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フェンスブルク

おひさしぶりです。

 クライスを出発して3時間ほど経った。他の馬車を次々に追い抜き、もうクライスの領域から離れようとしていた。


「この馬車、なんか速くないですか?」


「左様であります。普段なら、ここまでの速さで走らせることはないのですが、ロツベール王国が国境を閉ざしてしまうとお屋敷に帰れなくなってしまいますので……ぼっちゃまとご友人様にはご迷惑をおかけしますが、しばらくご辛抱ください。」


「いえいえ、大丈夫ですよ。」


 事情が事情なので仕方ないが、すごい揺れだ。街道とは言っても、街の中ではないのでまともに舗装されているわけがなく、小石の上に乗り上げることもある。その度に下から突き上げるような衝撃に見舞われるのだ。


 酔いそう………


「もし酔われましたら、すぐにお申し付けください。」


「は、はい……」


 隣を見ると、カトレアがぐったりとしている。絶対酔ってるじゃん。


「す、すみません。次の都市ってどこですかね?」


「ここはフィスレット領の中心都市、フェンズベルクが次に通過する都市ですね。」


「そこで停まってもらえませんか……」


「酔いましたか?」


「いえ、私は大丈夫なんですが、カトレアが………」


「承知しました。ティマシュ!フェンズベルクで休憩をとるぞ!」


「りょーかいです!」


 ロウィスが呼びかけると、壁の向こうから御者のティマシュの返事が聞こえる。


「あと少し耐えてくれ、カトレア……」



 それから2時間ほど経って、馬車はフェンズベルク市に臨時停車した。今までのペースなら1時間ちょっとでついていたのだが、カトレアに配慮してスピードを落としたため、少し遅れたのだ。


「ふむ。時間か……皆様、少し早いですが、本日はこの街で宿泊しましょう。」


 確かに、十分明るいが、日は傾いている。


 ティマシュが馬車を停車場まで移動させ、俺たちはそこから5分ほど歩く。


 クライスでは、まちの四隅に停車場があり、それぞれ用のある方向に馬車を止めていたため、停車場は町外れというイメージがあったが、そういった方式を採用しているのは、よほど新しい街か、大都市だけで、それ以外の街は交通の中心である停車場はまちの中央近くにある。


 馬のふんなどの臭害もあるため、一等地にはないが……


 ここ、フェンズベルクも例に漏れず、まちの中心近くに停車場があり、そこから5分といえば、もう一等地である。


「うわっ……高そう………」


 酔いに苦しみながら、そう呟くカトレア。


 元日本人の俺から言わせてみると、そこまでといった感じではあるが、この時代の文明からいえば、相当高価な部類になるのだろう。


 だが、内装は違った。確信を持った。これは高い。


 時代を問わず、シャンデリアというものは高所得の象徴とされがちだが、ここにもなかなかご立派なものがついている。床には真紅のカーペットが張られ、いかにも上流階級のような雰囲気を醸している。


「では、私は部屋をお取りしてきますゆえ、皆様はそちらのゲストルームでお待ちください。」


「お客様、こちらです。」


 そう言って、俺たちはホテルマンに案内される。ティマシュは別の部屋に入る。カール曰く、『このゲストルームは、一定以上の階級しか入れないから、付き人は他の場所に案内されるんだよ』だとか。


 やはりそういうマナーがあるのか。というか、思いっきり平民の俺とカトレアは入ってもいいのだろうか……


 ……そういえば、宿で部屋を取るとき、どうすればいいかわからないな。明日は、ロウィスについて行って、取り方を見せてもらおう。


 待ち時間、適当な内容で話をしていると、ロウィスと担当のホテルマンが戻ってきた。


「お待たせしました。お部屋の準備ができましたので、ご案内します。」


 ついていくと、建物の最上階である4階の部屋に案内される。


 ……広……いのか……?


「我々自慢のお部屋となっております。基本的には、大商人のお客様が一時的に商売なさる時や、Aランクの冒険者様がお一人でお泊まりになられる際は、こう言ったお部屋をご使用されます。」


 『自慢の部屋』として案内された部屋は、大体日本国内のリゾートホテルのシングルルームを少し広くしたくらいの広さだった。


 大商人やらAランク冒険者と聞くと、もっと豪勢な部屋を使うかと思ったが、意外に狭い。


 かといって、俺が日本にいた時にはあまり旅行しなかった上、旅行して泊まるとしても、この程度が精一杯だったが。


「立派なお部屋ですね。」


「そう言っていただけると、従業員一同の励みになります。」


 少し部屋の説明をうけ、ホテルマンが出て行った。


 聞いた限りでは、こう言った部屋でも最高級らしい。元いた場所=日本とは文明レベルが違すぎるため、ホテルの部屋としては、これでも相当豪華なのだろう。


 カール、カトレアと3人で集まり、夕食をいただく。ロウィスとティマシュは隣のテーブルで食べている。一応警護のため、同じ部屋で食べてはいるが、わざわざテーブルを分ける必要があるのか。


 その後、カールの部屋でこれからの予定の説明をうけ、自分の部屋に戻った。


 カールは貴族だから、部屋が自分とは違うかもとは思ったが、全然変わらなかった。


「ふ〜……疲れた……」


 少し疲れたため、ベッドに寝転がる。


 おお、ふかふか。こう言ったところに力を入れているから、最高級なのかも。


 寝転がって何も考えずいると、心地の良い睡魔が襲ってくる。特に抵抗せず、目ぶたを閉じ、寝る。


 こうして、今日1日は平和に過ぎて行った。

前書きに続き、改めて、お久しぶりです。少し時間ができたので投稿を再開することになりました。


ただ、それでも忙しいことには変わりないので、しばらくの間は不定期投稿となる予定です。


これからもよろしくお願いします。

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