危険の知らせ
「あのっ、おはようございます。」
はっとして、麻帆が隣をみると、親友のうさちゃんがすやすやと寝ています。
「いま…、よんだ。」
周りを見渡しながら、いつもの邪魔な教育係がいない事を嬉しく思いながら麻帆は、黙って、うさちゃんの頭に手を伸ばし…、
「うちの所有物に触らないでくれない?麻帆。」
むっつりした顔の教育係、高橋凛華が入って来ます。
「おはよう…。凛華。うさちゃん…好き…。」
ぼーっと、した感じの麻帆に言い返され、教育係は口をつぐみます。
その瞬間に、麻帆は、
「(なでなでなで…)」
と教育係の頭をなでます。教育係は、沸騰して、
「よ、よくも凛華の頭を気安く撫でたわね。あっ、たまにくるわぁっ~」
と、いいながら、純粋に撫でられる事が嬉しいのか、教育係は嬉しそうな顔をしています。
すると、そこに胸の
大きな美しい少女が入ってきて、
「麻帆………、ぼ……く………………………しょ……………ゆぶつ。」
と言います。すると、教育係が
「あ、あんたさぁ、また、体調崩したの?バカ?それともクズ?」
妙に含み笑いまでして教育係はその新しくやって来た少女に指摘します。
「い………え、もえは、……べつに………………。」
今度は、もう少しはっきりとした声音で答えられたようです。
「で、麻帆くんをお迎えに上がられたのですか?」
いつの間にか起きていたのか、うさちゃんが伸びをして居ます。
「あの、橘萌さまですよね?では、有佐儀はこれで失礼します。」
ぺこりと頭を下げてうさちゃんがてくてくと早足で歩いていきます。
「なにも………、うさちゃん……おう。」
終始ぼけっとした感じの麻帆について行けず困った顔のもえは、半ば麻帆を抑えこみながら、
「い、………………ま…………………、なん……………てい…………………た?」
と聞きます。
「迎えに……………い…………く…………。」
それに対しもえの方は、
「い………………………………け…………………………………………な…………………い。」
と、言っただけでした。
それで、仕方なくもえの手を掴んで一緒にグイっと引っ張った時でした。
グラっ、と地面が揺れ、側にいた教育係が転がり出します。
「り………………ん……………かぁ。」
葵はあらん限りの声で叫びます。しかし、いつも元気でしかもめちゃきつい教育係からは全く反応がありません。
「助け………て…。麻………………帆。」
ただ、寂しげで苦しげなその声だけが聞こえ、教育係はゆっくりと下へ落ちて行きました。
目の前には、涙で目を泣きはらしたもえだけが居ます。
「もえ……………、悲しむ。」
いつもの調子を崩さない彼はそう言います。
すると、もえは余計に泣きじゃくって、
「まほちゃんは、私の………所有物なのに…………どうし…………て、あ……ん……………な、ロリっ娘の事ばかり考えているの………?
もえは、あいつを……………許さ……………な…………い………。こ………ろ……………し…………て……や………る。」
最期は、途切れ、途切れになってふらりともえは倒れます。後には、放心した麻帆と、遠くの方から麻帆の様子を心配そうに見つめるうさちゃんが残されただけでした。
「あの、大丈夫ですか?」
もう、そこにいない麻帆に何度も呼びかけるうさちゃん。
「平気………。うさちゃ………………………。」
呆然と名を呼ぶうさちゃんに対し、麻帆は、なるべくうさちゃんの期待に答えたくて小さな声ながらも話します。
「平気ですよ。それよりも凛華さまともえさまを探さないと………。」
そんなうさちゃんの答えに麻帆は微笑みかけます。
「当初……、目的…………忘れ………ない…………………。必ず……………………、凛華…………見返す…………。」
すると、うさちゃんは、
「そんなの、とても悲しい……です…。同じ目的を持って生きているはずなのになぜか、すれ違っていく………。」
それに対し、麻帆は、
「うさちゃん………、目的………。」
終始、どんな状況でもおっとりした調子にうさちゃんは、
「うさちゃんは、自分の事が知りたいのです。自分が本当は、何者なのか真実が欲しいのです。自分自身とうさちゃんの大切な人達のために………。」
そんな、うさちゃんの頭を麻帆は撫でながら、
「変わった。うさちゃん………。温かい。
」
と、終始、変わらぬ調子を崩さずに微笑んだのでした。
麻帆は、凛華と初めて会った時の事を思い出していました。
ワガママバカ王子で、友達の一人もいなかった麻帆の部屋の前にある日、意志の強そうなきつい顔をした少女が立っていました。
その少女はあっさりと、
「ただ、あんたを教育しに来ただけ………。」
と言っただけでした。
それに対し、麻帆は、
「女の子………、初めて………。友達………。
好き………。恋人………。?」
と、終始、ぼーっと、して言いましたがそれに対し、少女は、
「わ、私は高橋凛華よ。由緒正しき大貴族の家のお嬢様。あ、あんたなんかが凛華に教育してもらえるだけありがたいと思いなさいねっ。」
と、言いました。
それに対し、麻帆は、
「凛華………、嫌い…………。」
と、ぼーっと、した調子で言います。凛華は、
「き、嫌いなわけっ。ないでしょ。す、好きでも嫌いでもないわ。だって……っ、こんなぼーっと、した男と気が合うわけないんだから。」
と、終始、涙目で懇願するように言いました。
麻帆は、その頭に手を載せて静かに、凛華の頭を、
「(なでなでなで)。」
と、柔らかい調子でなでます。それに対し、凛華は、
「な、なに勝手に撫でているのよ。いいから、さっさと愛しのお母様の所に行きなさいっ」
終始、イライラした凛華を見て、麻帆は、
「分かった………。反省する………。」
と、いつもの終始、ぼーっと、した感じで言ったのでした。
それから、麻帆と、ワガママツンデレ教育係との生活が始まりました。
麻帆はたくさんの気のいい人達に出会い、さまざまな事を学びました。
まずは、教育係の話しを熱心に聞く事始から始めました。
「まずは、この問題を解いて見て………。」
教育係は、言いました。
「うん。………。分かった………。」
麻帆は、その指名された問題を解き始めました。しかし、書きながら、麻帆は、隣に置いてあるうさぎのぬいぐるみをもふもふしています。それに対し、教育係は、
「い、いい加減に授業聞きなさいっ。まずは、ちゃんとすることからよ。」
と、きつい言葉じりの中に優しい雰囲気を混ぜながら言います。
それに対し、必ず麻帆は、
「うん。………。分かった………。」
と、しか言いませんでした。その教育係が怖かったのか、それとも彼女の言うことが合っていると思っているのかそれとも、彼女が好きで好かれたいのか麻帆には分かりませんでした。
ただ、その、教育係といると、麻帆はいつも、暖かな気持ちになれるのでした。
しかし、そんな麻帆も、当初はこのきつい教育係のことが余り好きではありませんでした。
麻帆は、親友の親友である、菜坂帆夏美にそのことを相談しました。
その時は、親友の市志津浜美も一緒にいました。
麻帆は、ほなちゃんに切り出します。
「あの………、きつい………、教育係………。付き合う………………。」
親切なほなちゃんは、片言の大人しい麻帆の言葉を信じてくれたみたいで、適格なアドバイスをくれました。それは、次のような言葉でした。
「与えられたままを、信じるにゃあ。」
実際は、その通りなのです。でも、麻帆には、疑問が残りました。
しかし、ほなちゃんは、それだけ言うとすたすたと歩いて行ってしまいました。