研究学園都市クライス (2)
『ヴィデ・ムンディ』を出て、散歩を再開する。
途中、いつも食料調達で使っている青果店とその横にある精肉店を通り、ヤールッシュ大橋の位置まできた。この橋を渡るとクライス南地区に行ける。南地区は魔導学院のある旧城から移転した、現クライス城と、救世教のクライス大聖堂がある。簡単にいうと、川から南が新市街、北が旧市街と行ったところだ。現在は北部も再開発が行われていて、だいぶ近代的になったらしい。
そういえば、幸運なことに食べ物や主な動物の名前は日本にいた頃と共通していた。見たことのないものもたまにあったが。
大橋を渡り、南側に出ると、計画的に建てられた街並みが出迎える。行政・軍事の中心と宗教の中心があるため、こちらは大きな建物が多い。一言で南部の紹介をすると、『効率を極限まで高めた計画都市』と言った感じだ。
行き交う人々も、北部と比べてエリートやらインテリのような人が多い。いや、街並みがそう見えさせているのか。
一通り南部を見て回ったが、建物は綺麗でも、気軽に入るのが憚れる雰囲気の建物が多かったので、さっさと北部に帰ってきた。
大通りから一本外れた道を歩いている時、魔石店を見つけた。入ってみると、代償様々な魔石が売っている。ただ、やはり掘り出されたままの状態で売られている。コルバルの研究のことを知ったら驚くだろうな。
「お兄さん。今日は安くするよ。どうだい、何か買っていかないかい?」
「魔粉ってありますか?」
えっ、と言う顔を浮かべているが、絶対にあるはずだ。なぜなら、この世界の魔道具についている、魔石から魔力を吸い取る機構は、ある程度大きさが統一されていて、その大きさにするために絶対にここで削っているはずだからだ。
「ま、まああるにはあるが、危険だぞ?特に魔導学院の学生でもなさそうだし、何に使うんだ?」
魔導学院の学生はいろいろ優待が受けられることも多いため、クライスの街の中だと学生である証明としてローブ姿でいることが多い。まだ学生ですらないため当然ではあるが、ローブをまだ持っていない俺は、こちらの世界での一般人が来ている服を身につけているため、研究者ではなく、普通の市民として魔石を買いに来ているように見えるらしい。怪しまれて当然だ。
「こんな姿でも、一応研究してるんですよ。魔分の有効利用法について。」
「どこでしているんだ?」
「コルバル博士と共に研究しています。」
すみません。コルバルさん。あとで山吹色のお菓子を差し上げるので、それで許してください。
と言うより、この街の魔法関係を仕事としている奴は全員魔導学院の研究者の名前知っているのか?
ま、まあコルバルと共同研究はじめたから嘘にはならないし、いいよね?
「コルバル博士か。ま、あの人の研究だったらおかしくもねえか。」
廃棄物だし、無料でくれてやるよ。と言って店主が大きめの袋一つにパンパンになるくらいの魔粉を入れてくれた。
……そういえば、金属加工の方で話つかないとこの魔粉、使い道ないじゃん……
まあ、腐るわけでもないし、もらっておいて損はないから、クローシェンの研究室の空いているスペースに置かせてもらうか。
さあ、家に帰って何するんだったっけか。
家への道のりで、大通りから3、4本離れた道を歩いていると突然、
「ちょ、ちょっと返して!!誰か!その男を捕まえて!!」
男が何か喚き散らしながらこっちに向かって走ってくる。そしてそのだいぶ後ろで同い年くらいの女性がこっちを指差している。というより、走っている男を指差している。
「オラァ!退けぇ!ぶっ殺すぞ!」
こちらを睨んでいる!こんなことここの50倍の時間は生きてる日本でもあったことないのに!
周りの人々も追うものがちらほら、避けるものが多数といった感じである。
何も考えず、咄嗟に目を瞑り、避けようとする。
あぁ……人間失格だ……こんな時に助けられるかっこいい人じゃなくてごめんなさい……
バサッ!
…………え?
見ると、自分の真横で倒れている男。その後、数秒で4人の男たちに取り押さえられた。
直前、何かが足に引っかかったような感覚。
「君!ありがとう。君がコイツの足を引っ掛けて倒してくれたおかげで捕まえられたよ!」
ガタイのいい見知らぬ男に突然褒められる。
あ……これ、意図せず避ける瞬間に足引っ掛けちゃったやつだ。というよりは、犯人が足に吶喊してきたパターンか。
「あ、あはは……何もしてませんから………あはは………」
一気に捕まえた男たち、それに、まあ…自分もか……
「ありがとうございます!」
近づいてきてそういったのは、先ほど指を刺していた女性、というよりは女の子?この体で同い年くらいだ。おそらく被害者だろう。よく見たらローブを着ている。魔導学院の学生か。
ショートカットの明るめの茶髪が夕日にきらめいて美しい………って、何を見惚れているんだ俺は!見た目はこれでも精神年齢は18なんだぞ……自重しなければ!
「い、いえ!足に引っかかっただけなので!」
あはは、と苦笑いしながら答えておく。見惚れていたことには気づいていないようで何より……
その後、憲兵がやってきて少し事情を聞き、自分と捕まえた男たちは解放。少し遠巻きに見ているとすぐに女性も解放され、犯人は連行されていった。これから色々辛い目にあうだろう。御愁傷様。
それにしても、綺麗な人だったなぁ………
家に帰ると、クローシェンは書き物をしていた。今日遭ったことを話すと
「ほほほっ!こりゃ愉快じゃわい。お主はその女性にとって英雄じゃな!(笑)」
付き合え!と言わんばかりの顔で揶揄われた。うるさいやい!
……だが、名前くらい聞いておけばよかったかな………だがまあ、もう話すことはないだろう。
その後も体に『合わせて精神年齢も変わったのかも知れない』とか言ってクローシェンがしつこく問い詰めてきたので、キレました。後悔はしていません。