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20話 歴史の授業と玉姫


 西暦20XX年 日本 某所 某中学校



「……であるからして、玉姫の名前が初めて戦場で確認されたのは、1558年、永禄元年の閏6月に行われた石見、川本温湯城の戦い、小笠原長雄への援軍が初陣という説が、ほぼ確実です。この時の玉姫の年齢を分かる人はいますかー?」


「9歳か10歳じゃなかったかな?」


「そうだね。天文17年の暮れの生まれですから、1549年の1月生まれになります。ですので、玉姫の初陣は数えで11歳。実際には若干9歳での初陣になります。つまり、小学4年生ですね」


「うへー、妹と同じ歳で初陣とか、戦国時代ってマジで洒落になんねーでやんの」


「というか、そんな子供では実際の戦闘は無理でしょ?」


「私なら一分も持たずに死ねる自信あるわー」


「せんせー! なんで確実って分かるんですかー?」


「この戦の時に敵だった毛利との間で和議が結ばれて、その時に交わした誓紙に署名しているのです。この誓紙の実物は毛利家博物館に所蔵されていて、重要文化財に指定されています」


「玉姫本人の筆跡だと、どうやって判別したんだろ? 偽物かも知れないしさ」


「玉姫の筆跡には、この時代では珍しい特徴があったので、玉姫の筆跡鑑定は他の武将たちに比べても簡単だったという話ですね」


「その特徴は、どんなのですかー?」


「この時代の武士たちが書く書状は、余分な言葉回しを多用した上に難読な草書体がメインだったのに対して、玉姫は行書体で必要最低限の修飾語しか使わずに簡潔に書いているのです。そして、その玉姫の文字は丸文字なんですよ」


「草書体なんて読めないよね」


「うんうん、あれが同じ日本語とは思えないね」


「俺、その玉姫文字見たことあるよ。現代の文字とほとんど変わってなかったよ。確かに丸かったけどさ」


「そう、そこが重要なポイントです! 玉姫の功績の一つに上げられるのが、統一した書体の普及です。また、現在でも使われている完成された、あいうえお五十音の生みの親でもあります。ここテストに出ますからねー」


「「「「「はーい!」」」」」



「でもさ、4、5百年も変わらない言葉と文字って考えたら結構凄くない?」


「それだけ、玉姫五十音の完成度が高かったということですね」


「現代からの転生者だったりして」


「それはありえないでしょ。私は神様の落とし子説の方が、ロマンも信憑性もあると思うな」


「神の子も転生もありえないって、おまえらって夢見てるよな」


「あんたは玉姫の辞世の句を知らないから、そう言えるのよ!」


「そうそう、アレは現代に至るまで議論の的なんだから」


「てから落ち てへと戻れぬ 我が身かな 浮世のことは 夢のまた夢だったっけ?」


「そうだね。てから落ちの『て』が、何を意味しているのか? 手なのか天なのかで歴史学者の中でも意見が割れていて、今日こんにちまで決着が付いていない問題ではあります」


「玉姫は出雲大社の巫女なんだから、天が正解じゃないのかな?」


「でも、釈迦の掌の手という説も根強いみたいだよ」


「神に仕える巫女に仏教っておかしくない?」


「神仏融合の時代だったから、べつにおかしくないんじゃないかな?」


「手でも天でもいいけど、玉姫のあのチート具合からして当時の人の発想では、普通は出てこない発想だらけでしょ?」


「玉姫一人だけ未来に生きてたんだよ!」


「確かに、現代でも意味不明というか、本当にこんな事をやったのか? そういう馬鹿みたいな記録が残ってるしね」


「そうそう、彼女は輪廻転生のイレギュラー的な存在だと思うなぁ。つまり、玉姫は転生者だったんだよ!」


「おまえ転生者好きだよな。ラノベとネット小説の読みすぎじゃね?」


「でも、どっちもロマンだよねー」


「うんうん、想像力を描き立てられるよね!」


「最後が『夢うつつなり』で、終わっているバージョンもあるみたいだよ」


「浮世の所が下天に変わっているのもあるね」


「辞世の句にバージョンってなにそれ? それってありなの?」


「そこまでは詳しく知らないわよ」



 キーンコーンカーンコーン



「はーい! 今日はここまでー! 来週は小テストやるぞー!」


「うへー」






 永禄元年(1558年)閏6月 石見 邑智郡 川本村



「玉姫様に於かれましては御機嫌麗しく。此度の援軍、誠にありがたく感謝の極みにございまする」


「小笠原殿お久しぶりです。小笠原殿は尼子の右腕にも等しい存在です。我が尼子と一心同体も同然の仲ですので、援軍は当たり前のことを当たり前にしただけなのですから、お気になさらずに」


「その御言葉、ありがたく頂戴いたします」


「はい、これからも尼子との良きお付き合いのほどを、よろしくお願いいたします。以上、父の晴久に代わってお伝えしました」


「ははっ!」



 うん、肩が凝ったわ。


 小笠原殿は、余程この援軍が嬉しかったのでしょうね。うんうん、小笠原殿から尼子への好感度が15上がった! こんな感じかな?

