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107話 歴史の授業と玉姫の野望

歴史の授業風景がメインですので、九割方会話文になります。


 西暦20XX年 日本 某所 某中学校



「……であるからして、玉姫は安芸の向原運河を皮切りに、宍道湖と日本海を繋ぐ佐陀運河など西日本を中心にして、運河の建設を手掛けていったのであります。他の運河で玉姫が係わって開削された運河を知っているかな?」


「しらなーい」


「おまっ、少しは自分で考えろよ」


「だって、知らないんだもん!」


「琵琶湖と伊勢湾を繋ぐ今須運河は有名だよね」


「あー、その運河なら私も知ってたわー。名前は知らなかったけど」


「今須運河は、琵琶湖に注ぐ天野川を上って滋賀岐阜県境を跨る今須運河へと入り、そこから今須川、牧田川、揖斐川を下って河口の桑名で伊勢湾に出るルートですね。逆に琵琶湖からは、瀬田川、宇治川を下って巨椋池で京の都へ。巨椋池から淀川を下って大阪湾に出て、

堺までも繋がっているのです。桑名や熱田、津島から堺まで紀伊半島をぐるっと回るルートに比べて、今須運河と琵琶湖を使って堺まで行くルートは半分以下の距離で行けましたので、時間の短縮にも役に立ったのであります」


「桑名から堺までの距離ってどのぐらいだろ?」


「太平洋に出て紀伊半島を回った場合は約450kmで、今須運河から琵琶湖、淀川のルートでは約190kmぐらいでしょうか? もっとも、百石ぐらい、これは15トンになりますが、百石ぐらいまで積める比較的小型の船しか使えなかったので、

千石船とかの大型船は、紀伊半島回りのルートしか選べなかったのですがね」


「超大型船舶がパナマ運河を通れないのと同じってことか」


「そうですね。パナマ運河の通行規制と似たようなモノでしょう」


「それでも、半分以下の時間で荷を運べたのはメリットが大きいよね」


「小型の船とはいっても、大型トラックよりも積めるから十分な気もする」


「大量に荷を積んだ船で倍以上の時間を掛けて運ぶか、少しの荷を早く運ぶのかの違いかな?」


「費用対効果の問題で、安い商品は大量に積んで紀伊半島回りで、高級な品とかを今須運河で運んでたんじゃね?」


「その答えで、ほぼ正解だと思います。それで、この今須運河を使った河口での荷の集積地と、東海道の熱田からの宮の渡しのおかげで、桑名は大いに潤い繁栄したといっても過言ではありません」


「ふーん、そうだったんだぁ」


「桑名ってハマグリしか知らなかったよ」


「あと、他の運河を知ってる子はいるかな?」


「知りませーん」


「先生、同じく琵琶湖と若狭湾を繋いでいる運河も過去にはあったんだよね?」


「そうですね。残念ながら琵琶湖と若狭湾を繋ぐ運河は、琵琶湖に注ぐ石田川の水量が少なかったみたいで、ある程度の水量がある雨季に、それも小舟しか使えなかったので、現在では廃れてしまいましたね。このルートは運河というよりも、

近江と若狭の旧国境に近い山地にある分水嶺に人造湖を、いわゆるダムに近い湖を造っていたので特殊な事例でもあります。しかし、この時に造られた人造湖である椋川湖は、コンクリートのダムに造り変えられて現在でも農業用水の供給に役立っているのです」


「そういえば、椋川湖ダムって日本で初めてのコンクリート製のダムとか聞いた記憶がある」


「そうですね。椋川湖ダムは、日本で初めてのコンクリートで造られたダムですから、国の重要文化遺産に登録されていますね」


「へぇー、そうなんだぁ」


「他に玉姫が係わって開削された運河には、博多湾と有明海を結ぶ二日市運河などがあります」


「知ってるー! 宝満湖だ!」


「マンコだなんて卑猥な名前だな」


「マンコ・カパックっ!」


「それクスコの王様だし」


「ワイナ・カパックですし」


「シヴィのやりすぎだな」


「こんにちは、死ね」


「「貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ!」」


「「「パパパパパウワードドンっ!!」」」


「あー! そのセリフ、ランラン動画で見たことがあるよ!」


「男の子って馬鹿するの好きだよね」


「おまえら、脱線してるぞー! まあ、先生もシヴィ好きだけどな」


「あー、先生は絶対プレイしていると思ってた」


「クスコって、なんだっけ?」


「男子ってサイテーだわー」


「いや、インカの地名ですし」


「いや、宝満湖だから」


「やっぱ、男子たちってサイテー!」


「卑猥と思う心が卑猥なんだよ」


「宝満湖、宝満池、名称問題として有名ですよね。それはともかく、宝満川の川の流れを変えて、人工の宝満湖を造り、二日市運河から御笠川を下って博多湾へと繋がっているのです。逆は、宝満川から筑後川を下って有明海ですね。この水運と治水の恩恵と利権を餌にして、

