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76話 山科言継

1/5 サブタイ修正。中身も多少加筆しました。


「玉殿は無位無官であらしゃりますので、ここは一つ官位でも如何でおじゃるか?」



 官位キターーーっ!!



「おひいさま、おめでとうございます!」


「うん、ありがとうね。でも、まだ気が早いわよ」



 かんいっ、かんいっ、官位ぃぃぃ! いやっほーーーっ!! これで、玉ちゃんも名実ともに大大名の仲間入りだぜぇぇぇ!


 こほん、失礼しました。取り繕わなくては。でも、目尻が下がってニマニマと締まりのない顔をしてそうなのが、鏡を見なくても自分でも分かりますね。

 春姉に言った手前もあるから、気を引き締めて、ここは一つ常識人として振る舞わなくてはなりません。



「官位でございますか? 頂けるのであれば喜んで頂きますけど、女子に渡せる官位は限られているのではありませんか?」


「位階はともかく、確かに官職は限られておじゃるの」



 ですよねー。紫式部とか清少納言だって、本人が式部少輔や少納言の官位を貰って、ソレを名乗っていたわけじゃないもんね。アレらは旦那さんの官位だったはずですしね。いつの時代でも、女性の地位は低いのが当たり前なのですから。

 下手しなくても家系図なんかでも女性は、"女"としか書かれていない時代ですしね。それも大名級の家ですらそんなありさまなので、後世に名前が残っている女性のほうが、稀有な存在なのです。


 それはそうと、私の官位はなんでしょうかね? ワクワクしてテカっちゃうぞ。



「具体的に山科卿は、私に対してどのような官職を考えているのでしょうか?」


「うむ、外従五位下、杵築大社禰宜など如何でおじゃるか?」



 ピキッ



「春姉、内蔵頭殿の前にある赤酒は下げていいから」


「おひいさま?」


「玉殿、この澄んだ酒を下げるなどと、雅な行いではないでおじゃるよ」



 雅な行いは京の都で行えばよろしゅうおま。なんせここは、雅の"み"の字も知らない日の本の片田舎も片田舎な、裏日本のド田舎な出雲ですので、ごめんあそばせ。



「ふーん、朝廷の尼子に対する扱いって、そんなもんだったんだぁ」


「お、おひいさま……?」


「た、たまどの……?」


「最低でも毎年二千貫は確実に朝廷に納めてあげる、尼子家の当主である私への扱いがコレとはねぇ。ふーん、そうなんだぁ。ふーん……」


「おひいさま、心の声が漏れてる気がしますよ……」



 漏れてる? いいえ、あえて、雅なオッサンに聞こえるように、これ見よがしに漏らしているのであらしゃいます。思いは言葉にしないと伝わらないもんね。耳は二つあるけど、口は一つしかありませんので。

 オッサンには二つの耳をかっぽっじって、よーく聞いて欲しいですね。



「尼子と毛利以外で、朝廷に毎年二千貫を気前良く差し出す大名って日の本で他にいるのかしらねぇ?」



 それも、恐らくはこれからもずっと、毎年にわたって、に せ ん が ん、もの大金を。義父上様にも言って、毛利の分も考えてもらわなくちゃならないわねぇ。これから忙しくなりそうだこと。ああ、忙しい、忙しい」



「ど、どうしたでおじゃるか? 麻呂が気に障ることでも言ったでおじゃるか?」


「どうしたもこうしたも、ゲってなによ! ゲって!」



 外位じゃ、四位以上に上がれないじゃないのよ! アンタ、尼子を舐めてんの! それが朝廷の考え、尼子の扱いならば、こっちにも考えがあるわよ! 尼子100万石を舐めんなよっ!」



「おおお、おひいさま、落ち着いて下さい! 漏れてますってば!」


「うむ、落ち着かれるでおじゃる。目が怖いでおじゃるよ」



 これが落ち着いていられるものかよ! 官位をくれるといって喜んだのも束の間、よりにもよって、外従五位下だなんて! 朝廷は私を女だと思って、完全に見下しに掛かっている気がしますね。

 私も尼子の当主です。私が朝廷に舐められているのは、尼子と家臣が舐められてるのと同義であります。延いては私が家臣にも舐められ、他の諸大名にも舐められるということです。この乱世では面子は大事なのであります。


 おい、聞いたか? →なにをだ? →尼子の玉姫が官位を貰ったってさ。→なんの官位を貰ったんだ? →それが、外位だとよ。→いまどき外位? →ああ、外位なんてダサいよな。→ありがたみも薄れるよな。

 プークスクス。と、こうなる訳であります。これは非常に不味い展開ですよね。


 まあ、私一人だけであったのならば、面子なんて拘らないのですがね。でも、私が背負っているモノが、それを許さないのですよ。それと、外位の位階だけの問題ではなくて、官職も問題なのです。



「それに、杵築大社禰宜の官職は朝廷に貰わなくても、私は既に杵築大社の禰宜ですし、杵築大社の役職に朝廷が首を突っ込むのならば、こっちも首を突っ込ませてもらうわよ」


「ど、どういうことでおじゃるか?」



 天照大御神の系譜である朝廷が出雲を邪険に扱うだなんて、100万年早いわ! 伊勢は出雲に足を向けれる立場じゃないのですから。主神は引き籠もりのババアですしね。



「うごっ!」


「おひいさま、頭を抱えてどうされましたか?」


「大丈夫。なんでもない」



 いまの痛みは、なんだったんだ? ババアと言った天罰ですかね? え? 私の曾々婆ちゃん……? いや、まさかね?


