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31話 織田信長 【玉姫漫遊記地図2】

 永禄元年(1558年)8月下旬 尾張 清洲城



「それで尼子の姫よ。戯れで聞くのだが」



 玉です。


 織田信長に拉致されて、そのまま清洲城で『歓迎、玉姫様と尼子家御一行ようこそ尾張へ!』という名の絶賛宴会中なのであります。ただ単に、戦にも勝ったし飲めや歌えのどんちゃん騒ぎが、したかっただけの気がしないでもないですけど。


 なんだか近江でも似たような催し物が開催された気もしますが、気にしたら負けです。



「なんでございましょうか?」



 なんか嫌な予感がしますね……



「うむ、姫なら今川と戦うとすれば如何いたす?」


「小娘の私に聞くなどと、上総介殿もお戯れを」


「だから戯れだと言うておる。杵築大社の巫女の知恵として聞きたいのじゃ。この遠く尾張にまで姫の噂は聞こえておるからの」



 むぅ、言い返せないではありませんか。それよりも、六角は甲賀の忍びを抱えてたから理解できたけど、自前の忍びを持たないはずの信長まで、なんで知っているのよ! 一体どんな噂が流れているのやら。



「一つお聞きしますけど、鳴海と大高は現状で織田方ですか?」


「……今川方である」



 あちゃー、もう既に山口親子は今川に寝返ってたのね。いまいち桶狭間の前の詳しい勢力図は覚えてないんですよね。どうしようかな……?



「上総介殿が博打をする覚悟があるならば、その仮定でもよろしければ話ますけど」


「籠城でなく野戦に打って出るように聞こえるのだが?」



 おふこーす! いぐざくとりー!



「籠城? 籠城などしても今川には勝てませんよ」


「だが、尼子は月山富田城に籠城して大内を退けたではないか」



 うーむ、その疑問から答えなければならないのか。まだ、信長の軍略はあまり磨かれてないのかな? 経験不足というヤツですか。24歳か25歳の信長ならば、こんなものだったのかも知れませんね。



「ここ清洲城に織田が籠城する場合とは違いますよ。後詰は何処から来るのです? 尼子の場合は月山富田城が堅牢な山城で、攻略に難儀して嫌気が差していた連中が敵から寝返って、それが後詰の代わりになって大内を退けたのですから」


「後詰の来ない籠城に勝ち目はない、か……」



 さすがに、これは兵法の初歩ですから、それぐらいは知っていましたか。といいますか、知っているなら聞くなよ!



「万が一籠城して勝てたとしても、尾張中が今川に荒らされて領内の回復に時間も金も取られるでしょうね」



 町は焼かれて田畑は荒らされ、そして領民は途方に暮れる。戦なんてやっても、一つも良いことないはずなんだけどなぁ。でも、いまは戦国時代だから戦をするのは仕方がないのも理解してはいるのです。一応は。


 誰かが戦を勝ち抜いて日本を統一しなければ、いつまで経っても戦国時代は終わりませんから。その誰かとは、信長、秀吉、家康のはずなんですけどね。でも、信長は兎も角、秀吉と家康に日本を任せるのは、なんとなく私が嫌なんですよね。

 秀吉は天下を取った後で狂ってしまったし、その天下を奪った家康も、家康自身には非は無いのかも知れないけど、その後が拙かった。徳川幕府から明治維新、その後の富国強兵から西洋列強との世界大戦へと。歴史は繋がっているのですから。


 これは、前世ではあるけれども、後の世を知っている私のエゴなのかも知れませんが、もし、戦国時代に日本を統一した人間が鎖国などせずに海外に打って出て、欧米に代わって植民地を確保していたのならば、歴史は変わっていたはずですよね。


 数百年後までに影響を及ぼすグランドデザインか……


 私は、どうしたら良いのでしょうかね? 違うか。私は、どうしたいのか。これが正解かな。

 ……私は、信長がちゃんと天下を統一した、その後を見てみたいのかも知れません。信長贔屓って言われれば、それまでなんだけどさ。


 でも、私の目の前に居る信長は、本当に天下統一寸前まで行った信長なのでしょうか? まだ、天下人の凄味が、そこまでの凄味が感じられないのですよ。


 これは、あれですか? 地位が人を作るってヤツなんですかね? これから徐々に貫禄が付いてくるのかも知れませんが。



「むぅ……」



 そんなアヒル口をされても可愛くなんてありませんから! ふぅー、言っちゃっていいのかな? 私が余計な事を言った所為で、本来の歴史が狂う可能性もあり得るんだよね。私が喋らなくても、信長は自力で桶狭間で今川に勝ったのだから。


 でも、言わないと後悔しそうな気がするのは、なんでだろう?