 実際問題として、小笠原殿が毛利方に転ぶと尼子が不利になるから、本当に援軍をするのは当たり前のことなのだから。尼子の都合が、ほぼ100%ですから気にしないで下さいね。



「さて、堅苦しい挨拶はこれまでにして、と。多胡爺と小笠原殿は元々は、ご近所で知り合いだから挨拶は省いてもいいわね?」


「まあ、数十年来の付き合いですからの」


「左様ですな」



 この二人の仲は悪くないのです。この時代では水争いとかで、領地が隣接する国人同士は仲が悪い場合が多いのが普通なのですけど、この二人は領地が隣近所の割には、小競り合いもないのだとか。多胡爺が優秀ということでしょうかね? 小笠原殿もか。


 それはそうとして、



「では、改めまして、尼子晴久が娘、玉です。毛利殿との和議の為に罷り越しました」



 うわー、やっぱり難しい言葉使いは、元ニートには難易度が高くて辛いわ。生まれ変わっても慣れないモノは、慣れないということですね。



「小早川左衛門佐隆景と申す。此度は和議の交渉の席に着いて頂き感謝いたす」



 徳寿丸、立派になったなー。



「こばっ!?」



 なんだったんだ、いまの感覚は……?


 といいますか、いま、この目の前の男はなんと言った? 小早川左衛門佐隆景!? なんで、毛利の三男坊が使者なんてやっているのよ! 戦国智謀チートベストテンの9位にランクインしている化け物じゃないですか!

 こんなチートな人物と交渉しなければ、ならないなんて私の胃に穴を開けたいのか? そうなのか? 後生ですから誰か交代して下さい。それと、ムコスタ下さい。


 ちなみに、他のベストテンメンバーはといいますと、この子の父親でもある、毛利元就が1位かな? 2位は私の曾爺さんの尼子経久! 3位、ボンバーマン! 4位、真田幸隆。5位、本多正信。6位、宇喜多直家。7位、竹中半兵衛。8位、真田昌幸。

 10位、黒田官兵衛。


 異論は認める!


 年代とかでも評価は分かれるしね。私の曾爺ちゃんなんて、半兵衛や官兵衛が生まれる前に死んじゃってますし、大名や軍師や国人とか立場によって活躍した場面も違いますから、相対的に比較するのは難しいですよね。


 尼子玉 智謀38。


 ぐぬぬぬ、納得がいかない! 謝罪と賠償を請求する!



「姫様?」


「ふへっ!? ん、ああ、なんでもありません。毛利の御曹司が自ら出向いてきたのに驚いただけです」



 思わずノブヤボの智謀ランキングに現実逃避していましたなんて言えないしね。


 この交渉で、小娘の私が取捨選択することによって、尼子の未来の一部が変わるかも知れないのです。責任重大ですね! 気を引き締めて掛かりましょうか! というか、胃がキリキリ痛くなりそうです……



「失礼ですが、姫様に吉川か高橋の縁者は居られますかな?」



 ん? コイツは一体なにを言っているのだ? なにが狙いでしょうかね?



「亡くなった母は出雲国造衆の北島の分家の出で詳しくは知りませんけど、私の曾婆様は吉川の出です。小早川殿のお母さまの叔母に当たるはずですよ」


「そういえば、そうでしたな。いや、あまりにも姫様が某の母に似ていたものでしたから、つい。そう言われてみれば叔母と姪でしたな。玉と名前も字も姫様と全く同じで、親近感を持った為に余計にそう思ったのかも知れません」



 玉なんて名前は、日の本には五万とおるわ! アンタの母親に似ているって、生きていたならば還暦の婆さんだろ! 死んだ歳でいっても五十路手前だったはずだし、私はそんな老け顔では断じてない! ナンセンスであります!

 ふう、落ち着け、落ち着こう。私は冷静だ! あれ? なんだか死亡フラグが立ったような気がしないでもない。が、私は冷静だ。



「まあ、先祖返りかなにかかも知れませんね。尼子と毛利も一応は親戚なのですから、私としましては仲良くできたらとは思ってますのよ?」


「それは、毛利の方としても同じ考えでございますれば」


「おほほほほ、徳寿殿はお世辞がお上手になられた様子で」



 ちょっ!? 私は喋ってないぞ?


 老け顔の婆さんって言ったのは謝るから!



玉ちゃんが、玉さんに乗っ取られた!

歴史モノなのに、少しファンタジー入ってもいいんですかね?

みなさんのご意見お待ちしてます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ボ、ボンバーマン!Σ(^◇^;) 間違ってたらゴメンなさいですが、ひょっとして松永久秀さんのことでしょうか?
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