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ゴーレム、そして冒険者の覚悟

投稿遅れてすみません。

 一刻も早く悲鳴のする場所へ到着できるよう、なるべく急いで走る。


 3分ほどでその場所に着いた。木に隠れて状況を確認しよう。


 冒険者が包囲しているのは大型の魔物、4メートルくらいはあるだろう。そしてその包囲している冒険者たちの顔は皆暗い。


「リューミルの仇!!」


 冒険者の一人が突撃する。後方からは魔法による援護があるものの、防護壁のようなもので防がれて、魔物には少しもダメージが入っていない。


 ……魔物が魔法を使った?


 魔物が魔法を使ったということに衝撃を受けていた数秒間のうちに、突撃した勇ましい冒険者は、首から上のない亡骸となっていた。一撃だった。


「魔法防御……人間の魔導士でも使える人ほとんどいないのに………」


 隣でカールが絶望したようにつぶやく。


 その間にも突撃した冒険者が一人、また一人と吹き飛ばされ、息絶えていく。やはり後方から魔法を放っている魔導士の攻撃は、全く効いていない。


 到着した時点では6人いたパーティーが、今はもう4人しかいない。


 彼らがどんなに攻撃をしたところで、あの魔物にはダメージを与えられないだろう。


 だが、俺たちも真正面から戦ったところで、彼らと運命を共にするだけだ。


 見捨てるか………?


 ……いや、ここで見捨ててしまってはかえってトラウマになりそうだ。


「カール。来てくれ。」


 見捨てるのだろうと判断したのか、彼らを申し訳なさそうに見つめてから、こちらについてきた。


 だが、決してこのまま帰るわけではない。弱点を探そうと思う。


 魔法でも物理攻撃でも効かないなら、戦っても勝ち目はないと思えてしまうが、それは違う。


 まず、魔法は魔法防御という結界のようなもので弾かれてしまう。そして、物理攻撃だが、剣や槍などの近接戦用のものでは、目標に到達するまでに相手の射程に入ってしまってダメだった。かといって、弓は効いたのかというと、命中はしていたが、貫通力不足といった感じだった。


 ここから考えると、物理攻撃は弾けないということだ。しかし、相手は力が強く、魔法の使えない人間が攻撃されれば一発K.O.だ。そして相手は、矢でダメージがないくらいの物理的な防御力を持っている。


 あれは、いわゆるゴーレムというものだろう。材質はおそらく木。文献で読んだ程度の知識だが、ゴーレムには、木、石の2種類があり、どちらも相当強い。ただ、魔法は基本使えないため、遠距離から魔法で攻撃するのが必勝法だ。


 倒し方としては、ゴリ押して体を構成する木か石を粉々に粉砕してしまうというやり方と、体のどこかにあるコアを破壊するという2種類だ。コアの位置は個体によって全く別の場所にあり、探すのが難しい。その手間のない前者は良さそうに見えるが、元の防御力が非常に高いことから、こちらも膨大な魔力を使ってしまい、最悪ゴーレムと相打ちになってしまう。結果、冒険者はほぼ全員後者のやり方を選択する。


 今回は、何も策がないような状態で突撃していたので、ゴリ押しするつもりだったのか、まだコアが発見できていないかのどちらかだろう。


 先ほど、ゴーレムは魔法が使えないといったが、今回のは魔法が使えている。これはおそらく変異体と呼ばれるものだろう。


 変異体というのは、元々は魔法を全く使えない種族に生まれたのに、ごく稀に魔法が使えてしまう体を持った魔物のことだ。原因は不明で、長年研究されているが、一切原因がわからないという、謎の現象だ。


 話を本題に戻そう。それらのことを考慮した上で考えられる作戦は、モシン・ナガンでゴーレムのコアを貫くという作戦だ。


 モシン・ナガンは魔道具ではあるが、魔粉を爆発させて弾丸を飛ばしているだけで、魔法は使っていない。そのため、物理攻撃に分類されるはず。これでまず魔法防御で防がれるということはないだろう。


 そして、銃器であればある程度距離を離して攻撃しても、十分なダメージを与えられる。少なくとも、剣、槍、矢よりは貫通力があるはずだ。


 目の前で対峙している冒険者たちには申し訳ないが、確実に倒すため、彼らが時間を稼いでいる間に、俺とカールでコアを発見してみせる。


「カール、お前はここから、ゴーレムのコアを探してくれ。俺は木ににぼって上から探す。」


「わ、わかった。」


 帰るのかと思っていたら、コア探しをすることになり、困惑するカール。だが、一旦探すとなったら、獲物を見る鷹のような目になる。


 程なくして、俺は木に登り、高い位置からゴーレムを睨む。背の高い魔物であるゴーレムは、コアが上の方にあると発見できないこともあると聞いた。今回はそれなのではと考えたのだ。


