ぼくらのごはん
ぼくが生まれるよりもずっと前に、この世界には異端者と呼ばれる人々がいたらしい。
彼らは、いわゆる普通の生活をする人たちに対して、嫌悪し、卑下し、悪と見なした。暴動を起こし、当時の人々をとても怖がらせたようだ。
もちろん、そんな異端な考えを持つ彼らの勢力は、この世界を支配するには乏しいもので、大きな被害もない内に、彼らは政府に抑えられた。
そして、裁判の後、彼らは世界へ対する悪行を働いたと判決が下され、死刑に処されることとなった。
その頭領であった人物、彼の最後の言葉は教科書にも載っている。
「おれたちを駆逐しようが、同じ考えを持つ人間は生まれる。おれたちが異端なのではない。世界が狂っているんだ」
……なんて、まるで意味がわからない。普通の人が普通にしていることを、悪だとかなんだといって暴れるだなんて。
仲間内では、これを授業で知った後、「家畜を食べることが悪だとかいうなんて、バカなんじゃねぇの」と笑ったものだ。
そうとも、ぼくらは食べなければ生きていけない。それを悪だとするなら、ぼくらは生まれ落ちた瞬間から、死に行くしかないじゃないか。
確かに、生き物を殺してそれを食べるというのは、残酷だといえばそう感じるだろう。けれどそれは宿命なのだ。
家畜として飼われ、ぼくらの血肉になるために生まれてきた生き物がいる。それに感謝はするし、ありがたくいただいている。それを悪行だなんて。
じゃあ動物じゃなければいいのか。いや、植物にだって命はある。それを摘むことすら悪なのであれば、ベジタリアンだって生きていけない。
つまりは、ぼくらが食べるということは贖罪なのだ。食べる側と食べられる側、そのどちらもあって然るべきこと。その罪を自覚しながら、それでも食べていかなくちゃならないんだ。
それを「世界が狂っている」だなんて。どこの誰もが当たり前にしていることに対して暴動を起こした彼らの考えは、やはり理解できない。
「ご飯、できたわよー」
「あ、はーい」
だからぼくは食べることをやめないし、食べられる彼らのためにも、せめておいしくいただこうと思う。
「いただきまぁす。……わぁ、おかあさん、このお肉、おいしいね!」
「あら、わかる? 今日のお肉は特別にA5ランクの人肉よ」