洞窟にて 1
洞窟にて 1
喉に違和感を覚えて咳き込んだことで、目が覚めた。
目を開けようとしたが痛い。まばたきと共に涙が出た。
体を動かそうにも動かない。自分の手の感覚が戻ってくるとようやく、自分の腕の中にいる人を抱きしめていることに気づいた。
涙で砂が洗い流され、視界が戻ってきた。
まず目に入ったのは砂で茶色くなった、人間の髪の毛だった。
下級生の女子を抱きしめていたことを思い出し、その体温が温かいことに安堵した。
生きている。
竜巻のような砂嵐に巻き込まれて、生き残った。
他の人たちは。
千晴……淳……恵梨香
みんなは無事だろうか。
「あ、起きましたか?」
危機感のない男子の声がした。
この場に、他にも生きている人がいる。
海斗が動くと、腕の中で西田柚葉が咳き込み、うめき声をあげた。
咳き込みが止まらない彼女の背中をさすってやった。
「気が付いたか?」
「あ、先輩……」
こちらの声に反応して、砂まみれの制服姿の男子がやってきた。
「大丈夫ですか」
「ああ、なんとか」
海斗は西田柚葉の肩をつかんで体を引き離した。
「僕は二年生の菅原恭介です」
「三年の黒崎海斗だ」
「西田柚葉……」
「西田さん、同じクラスでしたよね。あれ?眼鏡は?」
菅原恭介と西田柚葉は同級生だった。知り合いなのはありがたい。
西田柚葉は手を顔に持っていき、眼鏡がないとわかると周りを探し出した。
「西田さん、見えるの?」
「あまり見えないです。眼鏡ないと困っちゃうな」
そう言われて、三人で眼鏡を探し始めた時、地面は砂に覆われた硬い土だということに気づいた。
「ここはさっきの砂丘じゃなさそうだ」
上を見上げると空がない。
硬い土か岩でできた高い天井がそこにはあった。
周りにも岩の壁があり大きな洞窟にも思えたが、昼間ほどではないものの、明かりがあり周囲がはっきりと見えた。
「ここはどこだ?」
海斗の呟きに、
「地下みたいですね。ほら、あそこから落ちたみたいです」
菅原恭介の指差した方を見ると、そこの天井には穴が開いてあった。
海斗は穴のある場所の下に向かい、上を見上げた。
高さは三メートルほどあり、砂がサラサラと穴から流れてきていて砂の山を作っていた。
砂の山を登ってみるが、足元がすぐに崩れ天井に届きそうもない。
「他に誰かいた?」
「この洞窟の向こうに道があって、少し見てきましたが誰もいません」
菅原恭介は、どうやら海斗たちが意識を戻すかなり前に起きていて、ここを探検していたらしい。
なかなか活動的な後輩だ。
「二人とも、怪我はしてないか」
海斗の問いに二人は自分の体を動かして確認する。
海斗も自分の言葉で背中が痛いことに気づいた。
西田柚葉を庇って背中から落ちた時に痛めたのかもしれない。
だが、動けないほどではなかった。
「あちこち痛いけど、水が欲しい。顔と手を洗いたい」
西田柚葉の言うことももっともだ。
三人とも髪の毛から顔から制服から、全て砂で汚れていた。
リュックは運良く背負ったままだったが、もうペットボトルに水はのこっていない。
「どこかに水源はないかな。岩から水が湧き出ているといいんだけど」
三人は、洞窟の中の道を進むことにした。