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34話 殺しの間 【地図1】


 永禄元年(1558年)9月下旬 石見 邇摩郡 忍原村 亀谷城



「鬼洲浜の旗印…… たしか毛利元就の娘婿である宍戸隆家の家紋でしたか?」


「左様ですな」



 伊勢からとんぼ返りで出雲に戻ってきた玉です。それから直ぐに石見に飛ばされました。父上は人使いが荒いみたいです。まだ私は子供なのにね…… 労働基準法ってないんですかね? ないんだろうね……



「おおお、おひいさま、城の中に居れば大丈夫ですよね?」


「まあ、尼子が負けなければ大丈夫だよ」



 そう、負けなければどうという事はないのです。偉い人が言っていた、『当たらなければどうという事はない!』これと同じですよね? 多分ですけど。ようは勝てば良いのですから。



「もし、負けたら……?」


「んー、春姉は可愛いから毛利方の雑兵にあんなことやこんなことを」



 でも、この時代ってロリコンが多いみたいですから、もしかしなくても春姉だけじゃなくて、私もヤバいのかも知れませんね。


 ロリコンパラダイス in 戦国! うん、シュールで殺伐とした光景が目に浮かんだわ…… でも、冗談ではなくて現実に起こり得るのが、私たちが生きている、この戦国乱世なんですよね。


 ああっ! 素晴らしきかな犯罪者天国の末法の世! クソッタレな世界に乾杯! そりゃ、みんな色々な宗教に逃避したくもなりますわな。

 といいますか、21世紀の日本人も宗教好きな人多いけど、21世紀も末法の世なんですかね? まあ、ある意味ではそうなのかも知れませんね。



「帰りましょう! 今すぐ出雲に帰りましょう!」


「戦が終わるまでは城から出られないよ」



 すぐ目の前まで毛利軍が迫ってきてますしね。ここ亀谷城は石見銀山、佐摩の銀山の東を守る要所ですから、毛利としては是が非でも落としたい場所なのです。逆に尼子としましては、ここを落とされると出雲方面から銀山へ行くルートの一つが潰れるのです。



挿絵(By みてみん)



 ですので、尼子としたら絶対に守り通さねばならないのが亀谷城な訳です。しかし、まあ、よくも安芸から遠路はるばる山また山の中を迂回して、忍原なんぞに毛利も出張ってきたよね。その努力を安芸国内の内政に向ければ良いのにと思わなくもないですよね。



「そもそも、なんで女子の私まで戦場に出なくてはならないのですか! 戦は殿方がするモノでしょう!」


「んー、私が戦勝の祈祷をする為に忍原に来たから?」



 戦場での巫女による戦意高揚は馬鹿にできないのです。この時代の人たちは信心深いのですから、儀式といいますか、様式美って大事なんですよね。つまり、尼子の姫で杵築大社の巫女でもある私は、戦意高揚には持って来いの人材なのであります。

 残念ながら児童擁護法なんぞありません。使えるモノは幼女だろうと少女だろうと使って戦をする時代なのですから。



「はぁ~、私よりも小さなおひいさまが戦場に居るのに、侍女の私が逃げる訳にはまいりませんか」


「うん、そういうこと。でも、春姉を付き合わさせてしまってごめんね」


「仕方ありませんね。これでも多胡の武家の娘ですから、いざとなったら胸を突き刺して死ぬ覚悟は出来てますしね。あー、でも、怖いなー、嫌だなー」



 春姉さんや、それって死ぬ覚悟が出来てるとは言わないのでは? まあ、私も死ぬ覚悟なんて持ち合わせてなんか無いけどさ。



「姫様、そろそろ始まりますぞ」


「うん、多胡爺に任せたから、ちゃっちゃと毛利を撃退しちゃってちょうだい」


「では、種子島400挺で毛利を粉砕してご覧にいれましょうぞ」


「訓練の成果に期待してるよ」



 この2年半の間に出雲で生産した鉄砲の大部分を集中的に集めているのです。まだまだ生産数が少ないですから400挺しか揃えれませんでしたが。でも、たかだか2年半で400挺も揃えられたと言うべきなのかも知れませんね。


