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告白

 映画を見終えた後、柳が服を見たいと言ったので、俺達は近くのショッピングモールに入った。

 柳の言葉はきっと罠だったんだろう。咄嗟に考えたのか、考えないようにしていたのか分からない。

 柳と斉藤さんが目を離した隙に姿を消したんだ。

「ダメだ。柳に繋がらない。小岩井さんは?」

「斉藤さんも上映中は携帯切るように力説されてたから、つけ忘れてるのかな」

 俺が柳に電話をかけてみたが電源が切れている通知が返された。

 小岩井さんも斉藤さんにかけてみたが、ダメだったらしい。

「お店の前のベンチで二人を待とう」

 はぐれた時は下手に動かない方が良い。小岩井さんの顔に浮かんだ文字に同意して、俺達は二人並んでベンチに腰掛けた。

 目の前を通り過ぎていく人達は腕や手を組んで、仲睦まじそうに歩いている。

「映画。楽しかった」

「そうだな。展開が読めなくてハラハラした」

 話題は自然と先ほどの映画の話しになった。

 そして、小岩井さんの何気ない一言が話題を一変させた。

「そっか。早瀬君の占いでも、先は分からないんだ」

「そうだね。本も読まないと先は分からないな」

「テレビとか写真は? 面相占いとかは映像でも出来るの?」

「直接目で見ないと分からないかな。カメラ越しだと浮かんでこないんだ。あっ!」

「どうしたの?」

 自分で言って今更気付いた。小岩井さんの顔が見たいのなら携帯のカメラを使えば良かったんだ。

 カメラの画面越しなら心の文字は映らない。

「実験してみてもいい?」

「ん? 何の実験?」

 俺がカメラを彼女に向けると、小岩井さんは首を傾げた。

「カメラ越しでも分からなくなるのかな? って思って」

「どうすればいい?」

「えっと、それじゃ、有名人で好きな人の名前を思い浮かべてもらっていい?」

「ん」

 思った通りだった。携帯の画面に映る小岩井さんの顔には、黒い文字の一つもない。

 無表情で真っ直ぐこちらを見つめる姿がハッキリと映っている。

 芸能人の名前も料理の名前も出てこない。

 小岩井さんは普段こういう顔なんだ。ちょっと冷たい感じが確かにするかも。

 さすがに踏まれたいとは思わないけどさ。

 後はこの画面から目を離して、小岩井さんの顔に何か浮かんでいれば、実験は完全に成功だ。

「へ?」

 その答えを見て俺は思考が固まった。

 たった一人の名前がハッキリと小岩井さんの前に浮かんでいる。

「どうしたの?」

「えっと……もう一度質問を言うけどさ。好きな有名人だよね?」

「うん。最近一番好きになったと思う人。一部の人には有名人だとは思う」

 真っ直ぐな小岩井さんの言葉で、俺は彼女の目を見ていた。

 目を見て話せ。というのは個人的に苦手だ。

 あなたを疑っていますよ。と言っているような物だと思うからだ。

 相手の言葉を信じられないから、理由をつけて疑いたいだけなんじゃないかと思う。

 それに、相手からすれば目をそらすことでこちらを守る時もある。

 疑っている側が間違っていて、疑われている側が指摘しようにも指摘出来ないか、言うだけ無駄と諦めきっているか。

 心が見えるからこそ無意味な言葉だと思ってしまう。

 でも、小岩井さんのこの真っ直ぐな瞳はなんだろう。

「その人の名前」

 俺に小岩井さんの想いが本物だと信じて欲しいのか。それとも小岩井さん自身が自分自身を信じたいのか?

 俺はこの言葉と心にどう答えれば良いんだ?

 何と答えてどう行動するのが正解なんだろう?

「早瀬優君」《早瀬優》

 小岩井さんの声と心の声が一致し、俺の思考が間延びしていく。

 信じられなくて、信じたくて。疑いたくても心の声が証明していて。

 申し訳なくて、嬉しくて。逃げ出してくて、手をとりたくて。

 相反する感情が入り乱れて、頭が混乱している。

「どう? 占えた?」

「え……っと、その……」

「答え合わせは必要?」

 その答えはもう分かっているんだ。でも、答えたらもう後戻りは出来ない。

 俺はどう思っているんだ? 俺はどう思いたいんだ?

