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校舎ごと飛ばされた1

新作です。


ローファンタジーに恋愛と、人の心の卑しさを混ぜて描いております。


大地震の描写があるので、不快な方はお気をつけください。




 高校三年生、十一月、大学受験に向けて勉強に集中している時期だ。


 特に進学校である公立桜田高校は、受験への追い込みの時期だった。


 授業は三年生の三学期の分まで終わっているから、ほぼ自主学習、みんな過去問題集や赤本などと睨めっこだ。


 そんなピリピリした教室の中、一人机に突っ伏して寝ている男子生徒がいる。


 黒崎海斗、二学期も終わるというのにまだ進学先を決められないでいる生徒だ。

 中途半端に伸びた黒髪は、結ぼうと思えば軽く結べるほどの長さになっている。

 身長は170cm。男性としての筋肉はそれなりに付いてはいるが、成人男性に比べるとまだ胸板は薄い。



 ホームルームも終わり皆が帰り支度を始めた頃、ようやく起きて伸びをした。


「海斗、よく寝てたわね」

 声をかけてきたのは幼馴染の芳田千晴だった。

「昨日ゲームしすぎた」

「受験生なのに」

「言わないでくれ」

 海斗は再び机にうつ伏せた。


「図書室行きたいんだけど、着いてきてくれるかな」

「はい、喜んで」

 どこかの居酒屋のような返事をして立ち上がり、自分のリュックと芳田千晴のリュックを、片手で背中に担いだ。

 

 芳田千晴は脚が悪い。

 小学生の頃事故に遭い、脚に怪我をした。

 普段普通に歩く分には問題ないが、走ったり長距離を歩いたりすることは難しい。

 階段も一人で一歩ずつゆっくり登ることはできるが、学校内で事故を起こす確率を下げるために、付き添いが必要だった。

 公立の高等学校では体に障害があると受け入れに難を示す所が多い。

 エレベーターがある学校はほぼないからだ。

 だが、幼馴染の黒崎海斗をはじめ、菊池淳、矢尾恵梨香といった仲の良いメンバーが、自分たちが芳田千晴を補助するからと、高校入試前に学校に直談判したため、全員が合格出来たらという条件で入試を受けることができた。

 入学させたからには学校も配慮して、クラスは二階の教室に固定させ、3人のうちの誰かを同じクラスに入れた。

 

 黒崎海斗と芳田千晴はゆっくりと階段を登った。

 教室は二階にしてもらえたが、図書室などの特別室を簡単に移動することができないため、以前のまま四階にある。

 千晴としては一人でも時間をかければ階段を登ることができるのだが、入学時の約束事として誰かと一緒にのみ、階段移動を許可された。


 図書室に着いて本を返却した後、千晴はまた新しい本を探している。

 海斗はさりげなく、近くの本棚で本を立ち読みしていた。意識は常に千晴に向けている。



 

 二人は、地鳴りのような音が少しずつ大きくなって響いてくるのに気づいた。

 どんどん大きな響きになり、突如突き上げるような揺れが彼らを襲った。


「来い!」

 海斗はとっさに千晴を抱えて本棚から机の並ぶ方へ動く。


 本を読むための机は、両側に三個ずつ計六個椅子を並べることのできる大きさだ。

 避難訓練ではその机の下に潜るのが通常だった。

 しかし、重いはずの図書室の机が生き物のように飛び跳ね、下に潜るどころではない。

 海斗はよろめきながら本棚から離れ、つまづいた場所で体を縮める千晴の上に覆い被さった。

 ものすごい揺れに、床に這いつくばる体も跳ね、前後左右に移動する。


 横から、倒れた机が脚を向けて流れてきた。

 海斗は片手で脚の一本を掴み、他の鋭いものが当たらないように盾にする。

 踊り狂うその机の脚を持ち続けるのも限界になったとき、揺れは突然収まった。


 



「千晴、大丈夫か」

「う、うん。海斗は怪我してない」

「身体中痛いけど、何とか」


 盾にしていた机から覗くと、倒れた本棚、床に崩れ落ちた本、割れた窓ガラスなどが見えた。


「でかい地震だったな」

「大きかったね。淳達大丈夫かな」


 海斗はゆっくりと立ち上がったが、千晴は腰が抜けたのかそのままうずくまっていた。

 

 スマホを取り出し、地震の情報を見ようとしたが、『情報を取得できませんでした』としか映らない。


「電波イカれてる」

 相当大きな地震だった。周りもかなりの被害があるだろう。

 図書室の窓近くは本が崩れた上に割れたガラスがある。廊下に出るドアは歪んでいるのか重かったが、何とか開けることができた。

 廊下の窓ガラスも割れていたが、廊下に出た時点で外の景色を見ることができた。

 そして海斗は絶句した。


 あたり一面、砂丘であった。


 





 






 

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