モシン・ナガンと大きな課題
「撃針が当たることで薬室にある弾に着火して発射されるんだ……発射したあとの銃身は熱そうだね……」
「オートで何発か撃った後だと火傷するくらいになるけど、1発なら大丈夫だと思うよ。」
「銃の名前は……もしん……ながん……?」
「この銃の元ネタを考えた偉大な設計者の名前だよ。」
今日は、自分の中でいくつかあった候補の銃からモシン・ナガンを元に銃を作ることに決定し、以前見た資料の中の情報を覚えている限り詰め込んだ、なんちゃって設計図を描きながら、カトレアに銃について詳しく教えたり、これからの活動について話し合っているのだ。
銃の名前については『モシン・ナガン』にするべきか、そうするべきでないかで迷ったのだが、新たに名前を考えるのが面倒だった上に、構造上ほぼ元ネタと相違なかったため、名前はそのままという結論に至った。
つい先程まではカトレア『さん』と呼び、丁寧語で話しかけていたのだが、同い年(俺は見た目がそうなだけだが)ことと、もっと親しくしてほしいという本人の希望から、彼女への接し方を改めたのだ。
ついでに、活動は物質加工研究室のスペースを少し借りている。
メンバーの募集を少しかけてみたところ、コルバルの研究室からカールという貴族出身の少年がやってきた。
なんでも彼がいうには
「君らの武器ってのをみてみたいのさ。まあ、僕より強いものはこの世にないんだけどね!」
だそうだ。自信過剰なのか、実力が伴った上での発言なのかはわからない。
2人とも研究室の活動があるため、今日は研究会の方には来ていない。
カトレアへの説明が一通り終わったところで、設計図の方も大体書き終わった。
「これが、『銃』か。全長123センチメートルとは、思ったより大きいんだな。それに重さは4キログラムって……まあ、鉄を多用するからそれくらいにはなるか。」
完成した設計図をローベルトに見せると、大きいという感想が帰ってきた。というのも、ローベルトは形や用途的に短杖のイメージで考えていたそうだ。
「有効射程はおおよそ800メートルを予想していて、800メートル先の目標に対しては及ぼ1秒で着弾するはずです。」
「800メートルを1秒で!?は、早すぎだろ!」
「魔法だとどうなんですか?」
「魔導士の練度によってまちまちだが、射程の長い大魔法は別として、普通なら長くても500メートルだ。それにそんな距離で打ったら到達まで10秒はかかる………こいつの性能がお前のいう通りなら、どこかの国が鍵つけると厄介だぞ……」
なんとなく予想していたことだが、今から作ろうとしているものは戦争の形態を変えてしまうものだということを改めて知った瞬間である。特別注意して扱わなければ。
「そうですね。たとえ完成しても、差し迫った危険がない限り、人前では使わないほうがいいですね。」
「ああ。お前の身の安全のためにも、そう気軽には使わん方がいいだろうな……まあ、今はこいつを形にすることに専念しよう。いろいろなパターンでサンプルを作ってみるから、何日か待っていてくれ。」
「銃弾は手作りにするの?」
ローベルトとの話が終わり、設計図を持って帰ると、考えていた様子だったカトレアからそう質問があった。もちろん、量産できる設備がないため手作りである。そのうち設備を整えて量産できるようにはしたいが。というより、量産設備をと殿えなければ非効率すぎてそのうち銃の使用をやめるだろう。
「うん。そのうち量産したいけど、今はどうしようもないから手作りにしようと思ってる。」
「でも、それって非効率だよね……魔物とか敵を倒すためには最低でも1発の銃弾が必要で、相手が複数いたらその分消費するし、更に外した時のことも考えると、結構一回の戦闘で使っちゃうし、それを毎回手作りしてたんじゃ時間が勿体無いよ。」
「そうなんだよ……」
「……そういえば、2ヶ月くらい前に魔導複製機って言う魔道具がフィアジェドで開発されたっていう情報が入ってたような……」
フィアジェド王国。今いるロツベール王国から大国を2つ挟んだ先にある南方の国だ。話を聞く限り、イタリアのような雰囲気を感じる。ここから徒歩で行くとおおよそ2週間かかる。休まずに、最短距離で行けばだが。もちろんたびに休息は必要で、観光もするだろうから、実際は4週間はかかるだろう。
……この計算も、何にも巻き込まれず、スムーズに移動できればというのが前提だ。というのも、この世界、文明レベルは中世なので、山賊・盗賊はもちろん、人殺しなどよくある話なのだ。
そのため、商人や旅行者の多くは護衛に冒険者をつける。そのため、冒険者の中には、護衛をメインの収入にしている者もいるのだ。
話を戻すと、魔導複製機なるものがフィアジェド王国で作られたと。そんな話は初めて聞いた。カトレアには色々情報のルートがあるのだろうか。
「その魔導複製機は、フィアジェド以外には流通してないのか?」
「うん。同じものがたくさん必要になることなんてほとんどないから、あんまり需要がないんだよ。その銃弾は別だけど。」
そう。産業革命が起きていない現在、大量消費社会ではないため、量産という行為自体必要がないのである。そのため、複製機が完成しても必要なく、魔力の無駄やらスペースの無駄と言われておしないなのだ。
だが、今の俺たちには非常に有益だ。どうにかして手に入れたいが……
「銃が完成して、最低限ショウくんが自衛できるようになれればフィアジェドまで直接行ってもいいんだけどね……」
そうだ。直接行けばいい。そうできるのなら即決していた……ただ、俺は魔法を現状全くと言っていいほど使えない上に魔法に頼ろうとして剣や槍を使った戦闘法を全く知らない。誰かに教わればいいのだが、それも銃ができて仕舞えば使わないと考えていたため、教えてくれる人を探すことすらしていなかったのだ。
毎日自分で魔法を使う練習を行なってはいるのだが、微妙に『魔力』なるものの流れが掴めたくらいだ。
コルバル曰く『それでも、ここまで全く魔法を使ってこなかった人間が1週間ほどで魔力の流れを掴めるなら上出来ではないかね?』と言っているが、正直魔法は少し諦め始めている。剣を習うか……でも金がないしなぁ……
『はぁ……』と思わずため息をついた俺をみて少し哀れになったのか、カトレアが話を逸らそうとする。
「……とりあえず今は、銃……えっとモシン・ナガン制作に専念しよっか……」
異世界ライフを全力でエンジョイできるようになるまでの道はまだまだ長そうだ………
ようやく具体的な銃の名前が出てきました。
個人的にボルトアクションライフルはロマンの塊だと思います。アサルトも捨てられませんが。
これからもよろしくお願いします。




