ。私はその時に驚いたのを覚えている。


「君の体格では力負けすることもあるかもしれないが、技だけを見れば十分上手いし、得意と言ってもいいと思う」


 慶透も朗妃に賛成するようだった。


「ちなみに朗妃は五家の子息の中でも強い方だ。それと張り合えたのだから、お前も充分強いぞ」


 得意ではないと言っていた朗妃をからかうように堅玄が言うと、朗妃はむっと唇を尖らせる。


「僕が得意なのは薬学!剣は得意じゃない!」

「泉族に薬学は関係ないだろう」

「ある!一番怪我するのは泉族なんだからね!」


 よくあることなのか、堅玄は軽く手を上げるだけで朗妃をあしらった。


「ね、微光、このまま続けて弓の技術も見せてよ!」

「あの、慶透とか、みなさんはいいのですか?」

「いい、いい。どうせ家で仕込まれてるし、よく見るからあんまり興味ない。ね、微光、いいでしょう?」


 ちらりと慶透と堅玄を見ると、二人とも異論なく頷いたので、朗妃に従うことにした。

 弓を射る場所に移動すると、周りからの視線を感じる。


「さっきまでも注目されてたよ?」


 朗妃が面白がるように言う。


「洗練された剣ってのはさ、一種の芸術だからね。みんな惚れ惚れしてたよ」


 ちゃんと集中できていた証でもあるが、周囲の様子には全然気づいていなかった。惚れ惚れしていたのかは怪しいところだが。


(また五家との関わりが増えたから、注目されてたのかな)


 流石に組での成果が二年生の成績にはつながらないだろうけど、慶透の足を引っ張りまくってる私が、また五家と関わっているのだ。気になる人も多かったのだろう。

 気を取り直して、位置に着き、矢を番える。そのまま弦を引き、的を見据え、指を離す。

 真っすぐに飛んだ矢は、的の真ん中に突き刺さった。


 ふっと短く息を吐くと、横からがばりと抱き着かれた。


「すごい!すごいよ、微光!」

「うわ、朗妃、危ないです」


 弓を持った状態では彼を受け止めきれず、二、三歩ふらついたところで慶透に支えられた。


「朗妃、微光が倒れてしまう」

「ああ、ごめん!美しいものを見ると興奮しちゃってさ!」


 朗妃はぱっと離れた。


「微光、流石に弓は得意だって言うよね?!」

「え、ああ、はい。数少ない特技の一つです」


 札と弓は、師匠もよく褒めてくれたのだ。


「そうだよね!いいね、微光」

「ありがとうございます」


 その後は堅玄と慶透の手合わせを見たり、泉力を剣や弓に流す練習をして、時間が過ぎて行った。

 途中、私がまた演習場を破壊しないかと心配になって賢叡けんえい先生が覗きに来ていたが、私がまともに授業を受けている姿を見て酷く驚いていた。私は演習場を破壊しようという気はまったくないのに、悲しい話である。

物理攻撃は強いです。

力がないので剣は軽めで、弓も距離を出すのは苦手ですが、動きのキレと正確性はぴかいち。

実戦では弓か剣かどちらかを選びますが、基礎として両方扱います。

明るい朗妃と大柄な堅玄が出てきました。五家ばかり。

続きます。

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