159話 歯車の軋む音
書けたのじゃー!
ところどころ日本語が変だったり、話に脈絡がなくなるのは仕様です(汗
永禄6年(1563年)閏12月 出雲 月山富田城
お元気ですか?
安芸から出雲へと無事に戻ってきた玉です。
一月近く富田を留守にしていたので、葉月に私が母親だと忘れられていないか心配しておりましたが、その心配はどうやら杞憂に終わったようで助かりました。
そう、私の腕の中には、美味しそうにお乳を飲んでいる我が子の姿があるのですから。
まあ、春姉のお乳のほうが葉月の飲みっぷりが良いのが、実の母親である私にとってイマイチ納得がいかない気がしないでもないのではありますけど。
しかし、その代わりといってはなんだけど、春姉の息子である吉法師は私のお乳のほうが春姉のお乳よりも好みみたいなので、お相子さまということでしょうか。
赤ちゃんにも、お乳の好みとかがあるのだから面白いですよね?
とたたたたー
この足音は春姉で間違いなさそうですね。でも、廊下は走っちゃいけません。
「おひいさま、大変ですよ!」
「春姉、そんなに慌ててどったの?」
「京からの知らせで、細川右京大夫様がお亡くなりになられたとか!」
「細川右京大夫? あー、管領だか実質管領だかの細川氏綱さんか」
「そう、その細川様です!」
その細川氏綱だけ、細川一族の中で諱が異端なんですよね。足利将軍家から偏諱も貰ってないですし、典厩家の通字である"賢"や所縁のある野州家の"国"も使っていません。
また、細川晴元を追放して実質的に京兆家を乗っ取ったのに、京兆家の通字である"元"を使った名にも改名もしていないのですよ。
まさかとは思うけど、氏綱という諱は後北条家の二代目である、北条氏綱をリスペクトしているとでもいうのでしょうかね?
いや? 案外その可能性も一概には否定できないのかも知れませんね。
あ、ちなみに、細川晴元も今年の春に亡くなっています。
そして、この細川晴元の息子が、信長の妹であるお犬ちゃんを妻にする細川昭元さんであります。
まあ、どうでもいい話でしたか。
この世界線では、細川昭元がお犬ちゃんを妻に出来るのか微妙な気がしますしね。
なんせ、私が史実の歴史をしっちゃかめっちゃかにしてしまったから、宇喜多秀家がちゃんと生まれてくるのかさえ定かではない世界なのですから。
そうなると、宇喜多直家の跡継ぎはどうなるんだ?
弟の忠家はそこそこ優秀だと思うけど、その息子はアレげだったはずだしなぁ。
まあ、まだ二十年とか先の話なんだから、今から考えてもあまり意味はないのかも知れませんね。
それよりも、畿内の情勢でしたか。
「うーん、また畿内は荒れるかも知れないわね」
「荒れる、ですか?」
「だってそうでしょ? 三好と公方様の間を取り持つ人間が居なくなったのよ?」
「そう言われてみると、おひいさまのおっしゃるとおりでしたね」
細川氏綱という武将は、けして三好長慶の傀儡とかではなかったと思います。
氏綱と長慶の因縁の相手である細川晴元。この細川晴元に対抗するために二人は手を組んでいたのである。それと、和解はしたけど反足利義輝で、三好長慶とは協力関係にあったのだ。
まあ、その話は全部、多胡爺や鉢屋衆からの受け売りなんですがね!
しかし、私も前世知識からおそらくはそうなんだろうなぁ?とは分かっていましたので、その裏が取れた感じでしょうか。
そして、その情報の元の大部分は京雀というのが、噂好きな京雀を侮れない理由なのです。
あと、麻呂たちも武家関係の話では、随分と口が軽い気がしますね。
朝廷の外の世界の話だからなのかな?
それと、公家の武家に対する精神的優越とかいう意味不明な感情とかも、口が軽くなる要因としてありそうな気がしますね。
まあ、貧乏な公家には、それぐらいしか心の拠り所がないのだから、色々と拗らせるのもやむを得ないのかも知れません。
貧すれば鈍するとは言い得て妙かな。
しかし、衣食足りてないのに礼節を知っているとか、襤褸を纏えど心は錦とか、そんな立派なお公家さんも少数ながらいるのですがね!
それで、噂の中には荒唐無稽な噂や法螺話、与太話とかもありますけど、それらの情報を一つ一つ精査していくと、五里霧中の中から見えてくるモノがあったりもするのですよ。
点だったモノが線で繋がり、やがて面になるとでも言えばいいのかな?