 こんな真っ直ぐな想いに応えられるほど、俺は小岩井さんのことが好きなのか? 

「いや、いらない」

 小岩井さんのことは放っておけないし、気遣って貰っていると分かると嬉しい。

 もっと笑顔が見たいと思うし、その笑顔を独り占めしてみたいとも思ってしまう。

 色々なことを話したいし、自分のことを知って貰いたい。

 占いに来ていた榊原さんも、もっと会話出来るようなことを知りたがっていた。

 これが好きという感情なのだろうか? 

「そう」

 小さく呟いた画面越しに映る小岩井さんの表情は少し暗かった。

 画面から目を離して、小岩井さんの心の声を覗けば自己嫌悪に苛まれている。

 《嫌われちゃったかな……やっぱりいきなりすぎたよね。あ、でも占いなんだし、そんなことまで分かる訳がないというか……あー、もう何であんなこと言っちゃったかな!?》

 その顔を見て何かを言わなくちゃいけないと思った。

「占いは答えなんかない……当たるも当たらないもある。朝の星座占いみたいに」

「何が言いたいの?」

「占いは人の背中を押すためにあるんだと思う。だから、俺はこの占いの結果を伝えておくよ」

 俺は気持ちを落ち着かせるために目を瞑って深呼吸をした。

 そして、今までのやりとりの全てを思い出して、勇気をふるって声を出した。

 大丈夫。俺は心を読んできた。この答えは間違えない。

「小岩井さんの好きな人と、小岩井さんは両思いだよ」

「え?」

 心の声が全て吹き飛ぶほど驚く小岩井さんの表情に、俺の頬は勝手に緩んでいた。

 格好良く決めたいのに、何か自然と笑えてくるんだ。

「俺は小岩井さんのことが好きなんだと思う」

 好きになりたいんだと思う。そう自分に言い聞かせるように言葉にした。

「そう」

 小岩井さんのいつも通りな素っ気ない返事。

「占い。当たった」

「そっか」

 柳の言葉を今更思い出す。

 心が見えたら楽だよな。

 その通りだと思う。見えていても少し怖かったんだ。見えなくて相手の考えていることが分からなかったら、こんなこと言えやしない。

 《ど、どうしよう!? 本当に分かるんだ。えっと、えっと、なんて言えばいいの? というか、早瀬君の言葉の意味が分からないよ! 今のは人として好きってこと?》

 溢れ出る小岩井さんの心の言葉を見て、俺は背筋が凍り付いた。

 え? 好きな人って人間として好きな人ってこと!?

 もし、そうだったら俺が勘違いして、勝手に盛り上がって、恥ずかしい告白までしたってことか!?

 何が両思いだよ!? これじゃあ痛い奴だって避けられるかもしれない。

「小岩井さんは人として俺を好きになってくれたんだよね?」

 自分が格好悪くて情けなくて、俺は逃げるための言葉を選んでしまった。

 嘘だと知っている。でも、拒否されるのはもっと怖かったんだ。

「早瀬君は?」

 小岩井さんが聞き返してきて、俺は言葉を詰まらせた。

 《私は……どうなのか分からない。一緒にいたいし、もっと話しもしたいけど、付き合うとかどうすればいいか分からないから。人として好きってことにしてもらった方が、早瀬君には迷惑かけないと思うから……お願い。何事もなかったかのように振る舞うから》

