洞窟にて 2
友人たちがどうなったのか、海斗は心配だった。
千晴を背負った淳、それに付き添っていた恵梨香。彼らも砂嵐から逃れられず、自分達と同じように飛ばされたに違いない。
彼らはどこにいるのだろうか、怪我をしていないだろうか。
咄嗟に近くにいた西田柚葉を優先して、一緒に行動しなかったことが悔やまれる。
千晴のことは自分がそばにいて守ってあげたかった。
西田柚葉の眼鏡を砂の中から探そうと、手探りで砂の中をまさぐった。
目が乾き、瞬きで水分補給しようとするがうまくいかずに瞳に瞼がひりつく。
と、海斗の手に何か硬いものが当たった。
眼鏡ではないことは形からわかっていたが、砂を払ってみる。
出てきたのは木の板だった。蝶番がついていることから、箱であることはわかった。
「こんなところに箱?」
海斗の呟きを拾った二年生の菅原恭介が、
「箱ですか?まるでダンジョンの宝箱みたいですね」
と、食いついた。
ほぼ土の中に埋まっていたが、木片の端の砂と土を掘れば開けられそうだった。
「ミミックってことはないかな」
ミミック、いわゆる宝箱の罠だ。
海斗がするゲームはほぼパズルやナンプレなどだったが、ロールプレイングゲームも手をつけたことはある。最後まで到達しなかったが、基本的な遊び方は知っていた。
力を入れて板を引っ張り上げた。
少しずつ板が持ちがる。
板が外れて妙なものが出てこないか、警戒したが、何も起こらない。
そっと覗くと、皮で出来た手袋とナックルが入っていた。
「武器だな」
「武器ですね」
海斗が箱に手を入れ、中に入っていたものを取り出す。
「皮手袋の上にナックルをつけるのかな」
「手の保護のためですね。至れり尽くせり」
「どっちかというと、剣の方がロマンがあるんだけどな」
そう言って海斗は皮手袋とナックルを右手にはめてみた。サイズはぴったりだ。
ナックルの指をはめている穴の上部は硬く尖っており、攻撃力はありそうだ。
「今までみたいに逃げるだけじゃなくて、一撃入れることもできるかな」
男二人が話していると、西田柚葉が近づいてきた。
「ねえ、眼鏡は見つけたんだけど……」
彼女の手にあったのは、確かに彼女がかけていた眼鏡の残骸だった。
レンズは割れ、フレームもひしゃげていた。
「残念だけど、もう使えそうにないね」
三人とも当たり前だが、全身砂まみれで制服も髪も顔も汚れている。
西田柚葉もおさげにしていた髪は解けていてくしゃくしゃだ。辛うじて毛先に絡まっていた髪ゴムを外し、髪型を整えようとしていたが、水分のないところでは上手くいかない。
「先に進んでみよう。えーと、菅原君は……」
「あ、恭介でいいです。みんなにそう呼ばれてるんで」
「じゃあ、俺も海斗で」
「私も柚葉って、呼んでください」
「了解。とりあえずこの三人で生き残るために協力しよう。恭介がさっき行ったところまで案内してくれ」
「わかりました。僕先頭で行きます」
恭介が歩き始めたので、海斗と柚葉もその後を追った。
柚葉は海斗の制服の裾をつまんで、ついてくる。
腕をつかまれるよりは動きが制限されないので海斗は何も言わかなった。
千晴でさえ自分から腕をつかんでくることはなかったため、すぐに体を近づけてくる柚葉に戸惑っていた。
「ゲームの中のダンジョンみたいにね、道が分かれているんですよ。ここがまず一つ目の分かれ道」
二つに分かれた道の前で恭介は立ち止まった。
「さっきは右に行って行き止まりで、何もなかったので戻ってきました」
「それじゃあ、左に行ってみよう」
海斗の言葉に、
「わかりました。ここまではモンスターも罠もなかったけど、ここから先はわかりませんよ」
いかにも楽しみだと言うような声を出しながら、恭介は左の道に進んだ。
フラグを立てるなよ、と海斗は心の中でつぶやいた。