情報収集に特化している鉢屋衆ならではの、匠の技と言えるのではないでしょうか。
おそらく、この時代の日の本で情報の扱いに一番長けているのは鉢屋衆だと思います。
まあ半分は、私の贔屓の引き倒しで、自画自賛も含んでいる気もしますが。
それで、細川氏綱の話に戻りますけど、彼はあえて三好長慶を立てて、半分くらいはわざと傀儡を演じてたりもするのですよ。
畿内の政治力学というのは、私には摩訶不思議な世界だと思いました。
といいますか、細川氏綱は三好長慶よりも家柄も良く上位者だったのに、あえて傀儡を演じられるだなんて、細川氏綱って懐が深くて凄い立派な武将のような気がしてきましたね。
まあ、だからこそ、三好長慶と細川氏綱の紐帯を、彼が生前のうちには足利義輝が切り崩せなかったのでしょうけど。
つまり、細川氏綱という人物は、三好長慶が政権を運営する上での潤滑油のような役割を果たしていたのだと思います。
組織という歯車において、もしかしたら潤滑油が一番大切な役割なのかも知れません。
しかし、その件の潤滑油であった細川氏綱はもう既にこの世にはいない。
そうなると、足利義輝のお手紙と謀略が大好きで、陰湿な足利の血が騒がないはずはないのである。
私のところにも、そのうち公方様からお手紙が届きそうな予感がしますしね。
ええ、ほぼ確実に。
まあ、あからさまに三好を討てとかまでは、さすがに書いてこないとは思いますけど。
そう思いたい……
油の切れた三好政権の歯車の軋む音が聞こえてきそうな気配を感じます。
オマケに三好家は、惣領息子であった三好義興が若死にしてしまい、お家の先行きに暗雲が垂れ込めているのだ。
ここら辺の出来事には私は介入してないから、病死とかはほぼ史実の歴史通りに発生しているみたいなのです。
問題は三好家の跡継ぎである三好義継の権威を確立させるために、粛清が行われる可能性が極めて高いことが問題なんだよなぁ。
そう、安宅冬康が兄である三好長慶に飯盛山城に呼び出されて殺されるという、私としては可能な限り防がなければいけない出来事があるはずなのです。
安宅冬康は安宅水軍の長なのだ。その彼を失ってしまえば、折角軌道に乗り始めた南蛮貿易とかに支障が出かねないのですから。
狡兎死して走狗烹らる。ではなく、老兵は死なず、ただ消え去るのみ。これにしなければならないのです。
「古を 記せる文の 後もうし さらずばくだる 世ともしらじを」
「おひいさま、それは誰が詠んだ歌なのですか?」
「安宅冬康だよ」
「あの安宅殿でしたか…… かの御仁であれば合点がいく歌ですね」
春姉は天井を見上げながら、畿内で出会ったことのある安宅冬康の顔を思い浮かべ、右の拳で左の手のひらをポンと叩いて納得したようでした。
そう、戦国武将で荒くれものを束ねる水軍の長なのに、ちっとも戦国武将らしくない柔らかな顔立ちをしていた、安宅冬康。
「彼は歴史を後世に伝える意味を理解している数少ない人物なのだから、死なせるにはあまりにも惜しいのよ」
「安宅殿が近々、亡くなる? お告げか、おひいさまの夢見ですか?」
「うん、手を回さないとそうなる可能性が高いってことだね」
雲芸同盟が成立した記念に、毛利元就と初めて会談した備後三次にある知波夜比古神社に私が石碑を建てたように、今の時代を生きる人間には、その当時の出来事や文化風習を後世に伝える役目というのがあると思うのです。
神社仏閣の焼き討ちや焚書など、もっての外であります。歴史への冒涜も甚だしい暴挙だと思いますね。
自分と相容れない性質のモノだから燃やす? 三歳児の癇癪じゃあるまいし……
これだから、宗教にかぶれた輩は性質が悪いとか言われるのですよ。
かぶれるとは、気触れるとも書くのです。つまり、気が触れる=気狂いとなるわけですね。
日本語って昔から上手いこと当て嵌めているのだなぁとか思った瞬間でした。
まあ、並行世界の未来においては、「差別用語だ!」とか言って、昔からある言葉を殺す言葉狩りが横行してましたけど。
そう考えると、言葉狩りも焚書となんら変わりはない気がしますね。
人間って中世から全然成長してないような気がする。そう思うのは、私だけでしょうかね?