 それはともかく、杵築大社の巫女である私の立場では、杵築大社禰宜を朝廷から貰うなんてことは、許容できないのであります。だから、ここは強気で押し通すのみ。



「従五位上、斎宮勅別当をちょうだい。できなければ、今後一切朝廷への献金は行わないから、山科卿もそのつもりでいてね」


「先ほど玉殿は、見返りを求めないと申したでおじゃるぞ?」



 あー、あー、きーこーえーなーいー。聞こえません。



「そうでしたっけ? 山科卿の聞き間違えではあらしゃりませんか? 仮にそうだったとしても、んなもん社交辞令ってヤツでおじゃる」


「建前をかなぐり捨てて本音をぶち撒けるのは、雅な行いではないでおじゃるなぁ」


「なにぶんにも京の都の雅さとは無縁の田舎者故に、ご堪忍いただければ、と」


「さ、左様でおじゃるか」



 けして、二千貫の上納金を盾に取って脅しているわけではありませんよ? これは、交渉、お願いの類いであって、お話し合いなのですから。笑顔でプリーズと言えば、大抵のことはなんとかなるものなのです。



「それはそうと、五位鷺なんて揶揄されているんだから、外位などとケチケチしないで、内位の従五位上をさっさと寄越す」


「身も蓋もない言い方でおじゃるな。まあ、下向と称して夜逃げする羽林家や名家がおるのは、否定できないでおじゃるが」



 醍醐天皇も後世でこんな言われ方をするだなんて、よもや思ってもいなかったでしょうね。でも、五位鷺が夜行性なんだから仕方ないよね。



「そうでしょ? だから、権威の切り売りしかできない朝廷が出し惜しみしてどうすんのよ」



 まあ、権威の切り売り、それしかできないから、出し惜しみするのでしょうけどさ。



「またもや、身も蓋もない言い方でおじゃる。玉殿は毒舌でおじゃるよ」



 キュアやポイズンキュアとかキュアリー持ちで、なおかつピュアな私に対して、毒舌持ちだなんて失礼しちゃいますよね。



「あら? これでも褒めてるつもりなんだけどなぁ。権力を手放して権威のみに生きる朝廷の生き方は、俗世の欲に塗れた武家の俗物には、なかなか真似できるモノではないと思うよ」


「南北に分かれた時代で懲りたのでおじゃるよ」



 ふーん、前世では戦国時代以前の歴史ってあまり興味がなかったから、南北朝の時代とか詳しくないんだよね。転生してからのほうが勉強をして、歴史を少しは覚えた気がしますね。

 まあ、権力を手放したといっても、権威の中での権力争いは残ったのですから、逆に暗闘は凄まじくなっていそうな気もしますが。公家の処世術なんかには、武家は逆立ちしても及びませんよ。


 お歯黒おじゃる丸たちは、ある意味スゲーわ。私には真似できませんので。


 それはともかく、



「なるほど。だったら、さっさと寄越す」


「しかし、いきなり最初から従五位上は無理でおじゃるよ。足利将軍家でさえ始めは従五位下からでおじゃる」


「ふーん、従五位下に叙されて即、翌日に従五位上に昇叙して如元ならば、妥協の余地はあるわね」



 確かに、足利の次期将軍候補が、最初に貰えるというか欲しがる官位が、従五位下、左馬頭だったっけ? でも、馬頭の官職に妥当な位階は、従五位上が相当するんじゃなかったかな?

 まあ、その辺りは結構いい加減なのかも知れませんね。父上も従四位下が相当の修理大夫だったけど、従五位下でしたしね。探せば、こんな例はゴロゴロと出てきますよね。



「それに、斎宮頭ではなくて、勅別当でおじゃるか?」


「兼任でもいいわよ。斎宮頭とか寮頭って呼ばれるよりも、斎宮勅別当とか尼子別当様って呼ばれるほうが格好良くない?」



 まあ、もしかしたら、尼子斎宮なんて呼ばれるのかも知れませんが。それもありっちゃありかな?



「そ、そうでおじゃるか……?」


「これが、出雲流の雅なんですよ」


「麻呂にはイマイチ分からんでおじゃるよ。それに、玉殿は一つ誤解しておじゃる」


「誤解ですか?」



 はて? ナニを誤解しているのでしょうかね?











「うむ、斎宮は既に200年以上も前に廃れているのでおじゃるよ」



 な、なんだってー!






 まあ、知ってましたけどね。



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