 俺も小岩井さんもお互いに分からないんだ。

 小岩井さんは分からないなりに必死になって、気遣ってくれている。

 この言葉が正しいかは分からない。小岩井さんの心の声を無視しているとは分かっている。

「ごめん。小岩井さん」

 《やっぱり私の勘違いだったんだ。良かった。これでいつも通りかな》

「俺と付き合って欲しい」

「そう。そうだと思って――へ? 早瀬君。今なんて?」

「俺は小岩井さんと付き合いたい」

 俺は結局分からないから、自分のワガママを貫いた。

 心の声を盗み見て、きっと小岩井さんにならワガママ言っても大丈夫だって分かっていたから。

「早瀬君」

 小岩井さんが静かに立ち上がり、俺の名を呼んだ。

「柳君達、探そ」

 そして続けざまにそう言うと、手を差し伸べてきた。

 まるで俺の告白に対する返事を拒否するかのような行動だ。

 それでも顔に浮かぶ文字を見て、俺も笑顔で手をとる。

「だな。見つけたら説教してやろうか」

「ん。任せて」

 右手に小岩井さんの温もりが伝わってくる。

 これが小岩井さんなりの答えだったらしい。

 《恋人なら手を繋いでもいいのかな……?》

 その想いと手を繋いだ事実で返事は十分過ぎるほどだった。

 まわりのカップルと同化するように、俺達は歩幅を合わせて通路を歩いていく。

 まだまだ固いぎこちない動きだ。

 出来れば柳達を見つけたくない。

 そう思えるほど幸せだと感じているらしい。

 ここで全ての幸運を使ってしまって、何か最悪の不幸にでも巻き込まれるんじゃないかとまで思える。

 そして、そんな予感は大概当たるのが本当に嫌だ。

 本屋に入って柳達を探していると、脚立に乗っている人の顔に危険を知らせる文字が浮かんだんだ。

 《あ、やばっ》

 体勢を崩した店員さんの身体が宙に舞う。

 そして、脚立も一緒に俺達の方に落ちてきた。

「小岩井さん!」

 事前に察知出来たおかげで、俺は何とか小岩井さんの前に回り込むことが出来た。

 直後、背中に衝撃と鈍い痛みが走る。

 もちろん落ちてくる人を支えられるほど、俺は鍛えてもいない。

 結局俺は耐えきれずに、小岩井さんとおでこをぶつけながら倒れた。

「お客様、大丈夫ですか!?」

 暗い視界に店員の声が聞こえる。

 意識はあるし、身体も動きそうだ。

「大丈夫です。小岩井さんは無事?」

「うん。たんこぶが出来てちょっと痛いけど。早瀬君は?」

 小岩井さんは自分の額の隅が腫れあがっていても、顔色一つ変えずに俺の事を心配してくれている。

 きっと迷惑かけないように耐えているんだろうな。

 俺も心配かけないように、ぶつけたところに手を伸ばすと、ピリッとした痛みに襲われた。

「っつ!」

「あれ? 早瀬君。傷が」

「あ、あぁ、昔交通事故にあった時に出来た傷で。今出来た訳じゃないから。たんこぶが出来てちょっと痛いけど、切れてないから大丈夫」

 じんじんするけど、耐えられない痛みじゃない。

 それに、小岩井さんが平気な顔しているのに、俺が痛がったら格好悪い。

 小岩井さんの上から起き上がって、彼女が起きるのを手伝う。

 お互いに大きな怪我をしなくて本当に良かった。

「本当に申し訳ありません!」

 倒れてしまった店員と、店長らしき中年の男性が一緒に頭を下げてくる。

 倒れてしまったのは事故であって、誰のせいでもない。

 そこまで謝られたら逆に申し訳ないぐらいだ。

 とがめる気は無いと伝えようと思ったら、小岩井さんが先に口を開いていた。

「店長さん大丈夫です。慰謝料とかは要求しません。ただ、脚立はちゃんと新しいのを買って下さい。ぐらついたみたいなので」

「本当に申し訳ございませんでした」

 無表情で淡々とそう告げると、小岩井さんは俺の手を引いてその場を後にした。

 そして、人気の無い場所にまで引っ張られて小岩井さんはようやく足を止めた。

 まだ動揺しているのだろうか。小岩井さんは空いた左手を胸にあて深呼吸をしている。

 本当に怪我してないのかな?

