157話 なんか納得がいかない
「朝廷から大宰大弐を貰ってきなさいよ」
「しまった! そうじゃった、大宰府を復活させる手があったのか!」
大宰大弐の官位ならば、十二分に九州探題という室町の権威に対抗することができるはずであります。
「まあ、復活させるといっても、官位だけのお飾りで詭弁なんだけどね」
「いや、官位だけでも十分に価値があるはずじゃ」
「大膳大夫殿が大宰大弐に叙任されれば、蒲池鑑盛も毛利を無視できなくなるでしょ?」
「そうであろうな。ワシとしたことが、年のせいか耄碌し始めたようじゃな」
毛利元就は勤皇家と呼ばれているのに、朝廷を動かすことは思い付かなかったのかな?
もしかしたら、武士の陣取り合戦に朝廷の権威を持ち出すのは、邪道とまでは言わないけど不遜とかの思いがあって、頭の隅に追いやっていたのかも知れませんね。
そうであるならば、私に言われるまで朝廷を利用して、大宰大弐の官位をもらうことを気が付かなかったのも腑に落ちます。
戦とは、公家ではなく武家がするモノですし、盲点だったのでしょう。
「義父上様は矍鑠としていますよ」
「いや、ワシの視野が狭くなっていたようじゃ」
「それで、蒲池鑑盛と他の筑後衆が、公方様の権威を取るのか朝廷の権威を重んじるのか、見ものだとは思いませんか?」
まあ武士は、武家の棟梁でもある足利将軍家を重んじる傾向があることはあるのですけど、それでも、征夷大将軍を任命するのは朝廷なのです。
つまり、朝廷の権威の下に征夷大将軍は存在しているのだから、朝廷の方が権威は上ということになります。
でも、九州の武士って、鎌倉時代に九州に引っ越してきた下り衆が多かったような気がしましたね。
だから、九州の武家の頂点でもある、九州探題の大友家に従っている武士が多いということでしたか。
ちなみに、九州ではないけど、毛利も相模から安芸に移ってきた下り衆みたいなモノだと思います。
日本の武家政権って秀吉と家康の時代の前から、頻繁に国替えやら新規の領地に移封とかをやっていたみたいですね。
「姫巫女は悪辣じゃのぉ」
「おほほ、まだまだ義父上様の神算鬼謀には及びません」
知謀でいったら、私とチートジジイとではダブルスコアどころか、トリプルスコアぐらいの差をつけられているような気がしますしね。
尼子玉 知謀:38 毛利元就 知謀:120
ぐぬぬ…… み、見えるぞ。未来においてノブヤボでのステータスの差が!
でも、なんか納得がいかない。
まあ、リアル戦国武将で稀代の謀将である毛利元就と、前世がニートで腐った脳味噌の私とでは、比べるのもおこがましいことでしたね。
「じゃがしかし、朝廷がすんなりと大宰大弐を寄越してくれるものかの?」
「なんのために、穀潰しに近い朝廷を養ってあげているのよ」
お歯黒おじゃる丸たちの生産性は皆無なんですよね。まあ、それが貴族と言ってしまえばそれまでなんだけどさ。
「姫巫女よ…… もうちょっと柔らかな物言いはできんのか?」
「事実ですから。この戦国乱世において、朝廷は殆ど役に立ってないじゃないのよ」
「まあ、そうなんじゃが……」
勤皇家であるはずの毛利元就としては、朝廷を馬鹿にする言い方はそれが事実とはいえ、一抹の寂しさを覚えるのかも知れませんね。
でも、公家連中が半分ニートに近い存在なのは事実ですから!
まあ、真面目に仕事をしている公家も少数だけど、いることはいるのですがね。
「九州が安定するためには大宰大弐の官位が必要とか、日の本の隅々まで朝廷の威光を知らしめるためとか、色々と朝廷の権威を持ち上げてくすぐりなさいよ」
「物は言いようということか……」
「朝廷の権威を使って戦乱が収まるのであれば、朝廷の価値が再認識されるわけだから、公家も乗ってくるはずだわ」
朝廷の価値とは、古から連綿と続く権威にしか価値がないともいいます。
「では、その線で朝廷を動かしてみるかのぉ」
「私からも一筆したためておきますので」
「それは助かる」
隆もっちゃんが大宰大弐に任官して筑後の国人衆が恭順してくれるのであれば、無駄な血を流さずに済むのですから、これぐらいのことはお安い御用でっせ。
私はサッサと戦国時代を終わらせて、平和な時代を築きたいのだから。
そして、蝦夷と台湾と南方に入植して、日本の未来のために資源を確保するのです。
最終的に目指す目標は、オーストラリア大陸でしょうか?
遅くても百年後には、オーストラリアまで到達していそうな気がしますね。
イギリス人がオーストラリアに入植し始めるのは、1700年代の後半だったような気がしましたので、それまでに、オーストラリア全土を日本が支配することも可能だと思います。たぶん。
日の本が平和になれば、武士は戦での立身出世の芽がなくなってしまいます。だから、治安を脅かす存在に成り果ててしまう、あぶれた武士を新天地に入植させるのです。
秀吉の朝鮮出兵も、日の本で武士に分ける土地がなくなってしまったから、海外に目を向けることにして、朝鮮を通って明に攻め込むつもりだったのだろうけど、合法的に武士を死なせるためだった側面も多少はあったような気がしますしね。
異国の地で、三割、いや? 下手をしたら半分ぐらいは疫病等で命を落とすことになるかも知れないけど、未来の日の本の礎になれるのだから、武士の本懐でしょう。ほら、一所懸命とかいいますしね。
まあ私自身は、そんなマラリアやデング熱とか、その他もっとヤバそうな風土病がある未開の地なんぞ、ごめんこうむりますけど。
あと、ハワイを経由して、アメリカの西海岸を目指すのも面白そうですよね。二十世紀以降のバケモノ人工国家が成立する芽を事前に摘み取らたら儲けものですしね。
未来において、中国大陸をラストフロンティアと認識していたアメリカとは、日本は衝突する可能性が限りなく高いのですから。
上手くいけば、ロッキー山脈より西側を日本勢力圏に収めることができるかも知れません。
可能ならば、ミシシッピ川まで押さえたいところですけど、それは高望みしすぎかな?
まあ、航海術や遠洋航海に耐える船がまだまだ未熟だから、早くても私の孫やひ孫の代だと思いますので、いろいろと虎の巻をしたためておいて、それを上手く活用してくれることを期待しましょう。
ずずぅ~……
「お茶が温くなってしまったわ……」
「新しい茶を入れて進ぜよう」
「義父上様が手ずからとは、恐縮でございます」
「なに、ワシも玉姫に出会って丸くなったということじゃよ」
ん? なんで私に出会ってジジイが丸くなったんだ? 私は別に癒しキャラとかではない気がするのですけど?
「そこは、年を取って丸くなったが正解なんじゃないの?」
「そうとも言うかの? しかし、この茶の飲み方は、白湯と同じく気軽に飲めて良い塩梅じゃのぉ」
このように気軽にお茶が飲めるようになってしまったら、もう白湯には戻れないでしょうね。
「畿内で松永弾正が広めている武家の茶だよ」
「なるほど、武士には従来の畏まった茶の湯は似合わんのは確かじゃけん、この形になるのも道理じゃったか」
まあ、ボンバーマンに新たな茶の湯を勧めたのは、私なんですけどね!
「作法を気にしないで飲めるから、気が楽でしょ」
「うむ、ワシもこっちの飲み方のほうが好きじゃの」
ずずぅ~……
おかしい、ジジイとの茶飲み話が終わらなかったよ…




