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6話 新宮党


 天文23年(1554年)11月 出雲 月山富田城 尼子晴久



「婿殿、これは如何なる仕儀じゃ?」


「叔父御殿には色々と世話になったの。そう、色々とな。しかし最近は、いささか傲慢な振る舞いが目に余ると、家臣達の苦情が多くての」


「それは、奉行衆の讒言ですぞ!」


「はて? 讒言とな? ふーむ…… では、いままでの叔父御の行い、新宮党の行いを胸に手を当てて思い出してみるとよい」


「まさか、粛清するつもりか!?」


「尼子に頭は二つもいらんのだ! 殺れ!」


「おのれ! 恩を忘れおってーっ!」



 ズサッ






「ふう、これでようやく目の上の瘤がとれたか」


「心中お察し致します」


「十兵衛、備前! 誠久たち残りの連中も討ち漏らすな!」


「「御意!」」



 新宮党の領地を没収して直轄地に組み込めば、我が尼子の力は更に強くなる。

 これで、出雲の足元は盤石になるはずだ。



「許せよ、叔父御…… 誠久たちも許してくれ。これも尼子の為なのだ」






 さて、神門郡全域が直轄領になる訳だが、その仕置きを誰にさせるべきか……



「ふむ、やはり神門郡は、玉に任せてみるか。後見に辰敬を付けとけば大丈夫であ

ろう」



 自分の娘ながら、あの小娘は普通の娘とは違う。お告げは勿論の事じゃが、頭の中身が我々とは違う中身で出来ている感じじゃ。


 玉ならば、きっと色々な事をやってくれそうで、今から楽しみじゃわい。






 翌日 杵築大社



 とたたたたー



「この軽い足音は、春ちゃんだね。でも、廊下は走っちゃいけません」



 私が縁側に腰掛けて、晩秋の弱い日差しでほっこり日向ぼっこをしながら、柿を頬張っていると案の定、春が駆け込んできて開口一番、



「おひいさま大変です!」


「んー、そんなに慌ててどったの? 春も柿食べる? 甘くて美味しいよ」



 そういって私は、春に柿を手渡した。渋柿じゃないよ?



「あ、いただきます。あ、美味しいです!」


「そうでしょ! そうでしょ!」


「そうじゃなくて! 富田で、富田で!」


「父上に、なにかあったの!?」


「い、いえ、御屋形様じゃなくて、御屋形様が新宮党を粛清したとか!」


「ブーッ!」


「おひいさま汚いですよ」



 わーすーれーてーたー!!


 新宮党が粛清されるのを忘れてた!


 日時までは詳しく知らなかったけど、歴史知識としては知っていたはずなんだけどなぁ。毛利にばかり気を取られていて、すっかり忘れていたわ。


 しかし、この時期だったのかよ。



「新宮党って、たしか春も親戚だったよね?」


「はい。大伯母(多胡辰敬の姉)様が、紀伊守(尼子国久)様に嫁いでます」


「ということは、重盛殿と式部少輔(尼子誠久)殿が従兄弟になるのか」


「そうなりますね。孫四郎氏久殿たちが、私の"はとこ"になります」


「それで、春は大丈夫なの?」


「気を使って頂きありがとうございます。でも、私は別に気にしてませんから大丈夫ですよ。それに親戚と言ったら、おひいさまこそ親戚じゃないですか」


「そう言われてみれば、そうだったわ。私にとっても、孫四郎殿たちは"はとこ"になるのか。でも、身内って実感なかったかも」



 私にとっても新宮党の親戚は、たまに挨拶をした程度で、別に思い入れがある訳でもなんでもない、半分以上は他人って感覚だったしね。

「こいつらは、どうせそのうち父上に粛清される」そう思っていたから、自分からは近づかなかったし。



「そうですね。一応は親戚ですけど、あまり実感はありませんよね」



 親子や兄弟や従兄弟とかで、骨肉相食み殺し合うこんな戦国の世で、親戚なんていってもピンとこなくて当たり前なのかも知れませんね。


 政略結婚しまくりで、家と家の繋がりが複雑に絡み合っているから、○○家は△△家と従兄弟同士で△△家は××家に養子を出している兄弟同士で××家は○○家から嫁をもらっていて…… etc……