蒲池氏を筆頭に筑後の国人領主たちを大友から離反させて、尼子と毛利方へと引き込んだのであります」


「ふーん、そうだったんだ」


「その話は有名な逸話だよね」


「玉姫は常日頃から、戦は下策と言って憚らなかったみたいだし」


「孫子の教えだっけ?」


「そうですね。玉姫は孫子を捩って、子や孫に分かり易く伝える為に、玉姫注訳孫子の丙法書なるモノも書き残しています」


「兵法書ではなくて、甲乙丙の丙法書かよ……」


「孫子の兵法書を斜めに穿った読み方をした書みたいで、学者連中からはパロディ扱いされている代物だよ」


「玉ちゃんも、それを理解していたから、丙法書なんだろうね」


「資本論や国家論なんて真面目な本も書けるのに、兵法書はパロディなのかよ」


「子供に分かり易く伝えるのには良い書だとは、先生は思いますけどね。それで、話を戻しますけど、宝満湖は、その名の通り、子宝安産にご利益がある湖として有名になったのです。そして、子宝安産でも有名な玉姫神社を湖の畔に建立して、玉姫の功績を称えているのであります」


「また、玉ちゃんの仕業だったのか!」


「まあ、玉姫のやることだし仕方ないよね」


「いや、玉姫神社は玉ちゃんの死後に建ったのだから、玉ちゃん関係なくね?」


「生前の罪は許されないのだよ」


「いや、罪じゃなくて、生前の功績によって神社が建てられたのだけど……」


「まあ、卑弥呼か玉姫かと言われるぐらいには凄いよね」


「日野富子は?」


「アレは守銭奴」


「玉ちゃんも守銭奴じゃないですかー」


「しかし、こうやって考えてみると、運河や人造湖をホイホイ簡単に造れるのだから、尼子と毛利って人材が揃っているよな」


「うん、優秀な内政官が多いよね」


「まあ、トップが優秀だったから、それに引きずられて家臣も優秀になったんじゃね?」


「信長の家臣にはなりたくないわー」


「尼子と毛利の武将のおかげで、関東と東北の武将のパラが軒並み低いんだが……」


「玉姫の野望シリーズか?」


「うん、伊達ファンの俺には辛いよ……」


「ど、どんまい」


「涙拭けよ」


「伊達なんて奥州の田舎大名じゃん」


「ケンカ売ってんのか?」


「事実を言ったまでだよ」


「小田ファンの僕も辛いのです……」


「いや、小田氏治のステが低いのはデフォだから」


「天庵様は不死鳥の如く何度でも甦るのさ!」


「一条兼定とか、最高だよな!」


「一条で長宗我部が倒せないよぉ……」


「西園寺と河野を食わないと一条は厳しいよな」


「土居清良は絶対に欲しい人材だよね」


「肝付ナントカさんでプレイするのも面白いぞ」


「おまえら、マニアックすぎるだろ……」


「しかしまあ、玉ちゃんが主役だから、尼子と毛利の武将は優遇されてるよね」


「玉姫は、あれでもパラ抑えられているんだぜ?」


「うんうん、玉ちゃんの政治力は100が上限だとしたら、120は欲しいよね」


「毛利元就の知略も上限突破だと思うなぁ」


「あと、謙信の武力か統率もだな」


「男子たちって戦国ゲーム好きだよねー」


「戦国に限らず、男子ってゲームの話しばっかしているよね」


「私も玉姫の野望は好きだよ?」


「歴女ってヤツか」


「歴女って喪女と字面が似てね?」


「いやいやいや、似てないから! 一緒にしないでよ!」


「まあ、玉ちゃんが行った施策が現代でも通用する施策が多かったしね」


「通用するというか、玉姫のビジネスモデルを現代でもお手本にしているのですがね」


「株式会社の生みの親だもんね」


「玉ちゃんって、公共事業の母とかいうあだ名も付いてたよね?」


「玉姫の政治力は、マジでチートだもんなぁ」


「玉姫に学べとか書いてあるビジネス書とかが、本屋に腐るほど置いてあるよね」


「資本論なんて予言書って話だぜ?」


「資本論のさわりの部分しか知らないけど、怖いぐらいに資本主義と社会主義を言い当ててたよ」


「国家論の民主主義と共産主義もだな」


「そして、共産主義の崩壊も予言してたよ」


「ノストラダムスの分かり難い予言なんて目じゃないよね」