「あっ、えっと、怪我は本当に大丈夫。早瀬君のおかげでたんこぶが出来ただけだから」

 いつもより饒舌な小岩井さんが、髪をかきあげて額を指さしながら笑う。

 フォローのつもりなんだろうけど、ちょっと凹む。

 もっと早くあの心の声に対応していれば、綺麗に避けれたかもしれないのに。

「ごめん。言い間違えた。えっと……」

 慌てた様子で小岩井さんが顎に手を当て、何かを言おうと必死になっていた。

 あれ? そう言えば、何で俺は小岩井さんの顔が見られるんだ?

 というかさっきも店員さんの心の声を見ていない。

「早瀬君のおかげで大きな怪我しなくて済んだ。ありがとう」

「ど、どういたしまして」

 小岩井さんのお礼に俺は上手く返すことが出来なかった。

 間違い無い。心が読めなくなっている。

 あれほど小岩井さんの顔が見たいと思っていたけど、それが思わぬ形で叶ってしまった。

 でも、どうして? もしかして、さっきの事故が原因か?

「あ、あのさ。早瀬君」

「え、あ、はい。なんでしょう?」

「聞いていなかったから聞いてみたい。何で私を好きになったの?」

 小岩井さんに真っ直ぐ目を見て尋ねられた。

 なんて答えれば良いのだろう。心の声が読めないせいでどういう意味で聞かれているのかが分からない。

 俺はまだ自分でも小岩井さんのことが好きなのか分からない。

 あまりにも急な心の変化に俺自身がついていけていないんだ。

 それでも、好きになりたいと思っている。

 一緒にいたいと思うし、小岩井さんのことを信じたいとも思っている。

 でもその理由を問われると、分からないんだ。

 だから、そんな風に疑おうとするような目で見ないで欲しい。

「ねぇ、早瀬君」

「は、はい」

「私も分からないんだ。何で早瀬君が好きになったのか。だから聞いてみたかった」

 柳達のように長い間培った土台は俺達にはない。

「だからね、私も好きになろうと思った」

 小岩井さんも俺と同じような気持ちなのだろうか。

 分からないけど、そうであって欲しい。

 嘘であったとしても、そう言ってくれる小岩井さんを信じていたい。

「優君ってこれから呼んでもいい?」

「俺も智美さんと呼んでもいいのかな?」

 小岩井さんが小さな笑顔で頷き、俺もホッとする。

 小岩井さんから言われて、俺はやっと自分からも言えた。

 あまりにも慣れ慣れし過ぎやしないか。

 気にしすぎだと思っても、一つ一つ確認出来ないまま、前に踏み出す感覚が怖くて仕方無い。

「柳君と斉藤さんをもう一度探そう」

 小岩井さんが俺の手を握って、前に一歩踏み出した。

 あ、そう言えば俺からはちゃんと言っていない。

 でも、今言って良いのか分からない。

 俺もあなたを好きになりたいって。

「優君はやっぱり変な人だよね」

 小岩井さんが振り向くと、顔を赤らめて照れくさそうに笑う。

 俺に向けられた笑顔の意味が分からない。呆れられているのか、からかわれているのか。

 心が読めないというのが、こんなに不便なことだとは思わなかった。

「私はあなたを好きになりたい。そう思って良かったと思ってる」

 胸を撃ち抜かれたような衝撃に襲われた。

 心臓が飛び出るんじゃないかと思えるほど、驚いたんだ。

「……俺もそう思ってる」

 そう言うのが精一杯だった。

 俺は今、どんな顔をして言っているのだろうか。きっと真っ赤になっているに違いない。

「優君、携帯鳴ってるよ?」

「え? あ、本当だ」

 恥ずかしさのあまり着信音にすら気がつかなかった。

 慌てて電話に出てみると、相手は柳だった。

「優。今どこだー? 悪いな携帯の電源切ってたわ」

「あー……だと思ったよ」

「ん? 何かあったか? 元気がないようだけど」

「いや、大丈夫だ」

「ん? そか。なら、とりあえず、六階の喫茶店にでも行こうぜ。歩き回ってちょっと疲れたしさ」

「分かった。六階の喫茶店だな」

 電話を切ってため息をつく。

 あいつがはぐれたせいで、本当に色々なことがあった。

 感謝したいような怒りたいような、そんな複雑な気分だ。

「六階の喫茶店で待ち合わせだってさ」

「ん。いこっか」

 手を繋いで共に歩く。この事実だけが心が見えなくなった不安を消してくれるような気がした。

 何故だろう歩く度に頭がずきずきと痛む。

 こぶのあたりに触れてみると、余計痛みがはしった。

 小岩井さんは無表情のままだけど、大丈夫なのだろうか?

