149話 やっぱジジイは怖い
のじゃー!
「三好筑前守殿、身罷った由にて!」
「なんじゃと!」
毛利元就は泰然自若なんだから、多胡爺も落ち着きなさいってば。
ここら辺の僅かな差が、戦国大名と武将の器の違いなんだろうなぁとか思ったりもみたりして。
背負っているモノの重さの違いとでも言えばいいのかな?
「多胡爺も五月蝿いよ。筑前守って息子のほうだったよね?」
「御意にござりまする」
そういえば史実で、三好義興が亡くなったのも、ちょうどこの時期でしたか。
未来では投薬や手術で治る怪我や病気であったとしても、この時代では呆気ないほど簡単に命を落としてしまうのです。
薬は漢方薬ぐらいしかありませんし、手術もまともな手術なんて出来ませんので、こればっかりは仕方がないことなのですがね。
やはり、私が音頭を取って、手探りでもいいからちゃんとした病院を作るかしかなさそうですね。
まあ、最初はやれることが限られてはいるでしょうけど、やらないよりはマシだと思いますし、技術というのは積み重ねが大切だと思いますので。
「筑前殿の死因は分かっているの?」
「一報なので、そこまでは……」
「まあ、それもそっか。ご苦労、さがってよい」
「ははっ」
さすがに三好義興の死因までは伝わってませんでしたか。まあ、それもそうだよね。
病死ならいざしらず、暗殺やらで死んだ場合などでは緘口令が敷かれる場合もありますしね。
「三好の跡取りが若死にのぉ」
「いやはや、世の中何が起こるのか分かりませんな」
「一寸先は闇とも言うからね」
だから、私も健康には気を付けねばなりません。
まあ、木花咲耶姫から加護を貰ってからは、すこぶる体調は良いので健康は大丈夫な気もするのですが。
健康よりも、陣取り合戦で負けないように気を付けるべきなのでしょうね。
さすがに、私でも首を落とされたら死にますしね。
「玉、松永弾正殿からの文が届いたよ」
「別口からの続報ってことね」
ちょうどいいタイミングで、源五郎兄ぃが知らせてくれたけど、やはり持つべきものは複数のパイプ、伝手ですよね。
三好義興が死んで三好家中も慌ただしいはずなのに、ボンバーマンも律儀に知らせてくれましたか。
まあ、これは後継ぎが死んだけど、三好の家中は盤石だから、これからもヨロシクね! とかの意味も込められているのでしょうけど。
つまり、三好家の弱体化に付け込んで尼子が畿内に進出しないようにと、釘を刺してきたとも取れる訳なのですよ。
出来る武将は行動が早いわ。
さすがは、ボンバーマンといったところでしょうか?
それでも、三好の家中は後継者を誰にするのかで揉めに揉めて、三好長慶が死去したら三好家は実質的に分裂してしまうのは避けられないのでしょうね。
その前に、安宅冬康が誅殺されてしまう可能性が極めて高かったのでしたか。
三好家の浮沈はどうでもいいけど、瀬戸内の海運や南蛮貿易とかを考えたら、安宅冬康を失うのは不味いですね、
兄に粛清される可能性があるから、なるべく飯盛山城には行かないようにと、安宅冬康に忠告しておきましょう。
一時的に備前に避難してもらっても構いませんので。いっそのこと、安宅水軍も丸々尼子の傘下に納まってもいいんやで。
うん、それが一番無難に思えてきちゃいましたね。
しかし、この世界線では三好義賢が生存しているのだから、もしかしたら、お家騒動は案外すんなりと収まるのかな?
それはともかくとして、松永久秀からのお手紙を拝見いたしましょう。
「なになに…… ふむふむ……」
「松永殿も律儀なお方ですなぁ」
「尼子に畿内でちょっかいを出されないように先手を打ったのじゃろ」
「義父上様が正解なんだろうね」
もっとも、我が尼子家は畿内には興味ないのが、私の偽りなき本音ではあるんだけどね。
畿内は商売さえ出来ていれば、誰が畿内の支配者でも構わないというのが、私のスタンスですので。
あんな面倒な土地を押さえるだなんて、私はごめんこうむるでござるよ!
といいますか、ジジイ二人は覗き見すんな。
源五郎兄ぃみたいに、お行儀よく座って待ってなさいってば!
まったくもって、躾けの行き届いてないジジイ連中だな。
「曲直瀬道三殿によると、黄疸ということか……」
黄疸ということは、胆のうに石でも出来て詰まったのかな?
