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40話 月山富田崩れ


「富田で義久様が乱心しました!」


「ブーーーッ!!」


「おひいさま、汚いですってば!」


「そそそ、それよりも、兄上が乱心ってどういうことなのよ! 詳しく教えて!」



 兄の義久が乱心って、なんなんですかね? 私の想像を遥かに超えてましたし……



「新年の祝賀の席で御屋形様が義久様を廃嫡しようとして、逆に御屋形様が幽閉されてしまったみたいです!」


「なんだってーーーっ!!」



 父上が幽閉された? それは、つまり押し込めっていうヤツですよね。どうしてそうなった? 歴史では、こんな騒動はなかったはずだ。父上は死ぬまで当主の座に居たはずですし、毛利を相手に忍原と降露坂の二回で破っているのですから。

 どうしてこうなった? ……もしかしなくても、私の所為か。私が歴史を動かしてしまったから、歪が生じて狂ってしまったということですかね。兄上が乱心なんて狂った行為に走ったのも、廃嫡されるのを恐れたからでしょうしね。廃嫡……?



「春姉、兄上が廃嫡ってどういうこと!? 仮に廃嫡されるとしても、次期当主は誰よ? 源五郎兄ぃなの?」


「おひいさまは、なにを言っているのですか? 尼子の次期当主の座は、おひいさまに決まっているじゃありませんか」



 ななな、なんだってーーーっ!! どうして私が尼子の当主になるんだ? 私は一応、女子だぞ? まあ、あまり自覚はありませんけれども、股に息子が付いてないのですから、女子で確定であります。それに最近では胸がしこって痛くなってきまして……

 源五郎は私の二つ上の兄のことです。恐らくは、尼子倫久と呼ばれた武将が源五郎兄上なのだと思われます。マイナー武将すぎて、まだ元服してないから正確には分かんないんだよね。ちなみに、源五郎兄上の母親は桃さんです。私と同腹ということですね!


 そうじゃなくて、



「なんで私が次期当主なのよ! おかしいじゃない!」


「おひいさまは、ご自分の価値を分かっていませんよね。もう既に尼子は、おひいさまが当主に付かないと納得しない者も大勢いるのですよ?」



 私の価値……? ああ、そういうことか。私は色々とやり過ぎてしまったということだったのか。出雲が豊かになれば民も喜ぶし尼子への忠誠心も上がるから、それだけ尼子が生き残る可能性が高くなると思ってやったことが、裏目に出たということでしたか。

 うーん、所謂これが、バタフライ効果というヤツですかね? でもまあ、とりあえず私の当主就任の話は横に置いとくとして、



「私の価値はともかくとして、父上はどうなったの? 大丈夫なの?」


「詳しくは分かりませんけど、富田城の奥に押し込まれているのではないでしょうか?」


「押し込められていても、無事なら一先ずは安心だね」



 乱心なんて言われたから、兄上が父上に斬りかかったのかと思ってしまいましたよ。まあ、兄上もそこまでは馬鹿じゃなかったということですね。



「姫様、安心ではございませぬぞ!」


「お爺様! その格好は!?」


「多胡爺! なにがあったの! それに源五郎兄ぃも」



 なんですか? その多胡爺のボロボロの格好は? まるで戦に負けた後みたいな姿じゃないですか。でも、一応は無事で良かった。それにしても、首の後ろがチリチリして嫌な感じがしますね……



「御屋形様、ご無念…… 義久様に斬られましたよしにて」


「なんだとっ!?」



 あー、なんだとは叫んでみたけど、押し込めどころか最悪の結果でしたか…… 馬鹿だった。まさか実の親を斬るだなんて、兄の義久はそこまで馬鹿だったのか…… 親兄弟で殺し合う破目になるだなんてね。ということは、私の命も危ないということですね。

 これだから、物事の分別がなくて思慮の浅い輩は困るのです。この時代には、そんな輩が多すぎるのですから。やはり、育った環境や教育とかって大事ですよね。人を人たらしめる為には、教育は不可欠なのであります。


 でも、いくら廃嫡されるからといっても、父上を殺すのは、なんでもやり過ぎではないのか? まるで、誰かに唆されでもしたような感じがするのだが……? 大抵の場合では、犯人は一番得をした人間と相場は決まっているのです。

 この場合では、もちろん兄の義久が一番得をするのですが、それだと、本当にただの乱心か錯乱した上での凶行で終わってしまいます。もちろん、その可能性も十分ありますし否定もしませんですけど、なにか引っ掛かるんですよね。


 そう、喉に魚の小骨が引っ掛かているような違和感を覚えるのです。父上を殺して、さらに私を排除して得をする人間は誰だ? 敵対勢力は尼子が兄の義久に代われば、尼子が弱体化するので喜ぶだろうしね。 ……敵対勢力!?


