退役大佐と退役中佐
「取り決めを反故にする気かね。レイセス大尉?」
クローシェンとコルバルが威嚇するようにレイセスを睨みつけている。対照的にレイセスは二人に微笑んでいる。ところで、先程の大佐だか中佐だかの話はどういうことなんだ?
「これはこれは。イジェーラ大佐にコルバル中佐。再びお会いできて光栄です。」
「軍が、わしの孫になんの用だ?」
「お孫さんの力を見込んで、ぜひ軍部に来ていただきたく声をおかけしたまでです。それ以上でもそれ以下でもありません。」
「ほう?有能な技官を軍部に入れるためには、約束を反故にすると?王国軍も堕ちたものだな。」
「それ以上の無礼は、いくら退役中佐だとしても許されませんよ?コルバル中佐?」
まさに一触即発というべき状況にいろいろ縮こまりそうだ。これはまずい。直感が警鐘を鳴らしている。
「あ、あのぉ……」
「おお、なんだね?イジェーラくん?」
「なんじゃ(なんだね)、ショウ(くん)?」
「その……いったんその話、持ち帰らせていただいても……いいですか?」
「軍部としては構わない。そちらの大佐殿と中佐殿が良ければだが。」
「……いいじゃろう(いいだろう)……」
「但し!返事は手紙でこちらから出す。お主ら軍部から接触はしてくるな。家にでも来てみろ?わしの転送魔法で海の底に送ってやるわい!」
「転送魔法……大佐殿も、随分と便利そうな魔法をお持ちなようで。大佐も現役へ復帰なされては?おそらく中将あたりのポジションは約束できますよ?」
「だまらっしゃい!失せよ!」
はあ。とため息をつきながらレイセスはクローシェンたちと反対方向へ歩いて行った。最後に
「いいお返事をお待ちしております。ショウ=H=イジェーラくん。」
と言い残して。
最初に口を開いたのはコルバルだった。
「すまないね、ショウくん。驚かせてしまったね。それに、私たちは君に隠し事をしていた……」
「い、いえ…別に怒ってなんか………」
怒っていないのは事実だ。どちらかというとすごく混乱している。特に、大佐や中佐といった言葉に。
「そ、その……もしよければ、大佐とか中佐とか、聞かせてくれませんか?」
「ああ。あまり多くは語れないが。」
コルバルは話しているが、クローシェンは「すまん。用事を思い出した。」といってどこかへ行ってしまった。
「クローシェンについては、放っておいてやってくれ。あれは相当怒っている。憤死でもしたら冗談にならんからな。」
ははっ。と冗談らしく笑っているが、目は全く笑っていない。
「場所を変えよう。試験は終わったのだろう?」
クライス魔導学院から少し離れた。というよりはクローシェンと俺の住む家と、コルバルの家の中間くらいの位置にある喫茶店『カフェ・イレアン』にやってきた。
テラス席に二人で腰掛けるとすぐ、近くの店員を呼び
「おい君。コーヒーを一つ。」
コルバルはそう頼むと、こちらにも注文を促す。
「じゃあ。お茶をお願いします。」
注文を受け、店員が奥に入っていく。
「あまり話せることはないが、さて。何から話したものか。」
そういってから、ふう、とため息をつき彼は話し始める。
「私とクローシェンはね、13年前までは、軍で働いていたんだ。技術者としてね。」
それから30分くらい、ただひたすらに話し続けるコルバルの話を聞いた。
口から出てくるのは断片的な情報で、どれも詳しいことまでは話してくれなかった。だが、コルバルの武器嫌いはおそらく軍人時代についたものなのだろう。そしてそれが原因で軍を辞めたのだろう。
彼が話した内容を簡単にまとめよう。
まず、クローシェンとコルバルの二人は、それぞれ20歳と23歳で魔導学院を卒業した後、その能力を認められて軍に魔導技術研究員として入隊した。
そこから二人は、19年間にわたって軍民関係なく様々な研究をした。研究内容の中には人々を救うものや、反対に人々を殺める技術もあったのだという。
そして今から17年前、隣国のゼールティア帝国との戦争が勃発。二人や同僚の研究員たちも敵兵をなるべく多く殺す『魔導兵器』の研究をさせられたらしい。
そして開戦から4年後、つまり今から13年前に、戦争が終わるのを待たずに二人は退役。退役後はここ、クライスに戻って母校で教授を始め、今に至る。だそうだ。
ついでに、彼らが軍をやめて3年経った頃、ゼールティア帝国とロツベール王国は講和し、ロツベール王国は新たに東方に領土を獲得している。つまり今年は、講和からちょうど10周年ということだ。
具体的にどのような研究をしていた、なんで軍を辞めたのかなど、聞きたいことはあったのだが、言葉を選びながら、本当は話したくもないであろうことを話してくれるコルバルの顔を見ていると、あまり深入りする気にはなれなかった。
「ありがとうございます……」
「ああ。君が悩むことではない。クローシェンはどう考えているか知らんが、私は、君が軍に入りたいのならそれでいいと思っている。君の人生は君以外の誰のものでもないからね。」
微笑みながらコルバルはそう言ってくれる。
「ええ。どうするかはまだ決められません。ただ、とりあえず受かれば魔導学院には行こうと思ってます。」
「そうか。君と共同研究できる日を楽しみにしているよ。今度は研究者と協力者ではなく、二人とも研究者という対等な関係としてね。」
「はい。これからもよろしくお願いします。」
「まだ受かると決まったわけではないだろう?」
冗談らしく指摘してくる。先程までの重苦しい雰囲気はどこかへ消え、そこにいるのは魔法を見てもらっている時のいつものコルバルだった。
ふと、レイセスとの舌戦を繰り広げた後のクローシェンの姿が思い出される。心配だ。そこにいるかわからないが、探しに行こう。
「今日は貴重なお話、ありがとうございました。ちょっと、探し物を思い出したので、今日はこれで。」
「ああ。あ、そうだ、ショウくん。恐らくだが君の探し物は、研究棟の屋上にあると思うよ?まあ、私の勘だがね。」
「あはは……探してみます……」
コルバルにはなんでもお見通しなのだろうか。いや、長年の付き合いから生まれる確信なのだろう。
いつか俺にも、こんな深い仲になる友人ができるだろうか。
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