「黄疸というと肝臓かの?」
「酒の飲み過ぎかのぅ?」
「私は石のような気がするな」
まあ、ジジイ二人が言うように、それ以外にも黄疸の症状が出る病気は色々とありますので、一概に胆のう炎とは決めつけられないのですけれども。
しかし、私が数年前に見た三好義興は戦国武将にしては、ややぽっちゃりタイプでしたので、もしかしたら美味いものを食べ過ぎていた可能性も否定できないのですよね。
あと、彼はあの当時から青年にしては、やや顔も土色に近かった感じがしましたので、もう既にどこか内臓疾患を抱えていたのかも知れません。
だから、三好義興の死は、普通の病死と考えるのが妥当というところでしょうかね?
遅効性の毒を少量づつ飲まされていない限りは、ですけれども……
「石は痛そうじゃのぉ……」
「しかし、血尿では滅多に死なんじゃろ?」
「そっちの石じゃなくて、胆のうに石が出来て詰まるのよ。もちろん、肝臓の可能性も否定しないけどね」
まあ、尿路結石も、のたうち回るほど痛いとか聞いた記憶もありますので、薬がないこの時代では大変だとは思いますけど。
「それにしても、公方様の手による毒殺ではなかったのね」
「「公方様じゃと!?」」
「義父上も多胡爺も五月蝿い。葉月と吉法師が起きちゃうでしょ」
「ああ、すまんかった」
「その可能性もあったのではないかと、私は睨んでいたんだけど、松永弾正の見立てではどうやら違うらしいから」
かといって、ボンバーマンが下手人という可能性も低いんだよねぇ。彼が三好の跡取りを殺すメリットが見当たらないのですよ。
まあ、後世では、松永弾正が犯人だったという説も巷では噂になっていたようではあるのですけど。
しかし、それは三好三人衆と敵対していたから、敵である三好三人衆側から流布されたような気がしますね。
そういえば、この世界線では、三好三人衆はどうなっているのでしょうか?
もう既に岩成友通は鬼籍に入って久しいですしね。
「じゃが、公方様かどうかはさておき、毒殺の線も完全には否定できんぞ」
「毛利様、それはどういった了見で?」
「ああ、そっか。毒というのは肝臓に蓄積するんだっけ?」
「さすがは姫巫女じゃの。そういうことじゃ」
この時代で、毒が肝臓に溜まると知っている、毛利ジジイのほうが怖いわ!
さすがは、戦国一の謀将と恐れられた毛利元就ということでしょうかね?
つまり、チートジジイは遅効性の毒を使った毒殺を、おそらくは経験済みということなのでしょう。
しかしソレを聞いてしまえば、きっとおどろおどろしいナニかが溢れ出してきて怖そうだから、敢えて聞きたいとは思わないけどさ。
でも、毛利元就って相手を嵌めるのが得意で、毒殺は宇喜多直家のイメージがするのですけど?
その宇喜多直家も、この世界線では、備前の名宰相で終わりそうな予感もしますが。
それはさておき、やはり病気を治療するにも死因を特定するにしても、することがあります。
これをやらなければ、いつまで経っても医療は未発達のままになってしまい、救える命も救えないで泣く人々が増えてしまうのであります。
為政者としては時には、心を鬼にしてでもやらねばならぬ時があるのですよ。
最適解を分かっているのに、見て見ぬ振りをするのは為政者失格だと思いますし、それは愚か者のすることだと思いますので、私は誰に何を言われようと後ろ指を指されようとも、前に進まなくてはならないのです。
つまり……
「やっぱ死体や処刑予定の罪人を切り刻むしかないのかなぁ」
「おひいさま、その物騒な言葉は何ですか?」
「ん? ああ、声に出ていたのね」
「ええ、ばっちりと声に出ていましたよ」
春姉もそんなに渋い顔をしなくてもいいのに。せっかくの美人が台無しだよ?
「多胡殿、ワシには姫巫女の言葉が、死体を切り刻むと聞こえたのじゃが、歳のせいでワシの耳が悪くなったのかの?」
「それがしにも、処刑予定の罪人を切り刻むと聞こえましたぞ」
「やはり、お主の耳にもそう聞こえたのか……」
毛利ジジイと多胡爺も顔を見合わせてから、二人してドン引きしちゃいましたか。
まあ、その反応が普通なんだろうね……
次話も書けたのじゃー!
私はやればできる子だったんだよ!
次話は明日の昼頃うp予定