「柳君達がいた」

 小岩井さんが指を指す先には、喫茶店の前においてある椅子に、柳と小岩井さんが腰掛けていた。

 全く人騒がせなカップルだ。

「悪いな二人とも。携帯の電源入れるの忘れてたんだ」

「いないって気付いたら普通すぐ入れる」

「あー……それはその」

 小岩井さんの厳しい言葉を、柳は笑いで誤魔化そうとしていた。

「怒ってないから。別に構わない」

 小岩井さんは眉一つ動かさずに怒っていないと言ったものの、柳は困ったような表情で俺に何かを訴えようとしている。

 本当に怒っていないのか確かめてくれ。とでも言いたいのだろうか?

「それより私達は帰るね」

 再会した途端帰ると言い放った小岩井さんに、俺と柳だけでなく、斉藤さんまで驚いていた。

「小岩井さん。何かあったの?」

 斉藤さんが困ったような口調で聞いてしまったのも無理はないだろう。

 小岩井さんは一体どうしたんだろう?

「優君が頭を打って、痛そうにしてるから」

「え?」

「さっき本屋で人が倒れてきて、こぶが出来てる」

 小岩井さんが帰ると言ったのは、俺のせいだったらしい。

 最初にそれを言えば誤解を受けなかったのに。と思いながらも、気を利かせてくれたことは素直に嬉しい。

「優、大丈夫か?」

「あぁ、うん。ちょっと痛い程度だから」

 強がってみたものの、三十九度くらいの熱を出した時と同じくらいの頭の痛さはある。

 でも、この頭痛の原因が小岩井さんのせいだと思って欲しくない。

「そういうことだから、柳君と斉藤さんはデートの続きを楽しんで」

「って、小岩井さん俺は大丈夫だから」

「無理しちゃだめ」

「はい……」

 また小岩井さんにジッと目を見つめられる。

 無表情だからこその威圧感に押されて、俺は折れることにした。

 小岩井さんはこんな怖い顔出来るのか。きれいだからより一層無表情による怒りが際立つのかもしれない。

「それじゃあ、また学校で」

「あ、待って小岩井さん」

「何?」

 俺の手を引っ張って小岩井さんが立ち去ろうとすると、柳が呼び止めてきた。

「俺達も一緒に行くよ。俺が原因みたいなものだから」

「別にいい。柳君のせいじゃないから、柳君は二人きりのデートを楽しんで」

 小岩井さんは柳の申し出を冷たく断ると、また前を向いた。

「あ、そうだ」

 そして、小岩井さんが何かを思い出して後ろにもう一度振り向く。

「柳君と斉藤さんが思っている通りだから」

「そっか。まぁ、だよな?」

 納得がいったような口調で柳が斉藤さんに目配せする。

「そうだね。ちょっと分かりやす過ぎ」

 斉藤さんも小さく笑っている。

 心が読めないせいで、一体何について笑っているのかすぐには分からなかった。

 そもそもの発端は柳が俺達を誘ったところから始まった所からだ。

「ん。彼氏彼女な関係」

「ごほっ!?」

「優君焦り過ぎ。とっくにばれてるから」

「……そうなの?」

 小岩井さんの宣言に驚きすぎてむせたら、呆れたような目で見られた。

 柳も斉藤さんも苦笑いしている。

「手を繋いで現れて、小岩井さんが早瀬君を優君って呼ぶようになったら、そうかなーとも思うよ」

「あ、なるほど」

 斉藤さんの答え合わせに俺は納得してしまった。

 確かにそこまで気が回らなかったけど、言われてみればそれぐらいで気がつくものか。

「それじゃ」

 そして、今度こそ小岩井さんは俺の手を引っ張って、その場を後にした。


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