オッタシーレ家(2)
不定期の投稿、ご迷惑おかけします。
調査でわかったことを伝えた上で、追ってみることをカールに提案したところ、二つ返事で追うこととなった。
「おりませんなぁ………」
天窓から顔を覗かせているロウィスは、時々下に降りてきてはいないという報告をするという一連名の流れを5回ほど繰り返している。
「見つけたら降りてきてよ!何回もいないこと報告されても困るよ……」
カールが文句をつける。
「申し訳ございません……」
しゅんとしながら再び天窓から顔を出す。なんだか可哀想だなぁ……
「ロウィスさん、代わりますよ。」
「おお、ありがとうございます!」
おそらく立ちっぱなしの姿勢が辛いのだろう。ロウィスは嬉しそうにそういうと、すぐに車内に戻ってきて席についた。
代わりに俺が顔を出す。先ほど放棄された馬車を発見した地点からでも馬車で1時間強、ここまでおそらく30分ほど進んだため、あと40分ほどで森から抜けられる計算になるが、いまだに全く人間姿は見えない。
道を外れた歩いているのか、途中で魔物にやられたか……そう考えていると、遠くに何かが転がっているのが見えた。ティマシュも気付いていたようで、車内に戻り報告すると同時に、彼からも報告が入った。
距離を詰めて見てみると、それは剣と、死体だった。
「これは、騎士ですな。先ほどと同様の家紋がついているので、オッタシーレ家の者で間違い無いでしょう。」
「ますます急いで追った方が良さそうですね……」
そこからは、乗り心地そっちのけでできる限りスピードを出して探すこととなった。おかげでカトレアがダウンしているが、申し訳ないが、今は気にしていられない。
人間として、死んでしまう可能性がある人がいるのに、放っておくことにあまりいい気分にはならない上、今回は貴族だ。死んでしまったら後々大きな問題になってしまうかもしれない。
そこから10分ほどで、遠くに争う人の姿と同時に、金属同士が当たる音、つまりは戦闘音が聞こえてくる。
近づくと、40匹はくだらない数のゴブリンが鎧、燕尾服、ドレスの3人の人を包囲している。
彼らの周りには何体かの人間の死体が転がっており、また、もともと貴族のものであったであろう馬が騎乗技術もないであろうゴブリンに鹵獲されている。焼いて食うのか?
こちらの馬車が止まると同時に、カールが飛び出し、短杖を構える。しかし
「距離が遠過ぎて狙いが定められない…!」
計算され尽くした上に設計される魔導兵器とは違い、一般の魔法の弱点は遠距離からの命中率の低さだ。
本来なら大規模な火炎魔法を使って焼いてしまうところだが、今回は包囲網の中心に貴族がいるため、話が変わってくる。
「ぼっちゃま。私が護衛としてお供しますので、もう少し近くに寄りましょう。ショウ様は、ここからでも大丈夫でしょうか?」
「ええ。ここからでも狙えます。」
カールとロウィスは、馬車から離れ、周囲に注意しながらゴブリンの元へ小走りで向かっていった。
俺は、アイアンサイトを覗き込み、引き金に指をかける。馬車より少し前方の位置では、カトレアもモシン・ナガンを構えている。
引き金を引くと、衝撃とともに熱を持った銃弾が発射される。ゴブリンの体を貫き、対象は倒れる。
何度か外してしまうが、カトレアも撃っているため、敵の数は時間とともに減少していく。すると、カールとロウィスが射程位置までついたらしく、ロウィスが周囲を警戒する中で、カールが敵に火炎魔法を打ち込み始める。
こちらの加勢によって包囲は崩れ、その隙をみて包囲された側の騎士が内側からゴブリンに剣を振るい始める。
無駄のない動きで、一種の芸術として完成されている。そんなイメージを覚える。
ゴブリンは個体の力は弱いが知能が非常に高く、集団戦法で人間にも劣らない力を見せるのだが、俺たちの不意打ちで完全に連携は崩れ、他種の魔物よりも弱くなってしまっているため、次々と倒れていく。中には闘争する個体も出てき始めた。
そして戦闘開始から15分ほど経って、ゴブリンは屍を晒すか、敗走して姿を消して、完全に戦闘力を失った。
興奮状態になり、暴れる馬をゴム弾で撃って気絶させ、貴族に近づく。
「ほ、本当に、ありがとうございます。」
「いえいえ、大変でしたね……」
「まさかゴブリンの群れが40匹以上になるなんて、思いもしませんでした……」
ゴブリンは普通、群全体でも20匹程度だ。俺が以前遭遇した、小型のパルブスゴブリンなどは、30匹規模の群れを作ることもあるが、それでも、ゴブリンの巣に接近でもしない限り、普段は5匹から10匹程度で行動する。今回は、近くに巣がありそうな感じもしないため、40匹というのは、異例の中でもさらに異例なのだ。
何かあるのだろうか……
深く考えていると、カールが貴族に対して自己紹介を始めていた。まあ、貴族たるもの、他の貴族に会えばどのような場であっても自己紹介は必須なのだろう。
「セルフェン王国、ヴェライス辺境伯が長男、カール=アル=ヴェライスです。」
「フィアジェド王国、オッタシーレ公爵家の次女、アリーナ=アル=オッタシーレです。そちらの方は?」
そう言って、オッタシーレ氏はこちらを見る。
「私の友人です。そっちにいるのがショウ、あっちがカトレアです。」
アイコンタクトでカールから挨拶するように促される。
「お初にお目にかかります。ショウ=イジェーラです。」
「こんにちは、カトレアです。」
「ショウ様は苗字をお持ちのようですが、どこかの貴族なのですか?」
「いえ、平民です。私はロツベール王国の魔導士、クローシェン=イジェーラの養孫なので、イジェーラ姓を名乗っております。」
「そうでしたか。ともかく、みなさん、この度は本当にありがとうございました。」
薄い水色のドレスのスカートをふわりと両手で摘み、優雅にお辞儀をするレディ・アリーナ。金髪ロングでブルーアイという容姿も相まって平民には手の届かぬ神々しい存在であるということを認識させられる。
美しい……可愛いではなく、美しい。
その後、カール、ロウィスと、レディ・アリーナと彼女の執事のラステールで話し合った結果、オッタシーレ家の馬車は車軸が折れていて使い物にならないため、ヴェライス領まではカールの馬車で送ることになった。
元々、6人までの乗車を想定していた馬車であったため、仮にオッタシーレの2人を乗せても容量的に問題はないが、暑苦しいとのことで、騎乗することができるロウィスとラステールは元々はオッタシーレ家の護衛騎士のために用意された馬に乗っていくこととなった。
普通なら、平民である俺とカトレアを真っ先に外に出すことが一般的な対処なのだろうが、どちらも馬には乗れない上、レディ・アリーナが『自分達が楽に移動する中、この救ってくれた人を外に出してはおけない』と言って自身が外に出ようとしたため、仕方なく執事2人が外に出ることとなった。ありがたや。
「ではぼっちゃま。くれぐれもレディ・アリーナに失礼のないようにお願いいたします……お二方も、我々の間では身分差を意識しなくても結構ですが、ヴェライス家の客人という扱いなので、他国の公爵家の御令嬢には失礼のないよう、よろしくお願いいたします。」
「はい。」
オッタシーレ側は彼らだけで何か話している。
そして、レディ・アリーナ、カール、カトレアと俺の4人は馬車に乗り込み、護衛とそれ風の執事3人が騎乗する馬3騎を連れ、森から出るための移動を開始したのだった。
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