 ここは、自分の直感を信じた方が良さそうな気がしますね。もしかしたら、ここが歴史のターニングポイントに成るのかも知れませんけれども……


 ええいっ、ままよっ!






 同日 深夜 清洲城 織田信長



 しかし、あの尼子の姫巫女は一体何者なのだ? あれは完全に姿形と中身との歳が違う。そう、俺よりも人生の経験を積んでいる、まるで年上の人間を相手にしているようであった。

 杵築大社に仕える巫女なのだから、まさか本当に神の加護でも付いているとでもいうのか? 千里をも見通せるという眼でも持っているのか……?


 まさか、この俺がもう一度神仏を信じ掛けようとはの…… だが、信じたくなるような何かが、あの小娘の皮を被った…… 小娘の皮を被った!? そうか、もののけの類い、いや、神に近しい存在ということなのか……


 世の中には、人智の及ばない摩訶不思議な出来事があると聞くが、あの姫巫女も、その一端なのかも知れぬの。






「……桶狭間」


「桶狭間だと?」



 いや、確かにあの桶狭間の隘路ならば、今川に比べて数に不利な我が方としては、兵の数をそれほど気にしないでも良くなりはするが。だがしかし、桶狭間など尾張ですら地元の人間でしか知らない程度の地名と場所のはずだ。

 それを、なぜ遥か遠くの出雲からやって来た尼子の姫が知っているのだ? だが、この娘が今川の間者の可能性は、ほぼありえん。どういう事なのだ?



「はい。兵力で劣る織田が勝つには、地の利を得なければなりません。今川を桶狭間に誘い込むのが最上かと思います」


「だが、どうやって桶狭間に誘い込むのだ?」



 桶狭間を戦場にすることは俺も多少は考えもしたし、今でも今川を迎え撃つ場合の候補の一つだ。だが、敵がこちらの都合が良いように動いてくれるとは限らんのが戦なのだ。



「鳴海城と大高城を圧迫すれば、駿河に救援を求めるのでは? そして、その誘い込む時期は梅雨時がよろしいかと。これで天の時も織田が握れます」



 雨が降れば視界が悪くなり奇襲する側にとっては都合が良くなる、か。天の時、地の利…… 孟子だったか? 孫子だったか? それを、目の前の齢10かそこいらの小娘が知っている事が驚きだわ!



「あとは、人の和ということか……」


「それは上総介殿の差配にございますれば」


「で、あろうの」



 さすがに、人の和は俺がなんとかしなければならない領分であったな。幸いにも、昨日の戦に勝って岩倉攻略の目途は立った。この俺が尾張を統一するのも時間の問題よ。



「それで、桶狭間に誘い込めたのならば、先陣はやり過ごして今川義元が居るであろう本陣のみを襲撃するのが得策かと思います」


「いくら奇襲できたとしても、数は向こうが上だからの。狙うは義元が首一つということか」



 なるほど。奇襲の長所を最大限に活かすには大将首を狙うのは理に適っているな。基本的に戦は大将が首を取られたら、それで仕舞いだからの。



「戦は水物です。数が少ない方が勝つことも稀にですがあるかと」



 稀か…… そこは、勝てると断言して欲しかったの。まあ、戦をするのは尼子ではなくて俺が率いる織田なのだから、俺の気の持ちようという訳だな。


 一念岩をも通す。確か、そんな言葉が唐の国の偉人の言葉にあったの。


 さて、桶狭間で今川を破る為にも、周辺の地形をいま一度下見せねばなるまい。これから忙しくなりそうだわい!











「おひいさま、このうなぎの味噌焼きって美味しいですよね!」


「うん、なかなかいけるね」



 でも、なんで味噌焼きなんだ? いくら名古屋人が味噌好きといっても、うなぎは蒲焼きでしょうが! まあ、出雲でも食べたことありませんけれどね。それに、ひつまぶしもないし……


 うがー!


 豊かな食生活は、いつになったら訪れるのだ!





挿絵(By みてみん)

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