 定期的にカールとアイコンタクトを取るが、向こうはまだ見つけていないらしい。こちらもまだ発見できていない。探すは赤い魔石だ。


 じっくりを目を凝らして見る。ゴーレムが動く、一人の悲鳴が聞こえ、数秒後にはプッツリとその声は途絶える。また一人逝ったか。


「……………あれは…………あった!」


 頭頂部から少しずれた位置にコアがあることを確認し、カールにアイコンタクトを取る。身振り手振りで見つけたことを教える。


 なんとなくわかってくれたのか、カールはゴーレムから距離をとった。


 こちらはモシン・ナガンの銃口をコアに向ける。少し距離がある。スコープがあったらどんなに楽だろうか。


 シモ・ヘイヘになった気分で照準を合わせる。こちらに気づかれては面倒なので、できれば一発で仕留めたい。


「………………………ここだ!」


 小さく呟き、軽く引き金を引く。乾いた発砲音と共に銃弾が排出される。


 空気を切り裂き進んでいくそれは、1秒もかからずに着弾する。


「ウォォォォッ!!」


 唸り声のような音をたて、ゴーレムが一瞬よろける。だが、コアを貫けば、すぐに動かなくなるはずのそれは、まだ動いている。外してしまった。


 ゴーレムは怒った様子で、自らに傷を入れた相手を探している。バレないように木を降りよう。そしてもっと近くの木に登って次は確実に仕留めよう。


「誰かいるのか!?」


 冒険者たちの方から声が聞こえる。答えたいところだが、ゴーレムに場所を知られたくないので、返事はしない。


「危険だからかえった方がいい!こいつには勝てっこない!!」


 ここまで追い詰められて、他人の心配ができるのはすごいと思うが、俺は救えるものは救う主義だ。自らが追い込まれない限り、逃げはしない。


 ゴーレムの様子を伺いつつ、もっと近くの木に登る。この位置なら確実に狙えるだろう。


「フゥ………」


 深呼吸をし、自らを落ち着かせる。


 再び、銃口を目標のコアに向け、引き金に指をかける。


「クソォ!!これでも食いやがれ!!」


 せっかく照準を定めたのに、冒険者からの横槍が入ったせいでゴーレムの位置がズレる。余計なことをしないでほしい。


 今度こそ狙いを定め、引き金を引く。


 先ほどよりも早く着弾。一瞬だけゴーレムの叫びが聞こえるが、すぐに沈黙。動かなくなった。


 10秒ほどすると、体がゆっくりと傾いていき、大きな音とともに地面に倒れる。


 急いで木を降りて、確認しにいく。


 戦闘によってその一体だけ木がなくなっていたそこは、まさに森の中の闘技場といった感じで、一点に冒険者の生き残りが固まっていた。他の冒険者の亡骸は散らばっており、中には原型をとどめていないものも存在した。


 ゴーレムのコアが破壊されたの確認すると、生き残りのうちの一人である好青年といった感じの冒険者から声をかけられる。


「君たちかい?ゴーレムを撃ち抜いたのは。」


「はい。」


「……ひとまず、ありがとう………あまり諸手を上げて喜べる状況ではないが、とりあえず生きていることに感謝するよ………」


 内心は辛いのだろう。そんな中でも人に感謝できるなんて、できた人だ。


「………その、もっと早く気づいていれば……」


「いや、君たちは悪くない。もっと言えば、誰も悪くない。ゴーレムが変異体だったのは予想外だったけれどね。」


 ははっ、と力無く笑う。後ろでは他の生き残りが、仲間の死を悼んでいる。


 すると、彼は仲間の方を振り向き


「みんな、帰ろう。とりあえず今は、Bランクである俺たちが、Aランクでも高レベルとも取れる変異体のゴーレムに勝ったんだ。皆冒険者になった時点で死ぬ覚悟はしていたんだ……自分たちでだけでも生き残れたことを神に感謝しないとね。」


 中世だからか。宗教心が強いんだなぁ……


 ゴーレムの討伐は通常、Bランクの依頼とされている。ギルドも普通のゴーレムだと思ってBランクにしたのだろう。だが、変異体だったことで、一気に強力になり、Aランクでも高レベルな魔物となってしまったのだ。これは完全に事故だ。


「君たちも、さあ、一緒に帰ろう。」


 ゴーレムの討伐部位を切り取り、素材に使えそうな体のパーツも持っていけるだけ持っていく。もちろん俺たちのためではなく、彼らのためにだ。


 これから仲間の葬儀などに金がかかってくるだろう。それに、ボロボロな様子を見ると、装備も変えないといけないだろうし、どちらにしろ結構な額が飛んでいくだろうから、高く売れるゴーレムの素材を売ることで換金して欲しい。


 生き残り3人、俺たちを含めて5人は無言でクライスの城門を潜った。

ちょっと暗めの話になりました。


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