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39話 よくあるパターン


 永禄2年(1559年)1月 出雲 月山富田城 尼子晴久



「父上。新年、明けましておめでとうございまする」


「「「「「おめでとうございまする!」」」」」


「うむ。義久も皆の者も、おめでとう。ここ数年で出雲は目覚ましい発展をとげて豊かになったの」



 それもこれも全て玉のおかげじゃな。つまり、玉を仕込んだ儂のおかげでもあるということじゃの! さすがは、山陽山陰併せて八ヶ国の太守である儂ということじゃな!



「左様でございまするな」


「いやはや、これも玉姫様のお告げのおかげでありまするな」


「昨年の毛利との二度に渡る戦も、姫様が作らせた種子島と大筒のおかげで勝てたようなものですからの」


「左様、左様」



 うむうむ。多胡辰敬は当たり前じゃが、亀井と佐世や津森なども玉を評価しているということか。



「そういえば、その肝心の姫様はどちらに?」


「玉は巫女でもあるからの。正月で杵築大社も忙しいので富田へ来るのは明後日のはずじゃな」



 玉のヤツ、『巫女の本分は初詣にあります!』とかなんとか言って、儂への新年の挨拶を先延ばしにしおったわい。まあ、正当な理由でもあるので仕方ないのではあるがの。

 折角、大部分の家臣が揃っているこの場で驚かせてやろうと思っておったのだが、当てが外れたわい。まあ良い。玉が富田に着いた時には既に決まっておるのだから、それで驚かしてみせようぞ。鳩が豆を喰らった玉の顔を見るのが今から楽しみじゃわい!



「それで、今日は皆に申し渡しておくことがあるのじゃ」


「拝聴いたします」


「うむ。儂は近日中に隠居しようと思うておる」


「隠居ですと!?」


「御屋形様、まだ隠居は早いのではございませぬか?」


「左様でございますぞ」



 引き止めてくれるのは嬉しいがの。もしかしたら、おべんちゃらかも知れんがな。だが、まだじゃぞ。ふっふっふっ、まだ驚くのは早い。驚くのはこれからじゃぞ。



「まあ、最後まで聞け。これは尼子の事を思って決めたことじゃ。義久!」


「はっ!」


「義久には済まないとは思うが、お主を廃嫡する」


「「「「「おおーっ!!」」」」」



 その驚きの声には、青天の霹靂であるから困惑の驚きやら、予想していたので納得の驚きやら、色々と混ざっている感じがするのぉ。



「なんとっ!?」


「御屋形様!」


「御屋形様! 失礼ながら、それはなりませぬぞ!」


「左様じゃ! 三郎四郎様を廃嫡して如何されるというのじゃ!」



 ふむ。義久の守り役である本田豊前の反対は想定済みじゃったが、川副に宇山と立原も反対とな。うーむ…… これはちと、儂の勇み足であったかの? だがしかし、



「ええーいっ! 静まらんか! もう既に決めたことなのじゃ! 儂が隠居した後の尼子の当主は、玉である!」


「な、なにゆえ…… 何故に某が廃嫡されなければならないのですか! それに、玉は女子で、しかもまだ小娘ではありませぬか!」



 義久の言い分も、本来ならばもっともなのだがな。しかし、その小娘というのが玉であると分かって言っておるのか? 頭では分かっていても、感情が追い付いてないのかも知れんがの。

 まあ、いきなり廃嫡などと言われたら儂でも取り乱すはずじゃしの。いままでずっと尼子の次期当主に成るのは自分だと当たり前に思っておったのだから、義久が不憫といえば不憫ではあるのだがな。



「まあ、義久も最後まで聞け。これは尼子の事を思って決めたことじゃ。のう、義久。ここ数年で出雲の尼子の領民に笑顔と笑い声が増えたとは思わんか?」


「それは、確かに父上が仰る通りだとは思いますが、それが某の廃嫡とどのような関係が……」


「分からぬのか?」



 この程度のことが分からぬのならば、やはり義久には家督を譲ることなど出来んということじゃの。



「父上は民の笑顔が、玉のおかげとでも言うのでありますか?」


「そうじゃ。その民の笑顔の大部分は、玉のおかげじゃな。民は昔よりも米を食べれるようになったし、我が尼子がこの3年は兵糧の心配もせずに遠征が出来たのも、玉のおかげである」


「確かに豊作になったのは、玉姫式のやり方のおかげであった部分もありますけど、しかし、遠征の兵糧との関係が分かりませぬ」



 ふぅー、やれやれじゃわい。儂の倅ながら、ここまで愚鈍であったとはの…… 玉が前に言っておったのだがな。『民は宝』と。民を思いやる心がなければ、民の上に立つことはまかりならん。これで完全に決まりじゃな。

 それに、義久は遠征の大変さをまるで理解しておらぬ。儂の名代として備前に遠征しといて、一体全体なにを学んでおったのじゃ? 全て下の者に任せきりだったようじゃな。豊前も天を仰ぐな。守り役であるお主の所為でもあるのじゃぞ!



