離任
入学した時のわくわくは今ではみんな忘れてしまった
「起きて~!学校よ~!」
朝から母の声が聞こえる。
「今日は式だから遅いんだよ~!」
今日は離任式だ。だから登校する時間もだいぶ遅い。
「遅くても朝ごはん早く食べて~!」
うるさいな。もう少し寝させてくれよ。と思いながら俺は眠い目を擦りながら、階段を降りていった。
朝ごはんの匂い、鳥の声、紛れもなくいつも通りだ。
「おはよ……」
「ああ、おはよう。」返事をしたのは父だった。
普通の会社に勤めてて普通の人生を歩む父。そんな父ははっきり言ってなんともつまらないだろうと思う。将来はこんな父には成りたくないなと日々思ってる。
「お前、今日離任式か。」
父は新聞を膝に置いた。
「そうだよ。でも行くの嫌だな~。」
「なんで?」
「だって嫌いな先生居なくならないから。来年も顔合わせなきゃいけないって事が嫌だから。」
そう、嫌なんだ。少し前に新聞をわくわくしながら見ていたが、俺の嫌いな教師は退職も転任もしなかった。
「そんな事言うなよ。その嫌いな先生だって突然会えなくなったりするんだぞ。ほら、コレ。」
父が新聞を渡した。そこには居た堪れない記事がたくさん載っている。中でも小学校に男が襲撃して、十人以上犠牲になった事件が目に留まった。
「なんで世の中はこんなに暗いのかね。」
「さあな。だが、お前ももうすぐ高校生だろ。世の中ぐらい知っとかないと不味いぞ。」
俺はまだ、中二で高校生を意識するのはまだ早いだろう。だが、父は高校生になる事を意識しろとよく言う。俺が遅いのだろうか?
「はいはい、朝ごはんだよ。」母が朝ごはんを持ってきた。ウィンナーに味噌汁そしてごはん、今日もいつも通りだ。嫌になるぐらいいつも通りだ。けど、さっきの事件を思い出して、俺は神様にありがとうを言った。
「離任式って何するんだっけ?」
唐突に父が聞いた。
「見送りと掃除。面倒くさくてしょうがない。」
そこへ母が言った。
「そうか。掃除があるのか。懐かしいな……」
母が中学を卒業したのはもう三十一年前にもなる。
そりゃ懐かしいだろう。思い出か。
「最後まで迷惑かけんじゃないよ!」
その忠告を「はいはい」と聞き流して「ごちそうさま。」 で二階に上がった。寝ようと思ったのだが、もう、目が冴えていた。
それから時間は経ち、制服を着た。つくづく俺の学校の制服ってイマイチだなと思った。
「行ってきます~!」
「行ってらっしゃ~い!」
学校に走った。
教室に入ると、意外にみんな寂しそうでは無い。
俺は自分のロッカーに鞄を突っ込んだ。
「おう。おはよう!」席につこうとすると友人が話しかけて来た。
「おはよう。なんか寂しそうじゃないね。」
「お前こそ寂しそうじゃないな。そんなに掃除が嫌かよ。」
笑顔に嫌味を足した様な顔してる。
「掃除は嫌じゃない。式が面倒なだけ。」
呆れた笑顔をした友人に対し、僕の顔はなんとも怠惰な顔だった。
「ふうん。ま、俺には関係ないか。」
友人は自分の席についた。
ガラリと扉が開き、担任の先生が入ってきた。
「おはよう。みんな。」
「おはようございます。先生。」
「今日は離任式だからちゃんと感謝の気持ちで見送ってね。あと掃除についてだけど……」
話を聞くのが面倒になり、俺は寝た。
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「おい!いつまで寝てるんだよ!」
目を覚ますと目の前に友人が立っていた。
「掃除だ、掃除! ほら、早く行くぞ!」
ああ、そうだった。俺は教室のロッカーから箒を取った。
「と、そうだった!今日は自分の教室だったな。」
廊下に出た友人が戻ってきた。
「机って寄せなくていいんだっけ?」
「いいんだよ。大した掃除じゃないから。」
実は今日の離任式は自由参加だった。なのでクラスには数名しか居ない。それならなぜ俺は参加したのかと言うと、なんとなくだ。
「ほら、ちりとり。」ロッカーを指さすとちりとりを床に置いてくれた。「あ、ありがとう。」箒をさっさと掃きながら、窓の風景をほんの少し見た。
晴天だ。
「並んで~!ほら、早く~!」先頭にいる先生が号令をかける。
どうやら、他のクラスは既に並んだようだ。
「並んだ?じゃあ行くよ~!」
その声と共に俺達は体育館に歩き出した。まったくこれじゃ軍隊じゃないか。
「あ~今年は嫌いな先生が転任するから最高だ~!」 友人の発言にギョッとして口を手で塞いだ。
「おい!やめろ!お前が嫌いでも好きな人はいるんだぜ。」俺はいつの間にか言っていい事と駄目な事の区別が出来たらしい。
「お前だって嫌いな先生の一人や二人ぐらい居るだろ!」 その一言にどきっとした。もし、逆の立場だったら俺が言っていたかもしれなかった。
「そりゃ……居るけど。」
「ほら!」くるりと俺の方を向いた。だが、その時、
「うるさい!」と聞こえ、俺と友人は殴られた。
殴ったのは俺が一番嫌いな長松先生。
「黙って進めないのか!お前も連隊責任だ!」
そうだ。こういう所が嫌いだ。俺は真面目に歩いていたのに、なぜ怒られなくてはならないんだ。
けど、友人は急に静かになってあっさり体育館に着いた。なんて卑怯なんだ。と思った。
式は順調に進み、最後のハイタッチをする場面になった。正直言ってあまりこれも意味が無い気がする。
一瞬しかハイタッチ出来ないなら、余計悲しくなるのでは?と思う。
「あ、生徒会長だ。」生徒会長は校旗を腰に付け、先頭を歩いている。大変そうだ。
「悠太くん、またいつか会おう!」一人目がハイタッチした。
「勉強頑張って!」二人目がハイタッチした。
そして、三人目のハイタッチ。
「高校生になっても頑張れよー!」
それを聞いてハイタッチをしたら、目から涙が溢れ出した。なんでか分からないけど涙が止まらなかった。
それから、ハイタッチは五人まで続いたが、よく覚えていない。 涙で見えなかったのか。
俺は家まで走った。泣きながら走った。
「ただいま……」
「おかえりなさい。あら、泣いてる。」
直ぐに二階に駆け上がり、ベットの上で泣いた。暫く泣いたら疲れてそのまま寝てしまった。
気がついたら、夜だった。起きた途端に急に恥ずかしくなり、バタバタとベットで足を動かした。
来年も泣くだろうか。とりあえず高校生になる事を考えなきゃ。
天井を暫く眺めた後、下に降りた。
「父さん、母さん、……」
(完)




