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85話 南蛮人と日記

1/19ガスパル・ヴィレラの日記より下を加筆修正しました。


「うぇりーいず、ゆーあーかんとりー?」


「ポルトゲーザデス」



 やっぱり、この時代の堺ではイギリス人じゃなくて、ポルトガル人でしたか。この宣教師の見た目も、アングロサクソンというよりもラテン系ですしね。なんていうのかな? イニエスタとプジョルとクリロナを足して割った感じでしょうかね?

 まあ、イニエスタは隠れ日本人みたいな気もしますけどね。といいますか、本当に日本人の血が入っているのかも知れませんね。戦国時代にはヨーロッパに渡ったキリシタンの日本人も少数ですが存在したようですしね。



「おー! ポルトガルブリタニカ、えたーなるあらいあんす! レコンキスタ! ポルトガル! リスボン! ヴァスコ・ダ・ガマ! うぇるかむとぅー、じぱんぐ!」


「ヴァスコ・ダ・ガマをシッテイルのデスカ?」



 ヴァスコ・ダ・ガマってなんでしたっけ? サッカークラブか葉巻の気がしましたね。ただ単に語呂が良いから思いつきで言ってみただけなんですけどね。確か人の名前でしたっけ? 冒険家かな?

 アベンジャー! ……違った。アベンジャーは復讐者だった。

 冒険は、アドベンチャー。つまり、アドベンチャラー! でも、冒険家というよりも、コロンブスみたいな探検家とか探索のほうが、しっくりくる気がしますね。まあ、冒険家も探検家も似たような気がしないでもないですが。



「えくすぷろーらー?」


「ハイ、ソウデスね」



 ビンゴでしたか。



「いっいずざせーむあず、マゼランおぁコロンブス!」


「マゼランやコロンブスまでシッテましたカ」


「やー、なちゅらりー」



 当たり前でんがな。この世界のことは、この時代の誰よりも知っているはずですよ。多分だけど。まあ、世界の歴史は大して知りませんけど、おおよその世界地図は頭の中に入っていますしね。

 私の頭の中にある世界地図よりも詳しい世界地図を知っている人間は、この時代には皆無なのですから。ですから、私がオーストラリア大陸を征服することも不可能ではないのです。まだ、イギリスは植民してないのですからチャンスではあるのですよ。


 まあ、面倒くさいので、私自身がすることはないと思いますがね。面倒なこと、危ないことは部下に任せるに限りますし。うむ、これぞ上位者の特権ですよね。

 だがしかし、遠洋航海に適した船がなかった。ダメじゃん。



 ツンツン



 誰だ! ツンツン突いて私の異文化コミュニケーションを邪魔する不逞の輩は! まあ、私をツンツン突くなど恐れ多いことを出来るのは、私が知る限りは一人しかいないのですがね。



「おひいさま……」


「うん? どったの?」


「この南蛮人は、日の本の言葉を話してますよ?」


「なぬ!?」



 やってもうた……


 これでは、今夜は恥ずかしさにアウアウアーで、お布団ゴロゴロの刑一直線ではありませんか!



「おー、じーざす……」



 なんてこったい!



「ワタシもジパングで、ブリタニカのコトバをキケルとは、オモッテもイマセンデシタのでオドロキました」



 宣教師も肩を竦めるなよ! そのポーズをして良いのは、ハリウッドの映画の中だけなんだよ!



「ごほんっ、失礼しました。南蛮人を見て舞い上がってしまったようです」


「メズラシイデスカラね。ワタシは、ガスパル・ヴィレラとイイマス。アナタのナマエはナントイイますカ?」



 ヴィレラ? 前世でも聞いたことがない名前ですね。宣教師といったら、フランシスコ・ザビエルか、ルイス・フロイスしか知りませんよ。あと、カブレラとかアルメイダとかいう名前の人もいたような気もしましたが。



「私は、尼子玉だよ。南蛮風に言えば、タマ・アマゴかな。タマがファーストネームで、アマゴがファミリーネームね」


「アマゴ? モシカシテ、イズモのヒメダイミョウのアマゴデスカ?」



 おー、南蛮人にも尼子が知られているとは、私も捨てたモンじゃありませんね!