 なんてな具合でして。


 突き詰めて行くと、こんな狭い田舎の武家社会は、みんな親戚になってしまうぐらいなのですから。


 ちなみに、尼子は毛利とも、吉川を通じて血が繋がっているくらいですし。



「増長した新宮党の因果応報、か……」


「新宮党に属する連中は、威張っていて傲慢で評判は悪かったですもんね」


「聞いた話によると、末次殿なんて可哀想だったもんね」



 そうなのだ。ヒャッハーな連中が我が物顔で闊歩していたのだから、父上はさぞかしやり難かっただろうね。


 同情しちゃいます。



「でも、大丈夫でしょうか?」


「ん? なにが?」


「戦になった時ですよ。新宮党は尼子軍の中核を担っていたのですから」



 まあ、彼らが尼子一の精強だったことは認めますけど。でも、実際に自分の目で見た訳でもないし、新宮党が解散なのか弱体化なのか知らないけど、父上も考えて大丈夫だと判断して粛清したんだと思う。


 実際に、粛清をして新宮党の主要武将がいなくなっても歴史上では、この数年後に二度も毛利をコテンパに破っていたはずなのだ。


 そう、尼子は父晴久の代では滅亡していないどころか、毛利に石東を奪われてすらいないのだから。


 そう考えると、尼子も結構強いんですね。実感が湧かないのが、滅びた家の宿命のようで哀愁が漂いますけれども。


 滅亡するのは父上が死んで、兄の義久が当主になってからなのです。


 まあ、この世界が私の知ってる歴史と同じ道を辿って、毛利に勝てる保障はないのだけれども。


 私の主観では過去に転生というのは、転生が発生した時点でパラレルワールドなのだと思うのです。つまり、転生前の世界には繋がっていない平行世界ということです。


 あまり深く突き詰めて考えてしまったら、頭がこんがらがるので普段は考えないようにしてますが、ようは、地球の歴史にそっくりで地球そっくりな別の星に生れたと。そう、私は思うことにしてます。


 話が脱線してしまった。


 そうじゃなくって、このままでは父上の寿命が、あと5年ぐらいしか残ってないってことを思い出させてもらえたのだ。


 主に兄の義久のおかげで。


 これは不味い。義久は雲芸和議なんかを毛利と結ぶはずなのだ。しかし、毛利は和議を破って、そっから尼子は坂道を転げ落ちていくのだから。


 これは、いかに父晴久の寿命を延ばすか? この一点に尽きますね。


 たしか死因は卒中だったはずだから、お酒を控えめと塩分控えめの食事だけでも多少は効果があるはずだ。


 この時代の食事は、21世紀から転生してきた私にとって、はっきりと言ってお粗末すぎます。


 まず、調味料が発達してないから、やたらと塩辛いのです。これでは卒中が多いのも頷けますよね。


 あとは、私がお告げがあったとでも言って実行させれば、食生活を改善してくれるでしょう。


 多分だけれど……



「おひいさま?」


「ん? ああ、新宮党の後釜ね」


「はい」


「大丈夫だよ。これで、父上は中央集権化を推し進めれるから、却って尼子は強くなるはずだよ」


「ちゅうおうしゅうけんか? おひいさま、それはなんですか?」


「んっとね。字で書くと」



 私は地面に棒でガリガリと字を書いてみせた。



「『中央集権化』なるほど。文字で書いてあれば私でも、なんとなくですけど意味は分かります」


「これで、命令系統が父上に一本化されて、責任の所在も分かりやすくなるわね」


「なるほど。私には、おひいさまの言葉で逆に分かりににくなりました」


「あちゃー」



 現代で言ったら、春はまだ小学5年だもんね。命令系統の一本化とか責任の所在とかは、まだ難しかったみたいですね!




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