「玉姫の何が凄いのかと言えば、戦国時代に既に未来の政治形態と社会のありようを予測していたことに尽きるね」


「それは言えてるかも」


「政治家に必要な条件は、未来を見通せる力とか偉い人も言ってた」


「だから、玉ちゃんは未来からの転生者なんだってば」


「おまえ、そればっか」


「でも、私も玉姫がもしかしたら、転生者だったのかも?って思ってしまう時があるよ」


「おおっ! 同志よ!」


「いや、同志ではないから」


「そ、そんなー」


「あはは、残念でしたー」



 キーンコーンカーンコーン



「よーし、今日はここまでー」


「きりーつ、れいっ!」


「「「「「ありがとうございましたーっ!!」」」」」






「……そういえば、今日は先生が話が脱線しているって言わなかったよね?」


「先生まで混ざって、玉姫の野望の話をしてたら言えないでしょ」


「一度は注意してたみたいだけど、結局は先生も混ざってしまった」


「先生は歴史の教師だから、やっぱり先生も歴史オタクだったのか……」


「なにをいまさら」


「普通は、こんなディープな授業はやらないはずだよ」


「ですよねー」


「だよねー」






 同日 同時刻 日本 某所



「ふふふ、じゃじゃーん! 最新の玉姫の野望シリーズ、玉姫の野望・戦国烈風伝! どれどれ…… 私のパラメーターは、前作と変わってるのかな? ふむふむ、武力と教養が復活しているのかぁ。

尼子玉・政治100・智謀81・武力28・統率74・魅力86・教養77・義理65・野心83とな? うーむ、政治がMAXなのは当たり前だし、武力が低いのは仕方がないとして、統率と魅力とこんなモノかな? 教養と義理と野望はイマイチ納得し難いけどさ。だがしかし!

一番の問題は、智謀が前作よりも下がっている…だ…と!? 前作では智謀88はあったはずなのに、なぜ下がったのだ! なぜっ! 解せぬ……

毛利元就・智謀100。ぐぬぬ、またしても、チートジジイに知略では勝てなかったのか…… ホーエイは相変わらず、ジジイの知略を優遇しすぎだわー! 史実の毛利元就は、そこまで凄くなかったぞと声を大にして言いたい! 電突してクレーム入れたろか?」






 永禄4年(1561年)11月 筑前 那珂郡 博多



「ここが、博多の町かぁ」



 博多の町へと、やって来ました!



「某は、堺の町には行ったことはござりませぬが、博多の町もなかなか賑わっているようですな」


「そうだね、堺の町にも劣らない賑わいだよ」



 そっか、私が京と堺に行った時には、たろさは月山富田城でお留守番をしていたのでしたね。後学の為にも、たろさと源五郎兄ぃも畿内に連れて行っとけば、良かったのかも知れませんね。



「しかし、一昨年に筑紫惟門が博多の町を襲撃して、町の三割程度が焼け落ちてしまったのが痛かったみたいですな」



 いや、その筑紫惟門に博多の町を襲わせたのって、たろさ、アンタの親父でんがな。さじ加減は、チートジジイに任せるとは言ったけど、ちゃんとコントロールして焼かせたみたいでしたね。しかし、よくもまあ、足軽雑兵の乱捕りをコントロール出来たよな。

 でも、そのコントロールが出来たから、史実の被害よりかは、だいぶマシな結果で治まったのかな? 史実では筑紫惟門に焼かれて、ほぼ壊滅的な打撃を被ってしまったはずでしたしね。


 それで、焼き討ちを契機に商人たちはリスクの分散の為に、長門の赤間に移転や支店を出した店も多々あったみたいで、赤間の町も賑わっているのですから、毛利としてみれば万々歳で懐も潤っているのでしょうね。


 でもこれって、完全に毛利元就のマッチポンプですよね?



おかしい、生徒が喋るセリフがどんどん勝手に増えていったよ…

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[一言] 風林火山覚えた武田信玄に八千ばかしの軍を率いたならば、国の三つや四つ落とせるだよなぁ(小中国に限る)
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