研究学園都市クライス (1)
コルバルが研究援助を約束してくれた後、俺たち3人は色々話し合い、コルバルの研究室に通うことになった。クローシェンは自らの実験に俺が必要になったら適宜呼ぶと言っていたので、今行っている実験は俺には関係ないものなのだろうから、通っても大丈夫だろう。今日は研究が休みらしく、俺が実際に彼の研究室に顔を見せるようになるのはまたの機会からだ。
また、コルバルの紹介で今度から、魔石を使った魔法の実技稽古をつけてもらえることになった。コルバル曰く、たとえ魔法を直接使うことが無くても、魔石を媒介とした魔法を使う感覚は身につけておいて損はないから、とのことだ。
………いや、普通に魔法、めっちゃ使いたいです。
金属加工研究室については、未だウェーベルから話がつけられていないと聞いているので、コンタクトがとれるまでしばらくかかるだろう。彼に話はついたかと聞くと、毎度毎度物凄く申し訳なさそうにするので、こちらまで申し訳ない気分になり、話がついたら教えてくれと言って、今は何も聞かないようにしている。
魔石の基礎知識は十分ついているとコルバルに言われたし、応用に関しては、彼から直接必要なことを重点的に教われることになったから、応用魔石学の本は読むなと言われてしまったし、今日は暇だ。
ということで、街に出てみよう。
「じゃあ、行ってきますね。」
「おう。楽しんできなさい。——————そうだ、これ、小遣いじゃ。小物の一つや二つは買えるじゃろう。」
「ありがとうございます。」
クローシェンが気を利かせて、小遣いをくれた。自分で稼げるようになれれば一番なのだが、生憎ラノベの主人公のように召喚時点で超強力な魔法が使えるわけでも、超裕福な貴族の家系に生まれ変わったわけでもないので、魔法が使えるようになるまではクローシェンにお世話になってしまうだろう。
稼ぐ方法はいくらでもあるが、やはりこういう世界に来たのなら冒険者でバンバン魔物を倒して稼ぐのが一番それっぽいし、俺自身、そういう生活にも少し憧れているので、早く魔法を使えるようになって、冒険者登録したい。
クローシェン、どこか抜けているところこそあるが、基本的には信用しているし、尊敬もしているので稼げるようになったら恩返しをしたい。
学院から出るとすぐ、そこはもう街の大通りである。歴史の教科書で見たような中世都市で、石や土、木材が剥き出しになった建物が並んでいる。街を東西に横断するように大きな川、マルツ川が流れている。こういった感じの都市をどこかで見たことがあると思ったら、中学の時に家族旅行でドイツにいった際に観光した街、ケルンと似ている。
このクライスの街は、研究学園都市と呼ばれていて、一般的には城や屋敷、役場などを中心に広がっていく一般的な都市とは違って、マルツ川以北はクライス魔導学院を中心に街が広がっている。まあ、魔導学院自体、原型をとどめていないが、元々城だったところを改装して作られた学校らしいから元は普通の城塞都市なのだが。
研究学園都市という名前の通り、クライス魔導学院以外にもいくつか教育施設がまとまっており、他の都市と比べて学生の人口が非常に多くなっている。そのため、学生を主な客にする商店も多い。
そしてこの街にはもう一つの顔がある。それは軍事研究都市だ。街の中で行われている研究の多くは、魔法に関する研究で、魔法自体が戦力になりうるし、それ以外の研究も少し技術を転用すればすぐに軍事利用できるものが多い。この街はロツベール王国にとって軍事面の要であり、対外戦争において絶対に失陥してはいけない地域なのだ。そのため、街と周辺地域は警備が活発で、王国軍の部隊がいくつも駐屯している。
軍隊が警備に当たっていることで、この街は非常に治安がいい。そのため、研究者は安心して自らの研究に勤しむことができる。また、街全体の雰囲気もどこかまったりとしたものがある。
街歩きをしていて、初めに目に入ったのは地図の専門店だった。
『ヴィデ・ムンディ』と看板にあるこの店の中に入ると
「いらっしゃいませ。」
すごく品の良さそうな老紳士が出迎える。この店の店主だろう。
「この度はどのようなものをお探しでしょうか?」
「あ、見に来ただけなんですが、大丈夫でしょうか。」
「ええ。大丈夫ですよ。」
にっこりと笑いながら返してくれる。居心地がいい。
「その辺りはロツベールと周辺国家の地図ですな。もっと右に行くとロツベールだけの地図も売っております。」
正確かどうかはわからないが、どれも全く同じように書かれている。まるでコピー機で刷ったみたいだ。
「この地図は、どのようにして作成しているんですか?」
「これらの地図は、全て魔法を使って測量しているのです。なので、多少の誤差はありますが、極めて正確な地図になっていると思いますな。ロツベールの魔法技術があってこそのこの精度です、はい。」
ロツベール王国はクライスの極めて高度な魔導技術のおかげで、領土的には小国ながらも他国の侵略を受けずに済んでいる面がある。また、ロツベール王国の主な輸出品は農産物、織物に魔法道具と加工魔石である。軍事、経済共にロツベールは魔法に依存していることがよくわかる。
「この近辺の魔石の産地って、どこがありますかね。」
店主は棚から『クライス経済圏広域地図』と書かれた地図を取り出すと、ある一点を指さした。
「ここ、ギルペンツですな。ロツベールの中で魔石加工技術が最も高いと言われています。それに、ここの魔石は原石の品質が高いとも聞きますな。」
ギルペンツか……ここよりも北にあって、そこまで離れていなそうだな。魔石をよく使うことになるであろう俺からしてみると、一度くらいは行っておきたいな。
その後、店主と雑談をしつつ色々な情報をもらい、店を出た。すごくいい人だったので、稼げるようになって地図が必要になったらあの店で買おう。
さてと、次はどの店に入ってみようかな。