まあ、人間の本質なんて、そうそう変わるモノではない。そういうことなのかも知れませんが。
宗教って本当は、人の心に寄り添うモノのはずなのに、やたらと攻撃的な側面があるんだよなぁ。
あー、ヤダヤダ。まったくもって度し難い。
でも、私は杵築大社の巫女と出雲斎宮の別当でしたね。
つまり、私は神道という宗教の庇護者でもあったのでした。
ブーメランが突き刺さってしまった…… ダメじゃん!
しかし、私はあえてお寺を燃やしたいとかは思いませんので、セーフということで、一つお願いします。
でもね? 信長が比叡山を燃やしたくなる。その気持ちは、理解できなくもない私もいるのですよ。
あの腐りようを知ってしまうと、どうしてもね?
私も自己を律して、燃やされないように気を付けねばなりません。
それで、たとえキリスト教の聖書であったとしても、ラテン語の勉強に使えますし、聖書も大事に取っておけば、未来において戦国時代に日本に持ち込まれた聖書ということで、文化的価値が出てくるはずですしね。
まあ、湿度の高い日本では、書物を保管するのは結構大変な気もしますが。
しかし、未来でも平安以降の書物がかなりの数、保存状態も良好のまま残されていましたので、もしかして意外と紙って長持ちするのかな?
もしかしたら、和紙だから大丈夫だったとかなのかも知れないけど。
それはそうと、三好長慶はいくら家中の内部統制のためとはいえ、普通、実の弟を手に掛けるか?
やはり、三好長慶は晩年には耄碌してしまったのかな?
私が対面した時も、畿内を牛耳っている実質天下人としての覇気を、あまり感じさせなかったんだよなぁ。
あの当時から、おそらく三好長慶はもう衰え始めていたんだろうなぁ。
三好長慶に余裕があれば、私にあれこれと探りを入れる必要もなく、どっしりと構えていればいいのだからね。
重臣たちの反応もボンバーマンを除けば、おしなべて三好長慶のソレと同じでしたし。
尼子が畿内にちょっかいを掛けないか心配している時点で、三好家の底というのが分かってしまったような気がしました。
そう、三好では完全な天下は取れない、とね。
それはそうと、私も実の兄を手に掛けているのだから、三好長慶のことをどうのこうのと言えた義理ではなかったのでしたね。
あっちはまだ起こってもない未来の出来事なのだから、私の方が性質が悪かったのでしたか…… ダメじゃん!
でも、言い訳になるけど、私の場合は私の命が狙われている状況だったのと、父上の弔い合戦の意味があったので、緊急避難的な意味合いでセーフなのだ。
それに、なんといっても私が法律だしね。なんか文句あるか? ないよね?
「つまり、三好長慶もそう長くはないということだよ」
「修理大夫様がですか?」
私は首を縦に振ることで春姉への答えとした。
「歌連歌 ぬるきものぞと 言うものの 梓弓矢も取りたるもなし、か…… その気概も覇気も衰えてしまったのだろうね」
「尼子家中で言えば、梓弓矢もへし折るが如しの気がしますけどねー」
「猪武者では困るんだけどなぁ」
しかし、このまま行ったら来年には三好長慶が亡くなり、再来年には足利義輝が三好三人衆に殺される可能性が高いのでしたね。
詳しい日時までは覚えてないのが残念ではあるのですけど、二人とも初夏から夏頃の気がしましたね
といいますか、三好三人衆の一人であった岩成友通は鬼籍に入って久しいのだから、彼の抜けた穴は誰が埋めたんだろ?
三好三人衆なのに二人とか、締まらないですしね。補充要員は格からいっても、笑岩さんとかかな?
しかし世の中には、五人なのに四天王とか呼ばれている人たちもいたような気がしましたね。
四天王の中で最弱だから、一人は員数外にされてしまったとか?
尼子家でもそのうち十二神将や二十八神将とか創りましょうかね?
尼子十勇士? アレはお家再興を目指して活動したアレのコレですから、私にはあまり縁起が良くなさそうな感じがしますので却下します。
それはさておき、これから尼子はどう動くべきなのか?
せめて細川氏綱の死が、私が安芸に行く前とかであったのなら、チートジジイの知恵も借りられたんだけどなぁ。
まあ、それを言ってももう既に後の祭り、詮無きことでしたね。
「はぁ~、なかなか思う通りにはいかないものでちゅね?」
「あぅ」
そう葉月に声を掛け、お乳を飲み終わった葉月の背中を軽くポンポンと叩きながら、私は雪化粧をした飯梨川の河原と広瀬の街を、富田のお城から眺めるのでした。
細川氏綱や安宅冬康とかの周辺の話を上手く書けている、大友の姫巫女やブラック戦国はさすがやでぇ。
だから、安宅冬康生存ルートを真似しても仕方ないよね!
次話→予定は未定




