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88話 南蛮船


 永禄3年(1560年)11月 摂津 住吉郡 和泉 大鳥郡 国境 堺



「ふぇ~、大きな船ですねー」


「うん、大きいね」



 お元気ですか? 見学がてら、堺の港に来ている玉です。



「おひいさま、変わった形をしている船ですね」


「そうだね。あれが南蛮船みたいだね」



 西洋の帆船には詳しくありませんので、あの南蛮船がガレオン船なのかキャラック船なのかは分かりませんけど、とにかく日の本の船よりもデカイです。倍近くの大きさですかね? 50メートル近くはありそうですね。

 どこかに、難破船が転がってたら調査して真似して作ってみたいものです。竜骨が真ん中に通ってるのは分かるのですけど、それ以外の仕組みが分かりませんので、私ではお手上げであります。



「安宅船や弁才船が、まるで子供みたいに見えますよ」


「そうだね」


「はははっ、初めて南蛮船を見ると、みんな驚きますな。私もたまげたものですわ」



 今回は、ボンバーマンだけではなくて、納屋の主人である今井宗久も一緒です。本名は今井久秀といいます。ボンバーマンも久秀ですし、久秀という名前は腹黒紳士の代名詞でもあるのでしょうかね?

 納屋といっても、物置小屋じゃないよ? 屋号が納屋で本業は皮屋さんです。まあ、倉庫業も営んでいるみたいではありますけど。魚屋という名前なのに、魚を扱わずに倉庫業をしている千利休なんかもいましたね。屋号って結構適当みたいですね。



「某も初めて南蛮船を見た時は驚きましたな」


「日の本の船と姿形も違うからね」


「左様ですな」



 しかし、そう考えると、こういう場面では前世知識も全然役に立ちませんよね。知識チートが出来なかった。残念! つまり、この時代の人間でも私より賢い人が、ごまんといるとうことです。

 まあ、元がニートですので、私のお頭の程度なんて、元から高が知れているともいいますがね。


 それはそうと、盗めるモノは盗めるうちに盗まないとね。



「春姉、紙と墨汁をちょうだい」


「ちょっと待ってくださいな」



 ガサゴソ



「はい、どうぞ」


「ん、ありがと」


「でも、こんな港で、なにを書くのですか?」


「あの南蛮船の絵を描くんだよ」



 まあ、こうして実物を見れたのですから、外からジックリねっちょりと観察させてもらいましょう。マストの数や位置に帆の形状…… って、メインの帆はたたまれているじゃん! 港に停泊している状況では、そりゃあ帆も仕舞いますか。

 仕方がないので、帆は前世の記憶と和船の帆から想像しましょうかね。南蛮船が出航するところが見れたら儲け物なんだけどなぁ。まあ、それは贅沢というヤツですかね。



「おひいさま、もしかして出雲に戻ったら、あの南蛮船を真似て造るつもりですか?」


「そういうこと」



 外観からある程度は内部も想像出来ますし、1/10や1/5スケールとか、小さめの試作船を造って、中海か宍道湖でテストしてみるのも良いかも知れませんね。1/10スケールだと、5メートルほどだから、まともに人が乗るのは無理そうですが。

 しかし、そのテストが上手く行けば、その次には、いま眺めている南蛮船の半分ぐらいの大きさで造って、外海の荒波にも耐えれるのかテストしてみたいですね。でも、浸水や難破とか沈没が怖いですから、最初は沿岸部でテストしましょうかね。



 サラサラ……


 サラサラサラ……



 ただいま、無心になって南蛮船を模写しております。これぞ、無我の境地なのかも知れませんね。飲兵衛である越中のオッサンも、私を見習って欲しいものですよね。

 手前味噌になりますけど、私が集中した時は凄まじい力を発揮するのです。まあ、短時間しか集中力が続かないのが、玉に瑕ではありますがね。



「ほう? 上手いものですなぁ」


「私の数少ない特技の一つだよ」



 へへっ、ボンバーマンに褒められちった。ちょっと嬉しいかも。


 まあ、実際には、そんなに上手く描けているとは思わないのですが、私が描く絵は現代風ですので、この時代の人が描く絵柄とは、一線を画しているは事実でしょうね。でも、小学校の図工の成績は、ずっと5でしたから、そこそこは見れる絵だとは思います。

 そういえば、県のコンクールでも入賞したこともありましたね。まあ、所詮は子供時代に描いた絵ですので、自慢にはなりませんでしたね。あと、中学や高校とかの成績を言えないのは、聞かないで下さい。



