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離任

作者: 水井時零
掲載日:2017/03/29

入学した時のわくわくは今ではみんな忘れてしまった


「起きて~!学校よ~!」

朝から母の声が聞こえる。

「今日は式だから遅いんだよ~!」

今日は離任式だ。だから登校する時間もだいぶ遅い。

「遅くても朝ごはん早く食べて~!」

うるさいな。もう少し寝させてくれよ。と思いながら俺は眠い目を擦りながら、階段を降りていった。

朝ごはんの匂い、鳥の声、紛れもなくいつも通りだ。

「おはよ……」

「ああ、おはよう。」返事をしたのは父だった。

普通の会社に勤めてて普通の人生を歩む父。そんな父ははっきり言ってなんともつまらないだろうと思う。将来はこんな父には成りたくないなと日々思ってる。

「お前、今日離任式か。」

父は新聞を膝に置いた。

「そうだよ。でも行くの嫌だな~。」

「なんで?」

「だって嫌いな先生居なくならないから。来年も顔合わせなきゃいけないって事が嫌だから。」

そう、嫌なんだ。少し前に新聞をわくわくしながら見ていたが、俺の嫌いな教師は退職も転任もしなかった。

「そんな事言うなよ。その嫌いな先生だって突然会えなくなったりするんだぞ。ほら、コレ。」

父が新聞を渡した。そこには居た堪れない記事がたくさん載っている。中でも小学校に男が襲撃して、十人以上犠牲になった事件が目に留まった。

「なんで世の中はこんなに暗いのかね。」

「さあな。だが、お前ももうすぐ高校生だろ。世の中ぐらい知っとかないと不味いぞ。」

俺はまだ、中二で高校生を意識するのはまだ早いだろう。だが、父は高校生になる事を意識しろとよく言う。俺が遅いのだろうか?

「はいはい、朝ごはんだよ。」母が朝ごはんを持ってきた。ウィンナーに味噌汁そしてごはん、今日もいつも通りだ。嫌になるぐらいいつも通りだ。けど、さっきの事件を思い出して、俺は神様にありがとうを言った。

「離任式って何するんだっけ?」

唐突に父が聞いた。

「見送りと掃除。面倒くさくてしょうがない。」

そこへ母が言った。

「そうか。掃除があるのか。懐かしいな……」

母が中学を卒業したのはもう三十一年前にもなる。

そりゃ懐かしいだろう。思い出か。

「最後まで迷惑かけんじゃないよ!」

その忠告を「はいはい」と聞き流して「ごちそうさま。」 で二階に上がった。寝ようと思ったのだが、もう、目が冴えていた。


それから時間は経ち、制服を着た。つくづく俺の学校の制服ってイマイチだなと思った。

「行ってきます~!」

「行ってらっしゃ~い!」

学校に走った。


教室に入ると、意外にみんな寂しそうでは無い。

俺は自分のロッカーに鞄を突っ込んだ。

「おう。おはよう!」席につこうとすると友人が話しかけて来た。

「おはよう。なんか寂しそうじゃないね。」

「お前こそ寂しそうじゃないな。そんなに掃除が嫌かよ。」

笑顔に嫌味を足した様な顔してる。

「掃除は嫌じゃない。式が面倒なだけ。」

呆れた笑顔をした友人に対し、僕の顔はなんとも怠惰な顔だった。

「ふうん。ま、俺には関係ないか。」

友人は自分の席についた。

ガラリと扉が開き、担任の先生が入ってきた。

「おはよう。みんな。」

「おはようございます。先生。」

「今日は離任式だからちゃんと感謝の気持ちで見送ってね。あと掃除についてだけど……」

話を聞くのが面倒になり、俺は寝た。

───────────────────────

「おい!いつまで寝てるんだよ!」

目を覚ますと目の前に友人が立っていた。

「掃除だ、掃除! ほら、早く行くぞ!」

ああ、そうだった。俺は教室のロッカーから箒を取った。

「と、そうだった!今日は自分の教室だったな。」

廊下に出た友人が戻ってきた。

「机って寄せなくていいんだっけ?」

「いいんだよ。大した掃除じゃないから。」

実は今日の離任式は自由参加だった。なのでクラスには数名しか居ない。それならなぜ俺は参加したのかと言うと、なんとなくだ。

「ほら、ちりとり。」ロッカーを指さすとちりとりを床に置いてくれた。「あ、ありがとう。」箒をさっさと掃きながら、窓の風景をほんの少し見た。

晴天だ。



「並んで~!ほら、早く~!」先頭にいる先生が号令をかける。

どうやら、他のクラスは既に並んだようだ。

「並んだ?じゃあ行くよ~!」

その声と共に俺達は体育館に歩き出した。まったくこれじゃ軍隊じゃないか。

「あ~今年は嫌いな先生が転任するから最高だ~!」 友人の発言にギョッとして口を手で塞いだ。

「おい!やめろ!お前が嫌いでも好きな人はいるんだぜ。」俺はいつの間にか言っていい事と駄目な事の区別が出来たらしい。

「お前だって嫌いな先生の一人や二人ぐらい居るだろ!」 その一言にどきっとした。もし、逆の立場だったら俺が言っていたかもしれなかった。

「そりゃ……居るけど。」

「ほら!」くるりと俺の方を向いた。だが、その時、

「うるさい!」と聞こえ、俺と友人は殴られた。

殴ったのは俺が一番嫌いな長松先生。

「黙って進めないのか!お前も連隊責任だ!」

そうだ。こういう所が嫌いだ。俺は真面目に歩いていたのに、なぜ怒られなくてはならないんだ。

けど、友人は急に静かになってあっさり体育館に着いた。なんて卑怯なんだ。と思った。


式は順調に進み、最後のハイタッチをする場面になった。正直言ってあまりこれも意味が無い気がする。

一瞬しかハイタッチ出来ないなら、余計悲しくなるのでは?と思う。

「あ、生徒会長だ。」生徒会長は校旗を腰に付け、先頭を歩いている。大変そうだ。

「悠太くん、またいつか会おう!」一人目がハイタッチした。

「勉強頑張って!」二人目がハイタッチした。

そして、三人目のハイタッチ。

「高校生になっても頑張れよー!」

それを聞いてハイタッチをしたら、目から涙が溢れ出した。なんでか分からないけど涙が止まらなかった。

それから、ハイタッチは五人まで続いたが、よく覚えていない。 涙で見えなかったのか。



俺は家まで走った。泣きながら走った。

「ただいま……」

「おかえりなさい。あら、泣いてる。」

直ぐに二階に駆け上がり、ベットの上で泣いた。暫く泣いたら疲れてそのまま寝てしまった。

気がついたら、夜だった。起きた途端に急に恥ずかしくなり、バタバタとベットで足を動かした。

来年も泣くだろうか。とりあえず高校生になる事を考えなきゃ。

天井を暫く眺めた後、下に降りた。

「父さん、母さん、……」



(完)

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