2話 COOLになろう
天文17年(1548年)12月 出雲 月山富田城
「オギャー!オギャー!」
なんだなんだ、どうなってんだ? もしかしなくても、この泣き声って俺自身の声だよな?
というか、産湯が気持ちいいですね。
「おお、産まれたか!」
「御屋形様、女子にございます」
「「「おめでとうございます」」」
「御屋形様、男の子でなく申し訳ありません」
悪かったな女子に生まれてさ! というか、目がぼやけて良く見えないんですけど!
というか、女子? おんな…… 性染色体がXXの女性のことですかね?
まあ、多分そうなんだろうけどさ。
おーけー、落ち着こう。KOOLになろう。
そう、これからの時代は、Keep Only One Loveだぜ!
そうじゃなくって、COOLになろう。COOLに。
まず、おかしいと感じたのは、目は霞んで見えなかったけど周囲から聞こえてくる声が日本語の方言に聞こえて、頭の中に?が一つ。
ま、まあ、転生特典で翻訳機能が自動で付与されていたかもしれないと前向きに考えよう。翻訳機能の割には言葉の半分くらいしか理解できないけどね。
これはネット小説とかで見かける所謂TS転生ってヤツですかね?
まあ、多分そうなんだろうけどさ。
「いや、男児は三郎四郎と源五郎がおるから気にするでない。それよりも母子ともに無事そうでなによりじゃ。桃でかしたぞ!」
ふーん、母ちゃんらしき人の名前はモモっていうみたいだね。ゲンゴロウとかの単語も聞こえてきたけど、なんだか和風っぽい名前だね。
まあ、ゲンゴロウは水辺に住んでる虫だけどな!
「もったいなきお言葉」
「うむ、女子ならばそなたの実家の本家筋でも、近隣の大名や有力な国人領主でも嫁の貰いては引く手数多であろうよ」
「ふふ、気が早うございます」
そうそう、いいぞ母ちゃんもっと言ってやれ! こいつは生まれたばかりの赤子を嫁に出すだなんて、なんて無体な話をしでかすんだ!
この偉そうな喋りかたをしている男が、ほぼ間違いなく俺の親父なんだろうな。
というか、オヤカタサマとかダイミョウやらコクジンリョウシュって……
おーけー、落ち着こう。KOOLになろう。
「ヒッヒフー、ヒッヒッフー」
「いかん! ひきつけではないのか!?」
違います。ラマーズなんちゃらです。
そうじゃなくって、御屋形様とか大名とかって、もしかして俺は良い家に転生したのか?
「お乳みたいですね。御屋形様、この子は女子ですから、できうる限り自分の母乳で育てたいのですが、よろしゅうございますか?」
「そうだな、桃の好きに致すがよい」
「ありがとうございます」
うむ。おっぱいが不味いというのは都市伝説だったみたいだな。いまの赤ちゃんである俺にとってはチルミルみたいに美味しいです。
まあそうだよね。おっぱいが不味かったのなら、赤ちゃんでも飲むのを嫌がる気がするしね。
というか、お腹が膨れたから眠いです。おやすみなさい。
天文18年(1549年)1月 出雲 月山富田城
それで体感で生後2週間くらい経って目が見えてきてから、また頭の中に?が増えましたよ。
どう見ても時代劇の中に迷い込んだとしか思えないような衣装を着た人たちと建物のセット。
ま、まあ、和風ファンタジーも、ありといえばありか。
ちなみに名前はタマと名付けられました。まるで猫の名前みたいですね。自動翻訳機能さん、ちゃんと仕事して下さい。
それで、母親のおっぱいを飲んでは寝て、たまに乳母らしき人のおっぱいを飲んでは寝てを繰り返して……
現実逃避ではないですよ?
この身体は、やけにお腹が空くし、やたら眠たくなるのですから。まあ、赤ちゃんなんてモノはみんな同じなのかも知れませんけど。
うん。そろそろ現実を直視しようか……
どうやら、ここは剣と魔法の世界ではなくて、戦国時代の出雲で確定だな。
会話の端々から「大内が~」「石見の~」「毛利が~」「伯耆の~」「山名が~」「三刀屋殿が~」「宍道湖の~」「多胡殿が~」とか聞こえてくるんですもん。
とどめの一撃は、
「我が尼子の今年の目標は、領国の一層の発展と東伯、備中北部、美作西部等の安定した仕置きを行い、先年に亡くなった因幡守護、山名左馬助殿の子息、源七郎殿を盛り立てて、因幡簒奪を目論む但馬山名を因幡から叩き出すことである!」
どうやら私のパパンは、尼子晴久という出雲の戦国大名らしい。
尼子っていったら、毛利に滅ぼされる家じゃないですか……
転生したらチートでイージーモードが最近の流行りじゃなかったの?
織田や豊臣や徳川とか贅沢は言わないけど、せめて生き残れる家に転生させて欲しかったよ。
ねぇ神様?