 それで、この400挺が一斉に火を噴く訳ではありません。信長を真似て三段撃ちにでもしようとも思いましたが、役割分担させる方が塩梅が良かったものですので、6人で一つの組を作って、その組に4挺の鉄砲を配備したのです。

 この方法ですと、訓練では1挺につき約20秒で一発撃てたのです。1分で3発。これが4挺分ありますから1分で12発。つまり、5秒に一発の間隔で射撃ができるという計算になります。


 約5秒間隔で撃ち出される100挺分の鉛玉。この弾幕を避けて接敵するのは生半可な事ではなさそうですよね? 威嚇の意味も含めて、射撃開始は敵が二町半、約260mの地点に差し掛かったら撃ち始める予定です。ちなみに、有効射程は一町半から二町です。

 よく有効射程距離に入るまで撃つなとか聞きますけど、でも、よくよく考えてみれば、別に有効射程より遠くても撃っても良いのでは? そう思いまして、試しました。結果は殺傷能力は落ちるけど効果はありでした。


 まあ、そりゃそうですよね。有効射程の範囲を1mはみ出たからといって、弾丸がポトリと地面に落ちる訳ではないですもんね。


 そして、胴丸や具足を身に纏った人間が出せるスピードも計ってみましたが、……遅いです。無茶苦茶遅いのであります。ええ、私が走るよりもずっとね。一町を走り抜けるのに口で数えて25秒から30秒も掛かりましたから……

 鎧が重たいですから、こんなものなのかも知れませんね。あと、なんか走り方が変ですし。なんですかねアレは? 欽ちゃん走りってヤツですかね? まあ、欽ちゃん走りなんて見たこともありませんし、知りもしませんが。


 つまり、敵は亀谷城の土塁にたどり着くまでの約一分の間は確実に鉛玉に身を晒さなければならないのです。合計で1200発ですかね。全部の弾が敵に命中すれば1200人の敵を戦闘不能に出来るということです。

 まあ、そんなに都合良くはいきませんので、精々が半分から1/3程度でしょうか? それでも、400人から600人ぐらいの敵は倒せそうな気はしますね! 


 それに、鉄砲部隊は120挺で一組にして三つに分けているのです。左、中、右で、左と右の部隊は中央寄りにやや斜めに射撃するのです。ちょうど十字砲火ならぬ米字砲火みたいな感じになります。これは所謂、殺しの間というヤツですね。

 残りの40挺は腕の良かった射撃手を選んで、指揮官や武将の狙撃用です。大筒も20挺?20門用意してありますから、恐らくはこれで敵の士気は崩壊するでしょう。


 また、土塁にたどり着いても土塁と柵を乗り越えなくてはなりませんので、さらに敵の被害は増えるでしょう。こっちには弓を持った武士も槍を持った足軽もいますしね。城に籠もったら鉄砲って最強っぽいですよね!






「掛かれぇーーーっ!!」


「「「「「わぁーーーーーっ!!」」」」」



 ついに襲い掛かってきましたか。



「撃てぇーーーっ!!」



 ダダーーーンッ!!



「ぎゃあーーーっ!!」「痛てぇーーーっ!!」「怯むなっ!」「ぐわぁーーーっ!!」「突撃せよっ!」



「撃てぇーーーっ!!」



 ダダーーーンッ!!



「ぎゃあーーーっ!!」「痛てぇーーーっ!!」「ぐわぁーーーっ!!」「怯むなっ! 敵は目の前ぞっ!」



 ダダーーーンッ!!






 うん、エグイわ……



「おおお、おひいさま、敵がバタバタと倒れていきますね……」


「そうだね」


「凄いです! これが種子島の本当の実力でしたか。おひいさまが小さな頃から臭い硝石作りをしていた理由がやっと納得できました!」



 まあ、ヨモギに馬の小便や藁とかに糞尿をぶっ掛けるだなんて、気が触れたとしか思えないもんね。知らなかったら私でもそう思いますしね。でも、苦労して作った甲斐がありましたね。



「しかし、白い煙で視界が塞がれるのが難点だね」


「今度からは大きな団扇を作って、その団扇で扇いだらどうでしょうか?」



 それって、どこの祭りですかね……? まあ、不謹慎だとは思いますけれども、戦も祭りといえば祭りなのかも知れませんが。


 でも、試してみる価値はありそうですね!



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