「義久よ。例えばだが、一万の軍勢を三月養うにはどれだけの兵糧が必要か分かるか?」


「下の者に任せておりましたので、某には……」



 うむ、その事が分からんのは心配しんでも良いぞ。なにせこの儂でも直ぐには分からんのでな。だが、



「おおよそで、4千石から5千石かの? 当然のことだが、これらの兵糧は一度に運ぶ事など出来はせぬ。この前の備前への遠征で兵糧の運搬は誰が差配したと思う?」


「玉だというのですか? しかし、玉は近江から伊勢へ行ってたではありませぬか!」


「確かにお主の言う通り、玉は近江に旅立って出雲を留守にしておったな。だが、兵糧が滞りなく出雲と伯耆から備前へ運ばれる型を作ったのが玉なのじゃよ」



 玉はこれを『だいやぐらむ』とか言っておったがの。意味は分からんが、恐らくはいつものように玉語じゃろうて。その、だいやぐらむとかいう表を見たが儂にはさっぱり分からんかったが、兵站を任されている者で頭の切れる者は理解して絶賛しておったな。

 土産の餅は残念な事になっておったがの!



「豊前、それは本当なのか?」


「若様、左様でございまする」



 むぅ、息子よ。豊前の言葉ではなくて儂の言葉を信用しろよな……



「つまり、既に尼子は、玉を抜きにして国を差配することなど出来ぬのじゃ。誰も彼もが貧しかった昔に戻りたいとは思わぬであろうよ」


「それが、某を廃嫡する理由でございましたか……」



 あの小娘のお告げと頭の出来には誰も敵わぬゆえに、これは仕方のないことなのじゃ。



「義久に済まぬとは思うておる。なに、廃嫡したからといって寺に幽閉とかをするつもりは毛頭ないので安心せい。お主に倅が生まれたら、玉の生れてくるであろう娘を娶らせて尼子を継がせるつもりじゃ」


「生れてくるであろう某の息子に尼子を継がせるから、某は我慢しろという訳ですな……」


「そういうことじゃな。堪えてくれぬか?」



 ここで堪えてくれねば、本当に幽閉する事になりかねんのだからの。



「……分かり申した。それが尼子の家の為なのであれば、耐えまする……」


「おおっ! 分かってくれるか! 義久、済まんの」



 ふぅー、これで一件落着かの。やれやれ肩が凝ったわい。いや、肩の荷が下りたわい! どっちも等しい思いではあるのだがの。











 永禄2年(1559年)1月 出雲 杵築大社



「……あらたなとしも~ かかるはつひのひかりのごとくなりて~ あらまほしきよにねがいたてまつると~ かしこみかしこみもまおす」



 ふぅー、これで今年も初春を言祝ぐ祝詞も終わったわね! 3日で12回も紡いだけれどね……



「姫巫女様よー、あらまほしきと、あらまほらしきではどっちが正しいんだい?」


「うーん、言葉というのは時とともに徐々に変わるんだよ」



 まさか私が勝手に、あらまほらしきなんて言葉を新たに創っただなんて言えませんよね。『あら』と『まほし』で切るんじゃなくて『あらまほ』で切るもんだとばかり思ってただなんて口が裂けても言えないもんね……

 転生者にとっては、古語は難しいのであります。まほしってなんだよ。まほしってさ! まほしき、まほらしき、でもいいじゃんか。うん私が創って育てた言葉です! 文句あるか!






 とたたたたー



「この足音は春姉だね」


「おひいさま、大変です!」


「んー、どったの?」


「富田で! 富田で!」



 春姉はトダトダじゃなくて、ドタドタしてるけどね。そうじゃなくて、



「春姉落ち着いて、富田がどうしたの?」



 このパターン何回目でしょうかね? 大抵が良くないことが起きたパターンなんですもんね。私には分かるのです! 髪の毛もゾワッって少し逆立って浮いてる感じがしますしね。











「富田で義久様が乱心しました!」


「ブーーーッ!!」



 どうしてそうなるんだ!?


 それは、さすがに予想以上ですよ……



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