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9話 父上、銭くれ!


 天文24年(1555年)2月 出雲 月山富田城 尼子晴久



「5万貫寄越せだと!?」


「はい。父上、治水には5万貫は必要です」


「しかしだな、玉よ。我が尼子でも5万貫は大金じゃぞ」


「それは十二分に承知しております。こちらが必要になる経費の内訳を書いた書類になります。御一読を」



 むむむ、玉が押し掛けてきたと思ったら、いきなり5万貫を寄越せだと?

 どうしてこうなるのだ? どこで育て間違えたのだ? いや、まあ、儂が育てた訳ではないのだがな。

 業突く張り、図に乗る出ない。そう言うのは容易いのだが、玉が治水に必要と言うのだから一考の余地はあるのかも知れん。あくまでも、玉は儂の代官という名目じゃから、儂の判断も必要じゃからの。


 どれ、小娘の書いた能書きでも読んでみるかの。鬼が出るか蛇が出るかは、神のみぞ知るところだが。






 お元気ですか?


 治水の最終的な許可をもらうために富田にやってきた玉です。借金の催促ともいいます。なんだか日本語の使い方が間違っているような気もしますけど、気にしたら負けです。


 しかし、船って便利ですよね。杵築大社から月山富田城まで約15里60km弱を僅か一日で着けちゃうのですから。

 まあ、大社から平田までの約4里の道程は、かっぽらかっぽらと仔馬に跨っていたので少しお尻が痛くなりましたけど。平田まで二刻(4時間)、そこから小早で、宍道湖を横断して大橋川を下って中海に入り飯梨川を上って富田に到着です。

 小早は、平田から富田までの約11里44kmを二刻半(5時間)で漕ぎました。時速で言えば9km、5ノットぐらいでしょうか? 船に乗る前に平田で四半刻、途中の末次(松江)でも四半刻の休憩を挟んでいますので、富田までは五刻掛かっていますが。

 それでも、徒歩の半分の時間で着くのですから船は偉大ですよね!

 その分、私たち一向5人の為に水夫を14人も使っているのですけれども。費用対効果でいうのなら、コストパフォーマンスは悪いのかも知れませんが。


 まあ、私は仔馬に揺られて、かっぽらかっぽらの旅でも構わないのですけど。道中で一泊する場所は玉造温泉なんだしね。ビバ温泉!


 それで現在、父上に「銭くれ!」そう、お話しをしている訳なんです。



「むむむ…… 誰ぞある!」


「はっ、お呼びで」


「豊前か。玉が策定した、この治水に関する経費の内訳を吟味いたせ」


「かしこまりました。少々お時間を頂きます」



 うわー、あの親父、自分で計算出来ないからって部下に丸投げしやがった。


 豊前と呼ばれた部下の名前は、本田家吉もとだいえよしね。「ほんだ」じゃないよ。 豊前守だから豊前という訳です。

 でも、この豊前守は正式に朝廷から貰った官位ではなくて、残念ながら父上が恩賞として名乗ることを許した、なんちゃって豊前守なんですよね。でも、この家吉さんって奉行衆の一人で重臣でもあるんだよね。


 父上が呼んだら、重臣が小姓の真似して直ぐに顔を出していて、それで尼子は大丈夫なんですかね? 尼子の将来が心配になりますね。


 ちなみに、父上の官位は、従五位下修理大夫です。これは朝廷から正式に貰った、ありがたい官位です。修理大夫とは読んで字の如く、内裏の修理とかを司る役所のことです。そこの長官が大夫ってことです。

 出雲にいたら内裏の修理なんて出来ないのにね。はした金程度、数百貫の献金で官位をばら撒いている朝廷の哀愁が漂ってきそうですね。


 でも、修理大夫って本当は、従四位下が妥当なんですよね。もしかして、尼子は公家に舐められているのかな? それとも、朝廷は貧乏だから本当に内裏の修理しに来いって嫌味なのかも知れませんね。



