編入試験 (1)
クローシェンが爺さんになり、こっちがものすごく恥ずかしい思いをした日から2週間たち、今日ついに、編入試験の日になった。
あれから手榴弾はなるべく精度が上がるように微調整を繰り返し、現時点で最も性能がいいものに仕上げた。
1週間前に魔導学院側から送られた受験票には『受験者氏名:ショウ=H=イジェーラ』と書かれている。その下には『受験番号:43』と書かれている。少なくとも43人は受けるということか。編入とは言っても試験の開催期間は決まってるから、まとまっているとはいえ、43人も編入志願者がいるとは。さすがは魔法技術が高く、人気なだけはあるな。
そう。クローシェンが身元保証人となった翌日、俺とクローシェンの間で正式に養子縁組をしたのだ。いや、養孫縁組とでもいうべきか。そのため、俺の苗字は必然的にヒラオカからイジェーラへと変わり、平岡を完全消滅させてしまうのもなんとなく変な感じだったためミドルネームとして残し、普段は頭文字のHだけを書くこととした。
皆救世主教の勢力圏は現実世界のアルファベットとほぼ同じ文字を使用し、読みも大体同じである。そのため、ヒラオカは英語と同じ綴りになり、頭文字はHとなった。
「まあ、なんじゃ、お主なら受かるじゃろう。」
「ありがとう。じゃあ、行ってくるよ。」
「そうじゃ!これ、一応お守りじゃ。モリスからも預かっておる。持っていきなさい。受付の時に渡すといいと思うぞ。」
「ありがとう。爺さん。」
そう言って2枚の封筒を受け取った。まあ、おそらく中には推薦書が入っているのだろう。クローシェンがそう言ったものを好まないことは前から知っていたので、こちらからはお願いしなかったが、描いてくれたのか。二人には本当に感謝のしようがない。絶対に合格しなければ。
「受験票をお見せください。」
受付でそう言われ、受験票と一緒に『お守り』を手渡す。
「はい。ありがとうございます。ん?これは………!と、とりあえずお待ちください。」
『お守り』に衝撃を受けた様子の受付係。あの老人二人は一体何を持たせたのだろうか。正直、あまり過大評価するような内容のものは入れてほしくないのだが……
待機部屋に入ると、ざっと20名前後、いや、30くらいか。それくらいの人々が緊張した面持ちで座っている。皆自らの杖を精神安定剤がわりに握りしめている。
ここまで客観的に見れているなら、自分はまだ大丈夫。そう考えていたが、席に着くと部屋の中を支配する張り詰めた空気が緊張させてくる。待っているだけで辛くなりそうだ。
何か考えると悪い方向に持っていってしまいそうなので、無心で待っていると既に部屋に入ってから30分くらいが経過していた。部屋に入った後も続々と受験者が入室してきて、今部屋の中にいる人数はおそらく50を超えている。十数人が呼びされて退室しているため、受験者は全体で60〜70人と言ったところだろうか。
「受験者番号43番。右手突き当たりの部屋に入りなさい。」
ローブをきた職員が案内をかける。言われた通り、部屋を出て右の一番奥の部屋へ向かう。
『131』と書かれた部屋の前に到着し、一度深呼吸をする。緊張をできる限り抑え、入室する。
「失礼します。」
そこには4人の試験官がいた。3人は若く、黒のローブ姿。一人はアラブ系のような顔つきだ。そしてもう1人は中年、初老といったところか。華美な装飾はないものの高貴そうな服を着ている。
「こんにちは。我々はあなたから見て左から順に試験官のモーゼス、エイス、ジルマッドです。そして一番右にいるのがロツベール王国軍クライス西方軍中将、レイセスです。」
「「「初めまして。」」」
全員と握手する。こちらの挨拶のマナーだ。
最悪だ。軍人が来ている。しかも中将、高級将校じゃないか。一気にやりにくくなってしまった。軍の興味をひいて一生軍で過ごすってのは面白くないからこの年齢から軍には入りたくない。
魔法と剣に依存しきった戦争の形態を持つこちらの世界では魔石や魔粉を『あえて爆発させる』という考えはなく、十分に戦略兵器となり得る存在なのだ。事実、爆薬として有能な魔粉は『爆発しやすい危険物』として処理されている。
あまり派手に使うと、良くて軍からのしつこいスカウト、悪いと開発技術だけを恐喝で持っていかれ、口封じのために幽閉、または殺されるなんてこともあるだろう。
……流石に悪く考えすぎか……
逆に弱く見せすぎてしまうと、今度は試験に落ちてしまう……どうしたものか。
「あなたは受験番号43番、ショウ=H=イジェーラさんで間違いありませんか?」
「はい。」
「試験について説明します。口頭での受け答えの真偽は、私の右手にある魔道具ですぐに判明します。くれぐれも嘘はつかないようにお願いします。また、実技試験は、屋内での実施が危険な場合は、受験者の希望で屋外の運動場で実施することもできます。屋外での実施を希望しますか?」
モーゼスと名乗る男が聞いてくる。もちろん外だ。
「外でお願いします。爆発を伴うので。」
「分かりました。」
一瞬、レイセスのこちらを見る目が鋭くなったのは気のせいだろうか。いや、そんなことはないだろう。何しろ爆発物だ。興味を持ったに違いない。
「では、口頭試験を始めます。」
この試験、嫌な予感がする。
ついに試験当日です。軍人がいるとどうなるんですかね。
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