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ボス戦 1

 海斗は、そばで寝ていた恭介と柚葉がいなくなったことに気づかないまま眠りこけてしまったことを悔やんだ。そして慌てて立ち上がり、顔をしかめた。身体中が痛い。


 いつの間にか部屋の入り口とは反対側の壁が消えており、その先に石畳が続いていた。二人を探すため痛みも顧みず、石畳を蹴るように走り出した。白い部屋はそれほど走らないうちに奥に行き止まりが見えた。うごめくものが視界の左端に入り、それが大きな二匹の蜘蛛だと理解するまで時間はかからなかった。

 脚の一本一本は一メートルもあるだろうか。脚の長さに比べて体の部分は三分の一程度だった。それぞれが長い脚の先に黒い塊を引っかけて、ずるずると引きずっていた。


「っ!」


 海斗は大声をあげそうになって、手で口を押さえた。引きずられている黒い塊は制服姿の恭介と柚葉だった。二人とも意識はないようだ。脱力した状態で蜘蛛に動かされるままになっていた。

 助け出す機会をうかがっていると、二匹の蜘蛛の距離が空き始めた。

恭介を運んでいる方がわずかに遅れているのだ。


 遅れている方の蜘蛛に突進し後ろの脚をつかんで引っ張ると、あっさりと蜘蛛は体勢を崩して恭介を離した。蜘蛛が反撃に出る前に腹の部分をナックルで殴りつけた。腹部が破裂し、体液を飛ばして蜘蛛は地面に這いつくばりそして動かなくなった。


 もう一匹の蜘蛛が仲間の異変に気づき、柚葉から足を離す。海斗は倒した蜘蛛の脚を一本ちぎり取り、槍のように構えた。仲間を倒されたことへ怒りを抱いているのか、残った蜘蛛が脚を滑らせて向かってきた。

 長い両前脚を持ち上げて海斗に襲いかかり、彼の体をつかもうとする。

 その時、

 

「きゃぁぁぁぁ!!」

 柚葉が悲鳴を上げた。

 蜘蛛は声がしたを向き、狙いを柚葉に変えた。


「いやぁぁー!!」

 完全にパニックになっている。しゃがみ込んだまま動くこともできない柚葉の悲鳴が続く。しかしそれは、海斗にとって好機だった。柚葉に気を取られて背を向けた蜘蛛の一番後ろの脚を手に持つもう一体の蜘蛛の脚で薙ぎ払い、体勢を崩したタイミングで臀部に突き刺した。

 蜘蛛は声にならない音を出しながら、胴部を破裂させて倒れた。


「大丈夫か?」

 海斗は悲鳴をあげる代わりに過呼吸を起こし始めた柚葉に駆け寄って、背中を撫でた。彼女は海斗の胸に顔をうずめる。

 過呼吸の時は袋を口に当てて呼吸させるという朧げな知識を思い出して、袋を探そうとするが、柚葉に制服の襟を掴まれて動くことができなかった。


「あの……」

 恭介が近寄ってきた。彼は柚葉の悲鳴で目を覚ましたが、恐怖で動けないでいた。ようやく足の震えがおさまり、這いずるようにして海斗達の方に来ることができたのだ。


「あの蜘蛛、糸を出していなかったですね」

 ポツリと恭介が言った。

「そうだな」

 海斗には、なぜ恭介がそんなことを言い出したのか、わからなかった。

「それなのに、ほら、向こうの壁に張り巡らせてある白いやつ、蜘蛛の糸ですよね」


 恭介たちが蜘蛛に引きずっていかれようとした先には、確かに大きな蜘蛛の巣があった。一本一本が普通より太い蜘蛛の糸は無駄に艶やかであり、白い壁に反射して不気味に光った。

「つまり」

「あそこに餌を捕らえておくんじゃないかと……」


「ギーー!!」

 突然耳障りな音がして、上から黒いものが降ってきた。

「ギーーィッ!!」

 それは先ほどの二体より一回りほど大きな蜘蛛だった。濃い灰色の胴体から生えた長い脚を震わせながら、海斗達を見下ろしていた。



 

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