「お待たせしました」


「時間が掛かったの」


「申し訳ございません」



 家吉さん面倒くさい計算させてごめんねー。まだ寒い季節なのに途中から汗かいてたもんね。



「なに気にするな。豊前より算術が得意な者は尼子家中には、数えるほどしかおらんからの」


「そう言っていただき、ありがたき幸せにございまする。それで御屋形様、内訳ですが、数字には間違いはございません」


「であろうの。玉が計算したのだから、間違いはないじゃろ」



 あるかも知れませんよ? この時代の人よりは多少は計算できるけど、元々の私の頭はそんなに良くありませんから。むしろ悪い部類に入りますから。普段使わなくなったニートの退化した脳ミソなめんなよ。



「しかしながら、姫様が書いた、この数式と書式は見事にござりまするな」


「そうじゃろ、そうじゃろ! なんと言っても儂の娘が書いたのじゃからの!」



 うわー、この親父、親バカになっちゃてますよ。



「まことに優秀な姫様にございまするな」


「うむうむ。しかし、うーむ…… 1年目に1万4千貫で、それ以降の3年間が年1万2千貫で合計5万貫とな? それならば大丈夫だが、玉よ。もう少し安く上げられないのか? 例えば、川幅を半分にするとかの」



 うわっ! 父上も私と同じ発想でケチろうとするのか。



「父上、それでは川が氾濫する危険が倍では済みませぬ」


「しかしのぉ」



 まあ、大金だし仕方ないのかもね。というか、父上は治水する気あるんですかね?






「仕方ありません。それでは、大社の門前町と宇竜港と平田港の上がりをもらいますね」


「まてまてまて! それはいかんぞ! あれらは儂のモノじゃ!」



 むむむ、儂がごねていたら、しびれを切らした玉が儂の金づるを寄越せだと?

 どうしてこうなるのだ? どこで育て間違えたのだ? いや、まあ、儂が育てた訳ではないのだがな。

 業突く張り、図に乗る出ない。そう言うのは容易いのだが、玉が治水に必要と言うのだから一考の余地はあるのかも知れん。いや、だがな……



「父上、アレらは元々郡代である私の差配の範囲内のはずではありませんか?」


「玉を郡代に任命したのは儂なのじゃから、アレらは儂のモノじゃ!」


「ふー、仕方ありませんね。それでは、三刀屋の北、高窪にある屋内村を下さい」


「まてまてまて! どうしてそうなるんだ!? それに、その屋内村は三刀屋の領地ではないのか?」



 むむむ、更に儂がごねていたら、ため息を吐いた玉が今度は村を寄越せだと?

 どうしてこうなるのだ? どこで育て間違えたのだ? いや、まあ、儂が育てた訳ではないのだがな。

 業突く張り、図に乗る出ない。そう言うのは容易いのだが、玉が治水に必要と言うのだから一考の余地はあるのかも知れん。いや、だがな……



「飯石郡ではありますが、父上の直轄領のはずですよ?」


「豊前、そうなのか?」


「御意。十数年前の大内来襲の折り、大内に寝返っていた三刀屋殿が尼子に帰参した時に、罰として三刀屋殿から没収した土地にございまする」


「そういえば、そうであったな。それで、玉よ。なぜ、屋内村が欲しいのだ?」


「燃える石があるとか金山彦神が言っていたのを思い出しました」


「燃える石だと?」


「なんと!」



 そんな石は聞いたことがない。いや、九州の筑後かどこかにあると聞いたような気がしないでもないが…… それに、玉のお告げは良く当たるのじゃから、燃える石があるのだろうの。



「それで、その燃える石があるとして、何に使うのだ?」


「燃えるのですから、主に薪の代わりにしようと思います」


「薪の消費は馬鹿になりませんですから、姫様が仰る燃える石が使えれば助かりまするな」


「豊前の言う通りじゃな。鉄を作るのにも銀や銅を溶かすのにも、薪は大量に必要じゃからの」


「はい。それで、その燃える石を使って銅銭の私鋳をしたいと思います」



 いま、この娘はなんと言った? 銭の私鋳とか聞こえたような……?


 燃える石から、どうして銅銭の私鋳に繋がるのだ? やはり、玉の頭の中は儂らとは違う中身が詰まっているのかも知れん。まさしく、神のみぞ知るということなのか……


 だが、どうしてこうなった?



展開が遅くてすみません><

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[一言] 展開が遅く感じてしまう原因は主人公の父、尼子当主がこのような繰り返し同じ意味の言葉を繰り返して言うからかと。(分かりやすくすると、原因は主人公の父が同じ言葉を繰り返して言うからかとなります)…
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