「ざっつらいっ! 大名を南蛮風に言えば、マーキスやカウントとかヴァイカウントかな。私の場合は領地の広さ的に、マーグレイブってところかしらね?」



 女性の場合は、後ろにessとかが付いて名詞が変わるのですけど、この場では些細なことですよね。


 侯爵は言い過ぎかも知れませんが、辺境伯を名乗っても罰は当たらないぐらいには、私と尼子の実力はありますし、それなりに貢献もしていると自負しております。主に家臣たちが頑張ってくれた結果ですがね。

 辺境伯って、侯爵や伯爵とかよりも格好良いと思いますしね。辺境伯という言葉の響きが、普通とは一味違うぜ!という語感が良いのです。人はそれを、ゲフンゲフン……


 しかし、大名を侯爵マーキス辺境伯マーグレイブ伯爵カウント子爵ヴァイカウントなどの爵位だけに、当て嵌めるのは無理があるのかも知れません。


 公、侯、伯、子、男とかの爵位ではなくて、日の本には、正一位から少初位下までの、30階まである位階が存在しますしね。ちなみに、私の従五位上は、13番目の位階ですね。

 そう考えると、上から数えて13番目とか、結構、いや、かなり地味なポジションなのが分かってしまって、少し落ち込んでしまいますよ…… まあ、殿上人では下っ端ですので、仕方がないのですけれども。



「コ、コレハ、シラナカッタとはイエ、シツレイシました」


「それで、あなたはコンキスタドールなのかしら?」


「イ、イエ、チガイマス。ワタシはイエズスカイのパードレ、アナタタチがイウトコロのバテレンデス」


「ふーん、イエズス会の宣教師ねぇ」



 まあ、宣教師なのは格好を見れば、一目瞭然ではありますけどさ。でも、宣教師というのは、植民地を獲得するための尖兵でもあるんだよね。地元民を改宗させて命令すれば、その地の権力者を倒すのも容易になりますしね。



「ハイ、ソウデス」


「まあ、その言葉を一応は信じてあげるよ」


「アリガトウゴザイマス」



 でも、ちょっと嫌味といいますか、こっちは知っているんだぞってな具合に、一応は釘を刺しておきましょうかね。



「バチカンもプロテスタントに押されて苦しいみたいだしね。マルティン・ルターだっけ?」


「ナ、ナゼ、ソレをシッテイルのデスカ!?」



 うむうむ、顔が青くなっちゃいましたね。色が白いですから、よけいに分かりやすいですよね。



「ふふっ、私が、いんぐりっしゅを喋れるのは何故でしょうね?」


「ソ、ソウイウことデシタカ……」



 あらら、ヴィレラさんってば、首を振って項垂れてしまいましたよ。少し薬が効きすぎてしまいましたかね? 可哀想なので、ここは一つ、リップサービスでもしておきましょうか。



「でも、心配しないでも大丈夫だよ」


「ドウイウことデショウカ?」


「バチカンの方針はともかく、イエズス会はフランシスコ・ザビエルでしょ?」


「ハイ。イマは、トルレスとイウ、ヒトがダイヒョウデスガ」



 うん? トルレス? ああ、トーレスか。



「そのトーレスさんも、ザビエルの方針を引き継いでいるの?」


「ハイ。ビスポ・シャヴィエルのオシエをマモッテます」


「ビスポ? ビショップのこと?」


「ハイ、ソウデス。ビショップのことデスね」


「そう、ザビエルの教えを守っているのならば、取り敢えずは構わないわね。それに、畿内は私の領地ではなくて三好殿の領地だしね」



 フランシスコ・ザビエルのイエズス会は、カトリックの中では穏健派の部類に入るらしいのです。一応は、という但し書きは付きますがね。なんでしたっけ? 適応主義とかいうヤツみたいで、その土地の文化と伝統に

カトリックの教えほうを合わせるという、布教のやり方みたいなのです。この適応主義でしたら、その土地の住民の反発は最小限だと思いますので、なかなかに賢い布教のやり方だと思いますよね。


 神に選ばれた自分たち白人以外は、人間じゃないという優越思想は、ドコに行ってしまったんだ? べつの宗派か会派の白人なのかな? それとも、ザビエルが寛容なだけなのかも知れませんね。