「しかし、お大名様は我々とは違いますなぁ」


「うん? 今井殿、それはどういう意味でかな?」



 いまの今井宗久の言葉には、なんだか少し棘があるような感じがしましたね。



「いえ、南蛮船を造るだなんて豪気な話やおまへんか」


「そうかな?」



 南蛮船を造れるようになれば、マカオでもルソンでも、今よりも楽に行けるようになると思うけどなぁ。和船は外洋の遠洋航海には不向きな船のはずですので、このから先の時代では、南蛮船が必要になると思うのですよ。

 レーベンスラウムの獲得は、日の本の国家千年の計でもあります。なんだか、名前からして壮大な負けフラグ臭がプンプンする気もしますが。東方生存権ではなくて、北方生存権と南方生存権なのですから、もーまんたいであります。


 東方は、だだっ広い太平洋しかありませんので、気にしないでおきましょう。それに、蝦夷、北海道でさえ、まともに開発出来るようになるのに、百年は掛かりそうですから、海洋進出が出来るかどうか怪しいですしね。

 その前に、まだ、日の本の統一すら出来てなかったのでした。ダメじゃん。でも、南蛮船を建造しておいても損なことはありません。いつかは役に立つ日が来るのですから。



「私たち商人では無理ですさかい」


「最初から諦めていたら、なにも作れないよ」



 商人は、お金を沢山一杯持っているのですから、南蛮船を真似して造ることは出来ると思いますよ? 造ろうとしないだけの気がするのは、私の気のせいですかね?



「それはそうでんな。そやけど、失敗したら目も当てられまへん」


「なるほど、失敗を恐れずに造ろうとしているから、私が豪気ってことでしたか」



 商人たちは失敗して銭をドブに捨てるのを恐れている訳でしたか。でも、そんなことを言ったら、南蛮貿易でも大陸貿易でも難破遭難のリスクは高いはずですよね。

 貿易と未知なる南蛮船建造。分かりやすい目に見えるリターンが、有るのと無いとの違いでしょうか? 私は、これからの時代に南蛮船は有用だと分かっているから、失敗を恐れずに造ろうとしているけど、商人たちは既存の和船でも代用が効くから、

その一歩を踏み出せないみたいですね。船を建造するのには大金が必要ですしね。ましてや、いままで一度も作ったことがない南蛮船だしね。まあ、その商人の気持ちも分からんでもないかな。


 だがしかし、失敗を恐れていたら、一歩も前に進めないではありませんか。新しい技術を確立するというのは、試行錯誤と失敗の連続なのですから。その失敗を糧にして次の挑戦に繋げるのです。その先に成功があるのですから。

 まあ、前世の知識がある私が言っても、説得力は半減だと思いますけれどね。



「姫様は金持ちですから、南蛮船を造ろうと思えるのですよ」


「いやー、それほどでもあるよ」



 佐摩の銀と私鋳銭で、銭は腐るほど余ってますしね!



「某では、とても無理ですな」



 南蛮船の建造は、もしかしたら、金持ちの道楽なのかも知れませんね。でも、私たち武家は、人の上前を撥ねて生活しているのですから、新しいモノにチャレンジして民の生活を豊にするのは、人の上に立つ人間の義務だと思いますね。

 まあ、ノブレスオブリュ-ジュ、高貴なる人間の義務とまで、そこまでは言いませんけどさ。


 高貴なのは、お歯黒おじゃる丸たちですしね。彼等は、ほとんど何もしていないような気もしないでもないですけれども。まあ、一部の公家、山科卿とかは庶民の役に立っていますので、それで良しとしましょうか。

 公家には、先立つものもありませんので、仕方がない面もありますしね。つまり、この乱世、末法の世は全部貧乏が悪いんや!



「なんだったら、弾正殿も一枚噛まない?」


「よろしいのですか?」


「利害関係があるうちは、人間って仲良く出来ると思わないかな?」


「左様ですな。いやはや、姫様の深謀遠慮には感服いたしますなぁ」



 あれ? これってもしかして、このまま行けば東インド会社みたいなモノに発展するのかな? まあ、株式会社自体は、既に佐摩の銀山で実現しちゃいましたので、残念ながらも、世界初の称号は与えられないと思いますがね。

 ということは、東インド会社もこの時代のはずでしたけど、設立した正確な年代までは知りませんので、もしかしたら、佐摩の銀山が世界初の株式会社だったのかな?


 (仮)石見銀山株式会社


 うむ、私ってば、また歴史に新たな一ページを書き加えてしまったようでしたね!


 自分の才能が怖くなっちゃいますね!






「玉姫様。そのお話、松永様だけではなく、ぜひ、私どもの納屋も加えては頂けないでしょうか?」



 うわー、ここに、生き馬の目を抜く腹黒商人が居たのを忘れてたわ……


 どうすんべ?



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