 そうか、そういうことでしたか…… 忍原で大敗を喫したから、正攻法ではなくて搦め手を使ってきたということか。あの戦国一の梟雄とまで言われているジジイのやりそうな手ですね。この推理が絶対とは言い切れませんが、ほぼ確実に正解の気がしますね。

 しかし、いつから出雲に、いや、義久と義久の周辺の人物に触手を伸ばしていたんだ? 忍原での合戦の後からだと、あまり時間的な余裕は無いはずだ。ということは、ずっと前から接触は取っていたということか!


 クソッタレめ!



「……毛利元就」


「毛利ですと!? 姫様は今回の件の裏に毛利が潜んでいるとお思いでございますか!」



 さすがの多胡爺でも、富田から這う這うの体で逃げてきたみたいだし、そこまでは頭が回らないのも仕方ありませんか。



「分からないわ。でも、私は十中八九は毛利が裏で糸を引いてたと確信しているよ。尼子の家中が割れて一番得をするのが誰なのか考えたら毛利に行き着いたわけ」


「なんと!? だがしかし、そう言われてみれば、確かに姫様の言う通りですな……」


「おおお、おひいさま……」


「直ぐにでも、義久兄上の手の者が大社にもやって来るわね」



 そう、私を捕らえるに来るのか、殺しに来るのかは知らないけど、父上すら殺した義久が私をほっておく理由などないのですから。私が義久ならばそうしますしね。対抗馬を立たせなければ、それだけで勝ちが拾えるのですから。



「左様ですな」


「多胡爺! 悪いけど休むのは後回しよ! 集められるだけの兵を直ぐに集めてちょうだい!」



 幸いにも、いまは正月でみんな寛いでる時だから招集はしやすいであろう。まあ、多少は酒臭い連中もいるとは思いますがね。それに、4匁玉を使う鉄砲の大部分が国造衆に配備されているのは大きいですね。

 私は尼子の人間でもあるけど、出雲国造衆の人間でもあるのですから。これは、母上の桃さんの実家が国造衆だったので、桃さんに感謝しなければなりませんよね。



「御意!」


「それと、私はいまから文を書くけど、春姉! 写しを書く人を数人手配して!」



 これで、私に付くか兄の義久に付くのかが、ある程度は分かるはずである。良くて半々かな? いや、四分六か最悪は三七ぐらいは覚悟しなくてはいけないのかも知れませんね。だがしかし、これで尼子は完全に割れてしまったということだ。

 恐らくは、西出雲と東出雲に割れる感じになるのでしょうね。雲南と奥出雲がどっちに付くのかは微妙ですが…… あと、出雲以外の尼子の領地もですか。石東は恐らく私に付くであろうが、他の国が読めない。

 もしかしたら、伯耆、備中、美作と全部が敵に回る恐れもあるのだ。いや、その可能性の方が高いのかも知れませんね。最悪の事態をベースに考えて作戦を練った方が安全な気がしますよね。私は石橋を叩いて渡るタイプなのですから。多分だけど。


 しかし、これも戦国の世の習いということですか。こんなクソッタレな世の習いなど、できることなら習いたくはなかったのですがね! 本当に人の命が塵芥のごとく軽い時代だこと。嫌になるわ……



「わ、分かりました!」


「玉、僕は何をすればいいの?」


「源五郎兄ぃは、疲れているだろうから休んでいて下さい」



 おーけー。やってやろうじゃないの。あんな父上であっても、今世での私の父上には変わりはなかったのです。


 ……義久さんよぉ、父上を殺した報いを受けさせてやんよ!






「父上の弔い合戦よ!」



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