術の試験と周りの反応
順調に授業が進み、炎陽の教え方が上手いこともあって、私は少しずつ術を使えるようになっていった。
「退学になりたいのか?」
「俺が銀家のやつらに指導してもいいのだぞ?」
慶透に聞こえないように脅されるのも地味に効いた。丈拳には都度申し訳ない、といった表情をさせてしまったが、あの食堂での一件が噂にならないわけがなく、主人に問われれば仔細に話すのが使用人の役目である。どうしようもないのだ。
夢の中にまで炎陽の言葉が出てくるようになった頃、私は術の発動をできるようになっていた。
「雪微光!!」
相変わらず制御はできていなかったけど。
試験の日が近づくにつれ、実は雪微光は銀賢叡を亡き者にしようとしているのではないか、という噂が流れるようになった。そんなつもりは一切ない。
「とうとう今日だな。微光、間違っても先生を射抜くなよ」
「楽平、縁起の悪いこと言わない。微光、君ならきっとできるよ、頑張ってね」
試験当日は楽平も賢奨も励ましの言葉をくれた。二人とも先に試験を終えていたが、かなり先生の評価は高そうだった。特に楽平は術に必要な札が苦手だったので、驚いている先生もいた。
「こういった成長があるのが、朋泉制度のいいところですよね」
若い先生は微笑んで、あの賢叡先生も頷いて同意を示していた。
さて、試験は基本的に身分の低い者から行われる。ではなぜ私が楽平たちより遅いかというと、
「微光、あまり派手に壊すなよ」
そういうことである。
私は授業での数々の実績を考慮され、他の者の試験が中止されることのないように後ろに回されたのである。
「壊さないよ。壊そうと思ったことなんてない」
「言動の不一致だな」
「う」
「お前がもし失敗したら、俺らの評価が危うくなるからな」
さすがに大物のあとに回されるのは可哀想だと思ったのか、五家の子息よりは前だが、そのせいで余計な脅しをかけられてしまった。
「努力します」
「微光」
慶透に呼びかけられて彼の方を向くと、ふわりと頭に手を置かれた。そのまま慶透は私の頭をなぞる形で手を下ろした。
「慶透?」
「今回私は君に何もできなかった。だが、君ならば大丈夫だと信じている」
心なしか慶透の表情は暗かった。基本的には表情を変えない慶透だが、何となく雰囲気から感情を読み取れるようにはなってきたのだ。
今までは、特に山の修業では慶透は常に傍にいて励ましの言葉をかけてくれた。最初はそれを鬱陶しく思うこともあったけど、その声で気力を保っていたところもある。札の時は一緒に組合せを考えたりもした。だが、術に関しては共にあったものの、炎陽が教えてくれるので関わりとしては薄いように感じたのだろう。
「ありがとう、慶透。君が私の朋泉でいてくれるから、君が私を認めてくれているから、私はここまで努力できたんだ。慶透にはいつも力をもらっている」
卒業さえできればいいと思っていた泉師学校。五家の子息と朋泉と知って重荷に感じていたが、彼は私を朋泉として扱い、いつもそばにいてくれた。言葉で、行動で、慶透が私を認めてくれたから、私も慶透の朋泉として努力しようと思えたのだ。
慶透は驚いたように眉を上げた。
「はは、変な顔」
「変な顔などしていない」
(あ、また無表情に戻ってしまった)
とにかく、ここで成果を出さねばならない。
賢叡先生に術をぶつけるのも、試験場を壊して炎陽と慶透に迷惑をかけるのも、可能性があるだけ怖い。だが、成功させなければ、また文句を言われてしまうし、もしかすると退学もありえるかもしれない。朋泉は常に共にある。私が退学となれば、慶透まで退学になってしまう。
さすがに五家の子息にそんなことは起きないと思うが、慶透なら自ら退学しそう、というかする、絶対に。
「行ってくる」
「ああ」
私は先生の前に進み出て、礼をした。
「よろしくお願いいたします」
*
結果は上々だった。
私は術の威力も制御も上手くできない。それが、その一発だけ、上手くいったのである。もちろん意識してできたわけではない。本当に偶然である。
術が成功し、的を的確に射抜いたので私も驚いた。当然周囲も同様で、
「あの!雪微光が!」
「いいぞ、微光!」
わっと生徒たちから声が上がった。
先生たちも、安心したように胸をなでおろしたり、大きく頷いてよくやったな、と言ってくれたりした。賢叡先生も自身に術が向かってこなかったので、結界用の札を懐にしまった。
先生たちは五家の慶透と一蓮托生である私をどう評価すべきかという問題から解消されたので喜んでくれたのはわかる。意外だったのは、生徒たちの反応だった。
特に位があまり高くなかったり、泉族出身ではないものたちが自分事のように喜んでくれた。
「そりゃ、あんだけ必死に修行してる微光を見てれば、嬉しくもなるよ」
「食堂での一件が大きかったとも思うけどね」
試験の帰り道は楽平と賢奨と一緒だった。慶透たちはまた賢叡先生に呼ばれてしまったのである。
「あれは五家に入門していない人にとっても、私のように囲山から門衛に落ちてしまった家の人にとっても共感できることだったからね」
「あれが?私はただ叩かれただけだよ?」
「その後の話さ」
楽平が意地悪そうににぃっと笑った。
「微光は知らないだろうけど、あの後、あいつら茨塊に脅されてたんだぜ?慶透様は随分と微光に無礼を許しているようだが、その微光に手を出したんだから、どうなるかわからないよな?って。
あいつらずっとびくびくしてて面白かったよ」
「うわ、茨塊が言いそうなことだね」
「けれど、微光は慶透様に何も言わなかったでしょう?それこそ食堂でそう言い切っているのを聞いていた人もいる。だから、今回そうやって自分の力で努力して、実際に成功した微光に、みんな勇気をもらったんだよ」
自分の力だけで、と言われると否定したくなってしまう。
私には指導の上手い炎陽がいてくれたし、慶透だってずっと傍にいてくれた。楽平も賢奨も、授業中は一緒ではなかったけど、それ以外の場所で修行に付き合ってくれた。
「みんなのおかげだね」
「微光は本当に謙虚だよね」
賢奨に軽く流されたところで、私たちは足を止めた。
先に戻っていた人達が寮に入らず、その前に留まっていたからだ。
「どうしたんだろう?」
「さあ?」
不思議に思いながら一番前を見ると、試験場に残っていたはずの先生たちと慶透、炎陽がいた。泉器か術を使って先に着いたのだろう。
「みなさん、本日はお疲れ様でした」
全員が寮の前に集まったところで、一番若い先生がそう言った。
「今季の成績は、明日、春季と同じように発表します。
授業はこれで終わり、ということで、みなさんには疲れを癒してもらいましょう」
何が何やらわからない、という生徒たちだったが、私は何故か嫌な予感がした。
「既に知っている人もいるでしょうが、あまりにも気づかない人が多いので私たちで案内することにしました。
ついて来てください」
私は楽平と賢奨と顔を見合わせた。
「泉!」
妖が成功したのは本当に偶然です。
続きます。




