魔石の権威
「お主とは話がきっとあうぞ!」
クローシェンにそんなことを言われながら、俺、ショウ=ヒラオカは今、クライス魔導学院、いや、ロツベール王国の魔石学の権威、モリス=コルバル博士の元へと向かっている。なぜか彼の研究室ではなく、自宅へ……
「モリス〜いるかのう?」
「クローシェンか!お前さんのとこの坊ちゃんを連れてきてくれたのか?」
坊ちゃんっていうほどの歳でもないんだけどな……
少し待っていてくれ!という返答の後、3分ほど待っていると勢いよく扉が開き、中から元気そうな老人が顔を覗かせた。まあ、クローシェンよりは若いかな。
「おお!お主が異世界から来た坊ちゃんか!やあやあ、初めまして。私はモリス=コルバルだ。これでも魔石学の教授をしている。いやぁ、異世界かぁ、どんなところなんだ!魔法はあるのか?いや、魔法石で魔法を使うってあたり、ないのかな?では………………」
この人ずっと喋ってるよ…………
「のう、モリス。立ち疲れた。」
まさかのクローシェンがツッコミを入れる。明日は隕石でも降ってくるかな?
「そうだな。では上がってくれ。少し散らばっているが、足の踏み場くらいはあるだろう。」
「うげっ……」
家に入ると、そこはゴミ屋敷だった。というよりは書類が散乱している。きったねぇ。
そこに座っていてくれ!と書類に囲まれたソファを指差し、座るように指示を出す。隣を見ると、クローシェンがため息をついていた。
「モリス。少しは片付けをしたらどうじゃ。あんまりにも汚いではないか。」
「何をいうか、クローシェン。貴様こそ弟子のベルベルが来るまでは汚ったない研究室におったではないか。」
「研究室と自宅では話が違うわい。だいたい、なぜ研究用の資料を家に持って帰ってきて、そのまま放置するのじゃ………あと、わしの弟子はウェーベルじゃ!」
それくらいいいではないか……と小声で呟き、どこかへ行ったコルバル。凄まじい量の紙の山のせいで、何が何だかわからない。というより、何も見えない。ソファの前の机も紙の山に埋もれてしまっている。
「……いつもあんな感じなんですか……?」
「本当に、魔石学の研究以外は全てこんな調子でのう………わしらが学生だった時からそうじゃ………」
はぁ、とため息をついているクローシェン。お前も家事できないやん。
しばらくすると、何やら箱を両手に持ったコルバルがやってきた。
ほれ。といって机の上にあった書類の山をどかした。ついでに紙たちは床の上にぶちまけられている。そして綺麗になった?机の上に先程の箱を置き、蓋を開けた。
「綺麗だろう?私の傑作たちだ。」
そこには、小指の先ほどの大きさのものから手のひらに収まりきらないようなものまで、代償様々な魔石が、綺麗にカットされた状態で保存されていた。まるで、ブリリアントカットのダイヤモンドのような形である。
「私の研究室では、魔石や魔粉の有効活用を目標とした研究を行っていてな。魔石はこのように逆五角形状のカットした方が未成型のものよりも魔力の還元率が高いことが判明したのだよ。この指の爪ほどしかない大きさのものも、このサイズの未成型の魔石に比べれば魔力還元率は3〜5倍にはなる。これは大きな発見だろう?」
驚き、そして感動してしまった。というのも、非常に美しい上に、読んで来た本では、「魔石は万人が魔法を使えるようになる素晴らしい資源であるが、大きさに対して得られる魔力量が少ない」と書かれていたため、コルバルの研究室の発見はこの世界におけるエネルギー革命を起こすに十分なものだからである。
「他にも、魔石のカットの形の細かい差異によって、魔石に特性が出るのだよ。例えば、この2つ。」
コルバルは握り拳大の魔石を2つ並べた。
「若干切り方を変えているのだが、そうすると左は火属性の魔法で非常に良い実験結果を残し、右のものは水属性の魔法で良い結果を残した。他にも、なんと売りも切り方があるのだが、今はここら辺にしておこう。」
クローシェンも興味深そうにコルバルの話を聞いている。
一通り話が終わったあと、クローシェンがコルバルに対して、ショウが面白そうな計画をしている。と前置きを置いた上で話し始めた。
「ショウが『銃』と呼ばれるこやつの世界の武器を、こちらの技術で再現しようとしているのじゃよ。」
『武器』と聞いてコルバルが一瞬、顔を顰めたが、「異世界の武器か……どのようなものだ?」とこちらに尋ねてきた。武器に関してあまりいい印象を持っていないらしい。まあ、そういう人は多いだろうが。
「簡単にいうなら、飛び道具です。つつから弾丸と呼ばれるものを爆風で飛ばすんです。今考えている予定では、弾丸の後部に魔粉を入れて衝撃を与えることで爆発させ、その爆風で弾を飛ばそうと考えています。ただ、日本(向こう)では一気に着火する種類と比較的ゆっくり燃える、とはいっても誤差はほぼゼロですが、その後さの間に、爆風に加えて後者が燃える力で、さらに加速するタイプの弾を使っていたのですが、流石にそれは再現できそうになくて。」
興味深く話を聞くコルバル。最後まで聞いたところでコルバルが
「一気に爆発せず、徐々に燃えていく魔粉か……なかなか開発が難航しそうな匂いがするが………うむ、面白そうだな。よし!ショウくん。任せ給え!私が、魔石学者の名にかけて必ず形にして見せよう!」
何も頼んだわけではないのに、勝手にコルバルが手伝ってくれることになった。実際に魔石を使うことの多そうな計画なので、専門家の助けがあってこれ以上のことはないため、すごく嬉しいが、突然すぎて少し困惑してしまった。
研究者はみんなこんな感じなのだろう……もう彼らに『普通』を求めることを諦めた瞬間だった。