「タマヒメサマのイズモでも、フキョウのキョカをイタダケルのデショウカ?」



 おっと、甘い顔をしたら、いきなしそう来ましたか。だがしかし! そうは問屋は卸しませんよ。



「それ相応の見返りがあれば、考えなくもないわよ」


「ミカエリデスカ……」


「おふこーす! 私は出雲の大名であって、聖人君子でもなんでもないのですから、見返りは当然だよ」



 尼子の領内で布教をしたければ、さっさと私に賄賂を寄越すのだ! そうすれば、布教の許可を与えるのも考えなくもないですよ? 考えるだけかも知れませんがね! なんせ私は、杵築大社に仕える巫女なのですから。



「ワカリました。カンガエさせてイタダキます」


「期待しているよ! それじゃあね、アディオス!」



 まあ、大したモノは期待できない気もしますけどね。私から見れば、大抵のモノはショボく見えてしまいますしね。蒸留器は助かりましたが。


 それに、人間というのは、貧しいから宗教に縋る人が大半なのですから、豊かな尼子領では、キリシタンに転ぶ人間は少ないでしょうしね。残念ながらも、私の領内では宣教師の努力は報われないのだよ!


 といいますか、アディオスって悪役みたいな、さよならの言葉ですよね?

 私は、こんなにも天使なのにね!


 あ、金平糖には期待してますので、よろしく!











 西暦20XX年 ポルトガル リスボン 国立公文書館



 ガスパル・ヴィレラの日記



『今日私は堺の町で、11、2才の若い娘に出会った。その若い娘は、出雲や伯耆とか8ヶ国もの国を治め、京や堺でも噂に聞く、いまをときめく大大名でもあった。あんなにも小さな娘が8ヶ国を治める女王とは信じられないが、事実であるらしい。

 さらに私を驚かせたのが、彼女が拙いながらもブリタニカの言葉を喋ったのである。なぜ? どうして? こんな東の果ての島国の人間が、それも子供がブリタニカの言葉を知っているのだ? 所々では、我が国の言葉とスペインの言葉も混ざっていた。


 私の疑問に答えてくれたのは、その子供自身であった。彼女は、ヨーロッパでカトリック教徒が次々とプロテスタントに改宗していることを知っていたのだ。そのことを示す事実は一つ、イングランドの船も既にジパングに辿り着いていたということである。

 このことが真実だとすれば、由々しき事態である。


 さらに彼女は、イベリア半島のレコンキスタも、ヴァスコ・ダ・ガマ、マゼラン、コロンブスも知っていたのだ。最悪なことに、コンキスタドールのことすら知っていて、私に対しても、コンキスタドールなのか? そう、尋ねてきたのだ!

 コンキスタドールを知られているのは、非常に不味い状況である。


 なんたることだ…… おおっ、神よっ!


 私は、この恐ろしい事実をゴアとバチカンにどう報告すれば良いのか、判断を非常に迷っている。出来ることならば、もう少し彼女から詳しく話を聞きたいところであるのだが、相手は8ヶ国の女王だ。なかなか面会は出来なさそうだ……

 どうにかして、彼女と友好的な関係を築いて信頼を勝ち得なければ、ジパングでの布教は覚束なくなる、いや、最悪の場合は頓挫するであろう。


 願わくば神の祝福が与えられることを祈って、アーメン』






「なあ、この時期、1560年よりも前にイングランド人が、日本に辿り着いたという事実は本当にあったのか?」


「いや、寡聞にして聞いたことがないな。記録が確かならば、1600年にオランダの船に乗っていたウィリアム・アダムスが最初のはずだ」


「そうだよな。制海権も途中の寄港地も我が国とスペインが押さえていたのだから、1560年というのは無理があるよな」


「この日記が表に出れば物議をかもし過ぎるぞ」


「物議を巻き起こすだろうが、これは世紀の大発見だぞ!」


「しかし、この日記はお蔵入りにしたほうが良くないか? あまりにも危険な代物の気がするのだが……」


「そうか? 既に400年以上前の出来事のなにが危険なのだ?」


「いや、その日本人の娘って、例の玉姫じゃないのか?」


「出雲の玉姫……」


「ああ、その玉姫だ……」



舵を逆に切り直しましたw

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[一言] ぶっちゃけ、聖遺物。
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