“異世界製” モシン・ナガン M1891/30
俺、ショウ=ヒラオカは今、ローベルトたちが所属する研究会『物質加工研究室』に向かっている。その足取りはとても軽く、スキップしているようにも見えなくない。
そう。なんと言っても今日は、『試製:モシン・ナガン』の部品受け取りの日なのだ。彼らの研究室のスペースを間借りして活動しているため、部品製作の進捗状況についてはちょくちょく耳に入ってきてはいるのだが、やはりいざ受け取りとなると興奮してしまう。
弾薬を含めた必要な部品は全て作ってもらっているので、あとは詳しい構造を知る俺が最終的な組み立てをすれば完成だ。
「ローベルトさん!ショウです!」
「おう。予定通り仕上がっているぞ!」
部屋の奥からいつも通りの元気そうな声が聞こえてくる。
「こっちだ。」
そう言われて案内された先には、大きめの机と、黒錆によって煤っぽい黒さを持った色々な形に加工された金属、それに組み合わせるために成形された木材が置かれている。3つも。
……3つ?
「一つはお前、他の2つはそれぞれカトレア、カール用だ。」
「カールは使うかねぇ……」
以前、銃が欲しいか聞いた際に、カトレアは是非欲しいと言ってくれたのだが、カールは魔法の方が絶対強いから、そんな貧弱な武器はいらない!と言っていたため、受け取ってくれるかわからない。
「馬鹿だなぁ。カールのやつ、ただ素直に欲しいっていえないだけだろ。どう考えても欲しがってるようにしか見えなかったぞ?」
「そ、そういうものなんですかねぇ………」
「で、出来の方はどうだ?こちらとしては結構上出来だと思うが。」
「見た限りでは満点です。ただ、実際には組んでみないとわからないので。」
「そうだな。まあ、ゆっくり組んでくれや。こっちも完成したら見てみたいしな。あと、弾の方だが、実は思った以上に加工が大変でな。実はまだそんなに数ができていない。その分、指定された構造に拘ってるから、個々のばらつきは非常に少ないと思うぞ。」
「わかりました。本体だけでも組めて嬉しい限りです。」
「そう言ってもらえればこっちも嬉しいな。」
一通りローベルトからの連絡を聞き、パーツを自分らの活動場所へもっていく。今日はカールはコルバルの研究室に行っているため、カトレアと二人での活動だ。
「これが銃かぁ……やっぱり実物は大きそうだね。組んでない状態でもわかるよ。」
「120センチメートルあるからな。俺にも少し大きく感じてしまうくらいだよ。」
目を輝かせながら早く組みたそうにしているカトレアに対して、人と通り実物を見せながら再度、部品の説明をして、組む際の注意をする。
「じゃあ、組んでみるか。」
「そうだね。」
そこからは黙々と作業をする時間が始まった。時々カトレアがわからないところなどを聞いてきて、それに応答すると言う形で会話が発生するが、基本はお互い初めて扱う(俺は細かい構造まで『見た事は』幾度となくあるが)実銃なので、緊張もするし、組むのに集中もする。そのため、基本は静かな空間となっているのだ。
加工された部品の精度が非常に高いため、苦なく綺麗に組める。
プラモを思い出すなぁ。もっと『カチッ』って感じがあったけど。
部品の具合を見ながら組見続けて30分。すべての工程を終え、ついに銃としての完全な姿を見せた。
『モシン・ナガン』または『M1891』と呼ばれるこの銃は、ロシア帝国のセルゲイ・モシンとベルギーのナガン兄弟によって開発された銃で、1891年にロシア帝国軍に制式採用された。革命後もソビエト連邦で改良が施され、現在でもさらに改良を加えたものが狩猟用や武装ゲリラ用の銃として使われている。
今回作ったのは3丁とも、ソビエト連邦で1930年に改良が施され、第二次世界大戦時のソ連軍主力小銃であり、狙撃銃年も使われた『モシン・ナガンM1891/30』の歩兵銃型である。余裕ができたらそのうち、狙撃銃型も作ろうと考えている。
「できた……モシン・ナガンだ………」
「もうできたの!?私はまだ全然だよ……」
カトレアはそう言っているが、もう形は見えている。彼女は器用だ。
おおよそ10分後にカトレアも組み終え、カトレアが2丁に強化魔法を施したところで、ローベルトを呼ぶ。
「これが……銃か……大きいと言うのはわかっていたが、実物は迫力があるなぁ……もう試験をするのか?」
「はい。どんな感じなのか早く見たいので。」
向かう先はいつも実験で使っている運動場。今日は100メートル先に標的の代わりとして一般的な鎧に使用される厚さの鉄板を設置し、モシン・ナガンを構える。やはり14歳の体には支えられないことはないし、問題は何もないのだが、少し重い。
銃口を目標に向け、引き金に手をかける。ミリタリーオタクだった自分も、実銃を扱うのは初めてだからか、緊張で少し震えているのがわかる。単に重いだけかもしれないが。
念のため少し離れたところから見ているローベルトやカトレア、見たいと言って飛び入り参加したウェーベルも緊張した様子であることが見ていてわかる。
銃と的のみに意識を集中して、引き金を引く。
大きな破裂音に近い音をたてて弾が発射される。ただ、撃っている俺にはそこまで大きな音には聞こえない。カトレアが遮音魔法という風属性の魔法をかけてくれたのだ。なんでもこの魔法、特定の音だけを遮断して、そのほかは普通に聞こえてくるのだ。魔法ってすごい。衝撃が強く、体制を崩しそうになるが、なんとか耐える。これは少し体を鍛えたほうがいいかもしれないな。
発射ととぼ同時に的に着弾する。結果は余裕で貫通。つまり、この世界の鎧は基本的に貫通できるらしい。対人戦というのはいい気分ではないのでしたくはないが、いざとなったら十分戦えることが証明された。
オーディエンスの方を向くと、全員強い衝撃を受けた様子だ。おそらく、発射から着弾までの時間差と、弾の貫通力に驚いているのだろう。
「いい感じです。いいものをありがとうございます。ローベルトさん。」
「あ、あぁ………どういたしまして………ここまでとはなぁ………」
いつもの感じからだいぶ違った印象を受ける返事をいただき、最後にボソッと感想を述べていただいた。彼らの加工技術の賜物なので、本当に感謝している。
「そ、その……ショウさん……これ、あまりにも危険じゃ……」
その言葉は今は褒め言葉ですよ、ウェーベルさんや。
とりあえず、本気で引いているので、説明はしておくか。
「以前説明した方もいるかもしれませんが、これが銃、『モシン・ナガン』です。最大射程が………」
一通り説明を終え、カトレアの試射を手伝う。
「こう構えるんだっけ?」
「もう少し低く……うん。そんな感じ。」
「よ〜し……」
カトレアが引き金を引くと同時に乾いた破裂音、そしてすぐに着弾した際の音が遠くから聞こえてくる。カトレアは銃の勢いに負けて体制を崩してしまった。
「いっててて………すごい衝撃だね……」
その後、一人につき2発ずつ試射を行い、性能が大体わかったところで撤収した。
性能は基本的に本家モシン・ナガンと同じだ。命中精度も高い。後は使いこなせるようになれば旅も可能になるだろう。
これからの銃の発展が非常に楽しみになってきた。
ようやく主兵装の登場です。登場まで時間がかかってしまいましたが、これで戦えますね。




