【うろ夏の陣・8月7日】鬼、コネクションを利用する
8月7日 夕方
鬼ヶ島厳蔵はスマートフォンを使い、関係各所に連絡を入れていた。世界の各所を旅してきた厳蔵のコネクションは幅広く、妖怪一、人間に顔の広い鬼と言っても過言ではないだろう。
人間であっても、厳蔵のコネクションに匹敵するコネクションを持つものはそういないのではないだろうか。
「儂じゃ。例の件じゃがな。頼んだ分だけでは不安じゃ!警護の数を増やしてくれ!」
「そうじゃ、昨日頼んだ連中に追加じゃ!」
「そうではない。お前さんの所の対人外特殊部隊。あやつらを寄越してくれんか」
「国の認可じゃと!?後で儂が上手いこと言うといてやるわい!」
「明日にはうろな町入りさせるのじゃぞ!あと、わかっているとは思うが…」
「うむ。くれぐれも警備対象にバレぬようにな!頼んだぞ!」
まったく、この国の奴らは上にいけばいくほど頭が固くなりおる。そうぼやきながら通話を終了させる。他国の部隊ならば、かなり迅速に行動を開始してくれるのだが、今は時間も惜しい。前鬼、後鬼と言う明確な敵意を示す者がいる以上、間に合いませんでしたでは済まされないのだ。
伏見弥彦と伏見葵。この町で出会った鬼仲間である彼らは、普段その正体を隠してこのうろな町で生活をしている。同じ鬼と言う事もあって懇意にしているのだが、昨日、彼らの元に「仲間になれ」と胸糞の悪い鬼からの誘いがあった。確か、名を前鬼と後鬼と言った。同じ鬼とは思いたくもないと顔をしかめながら、厳蔵は更に別の所へ連絡をする。うろな町外にある、とある大学の研究室である。
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今朝早くに、猫塚千里が厳蔵の元に訪れた。彼女は「調べ物をお願いしたいのだけれど」と言った。話を聞いて見れば、一反木綿やら大入道やら、外の妖怪が町に攻めてくると言う話であった。それらを倒す協力をしてほしいと千里は言う。そして、それを束ねる大物が後ろに控えているのではないかと予想しているとも言った。
そこで厳蔵は昨夜の前鬼、後鬼の事を思い出し、「妖怪を仲間にしようと企むヤツがおる」と千里にその事を告げて、気をつけるようにと促した。
その時に一瞬彼女の目がにやりと光り、厳蔵は何事かと訝しんだが、千里はくるりと踵を返しひらひらと手を振って、ある大学の民俗学教授に連絡をとるように薦めた。
「おお!儂の知り合いじゃ。妖怪に詳しい奴じゃったと記憶しておる!」
千里の足が止まり、半身だけ厳蔵を振り返る。その顔には多少の驚きが含まれていた。
「あら、本当に顔が広いのね。私も知り合いなの。よろしく言っておいて」
「不思議な縁もあったものじゃな!お主も仙狸として研究対象にされたクチか?」
「あら、女性を詮索するなんて野暮ではないかしら?」
「おお!そうじゃな!すまんすまん!」
厳蔵は大口をあけて笑い、千里は「それじゃあね」と去っていった。
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大学教授は厳蔵からの連絡に快く応え、前鬼と後鬼の名を出すと「あぁ、役小角の使役する鬼の名前だね」と言った。
彼の話は大学教授のそれらしくとても長く、十数分に渡る電波越しの講義の中、厳蔵は「長い!要点だけまとめんか!儂は忙しいんじゃ!」と声をあげた。
教授が「これからが面白いのになぁ。君はいつもせっかちだよ」とぷつぷつ言いながらまとめた要点が以下のようなものである。
役小角。役行者とも呼ばれる飛鳥・奈良時代の術士であり、術で鬼を使役していたとされる。
仙人とも妖怪とも呼ばれ、その説は様々である。しかし教授は「彼は人間でもあり、仙人でもあり、また妖怪でもあるのだよ」とそう言った。人として生を受け、仙人としての修行を積み、その法力で人としての枠を越えて人ならざる者へとその身を変えたのだと。
前鬼と後鬼を筆頭に、数多の妖怪が彼の元に集い、一大勢力を成していると言う。手頃な集落を見つけては、妖怪を前鬼と後鬼が仲間に引き込み、能力のある人間を小角が狩るようにして配下に加える。こうして勢力を増していくと言う。
前鬼と後鬼と名乗る鬼が来たのならば、うろな町に狙いを定めたのではないかなぁと教授は心配そうに言った。
「まぁ、僕達からしたら眉唾ものだけれどね。少なくとも僕は妖怪の存在を知っている。
君や千里君がそう。それは事実。昔の伝記や説話には荒唐無稽なものも多いがね君。
そこには少なからず事実が内包されているものなんだ。真実彼は今も実在する。
ま、夢物語だと言われるのが落ちだから発表はしないけれどもね。
しかし君、人間が夢を無くしちゃあどうやって生きていくんだね?」
「儂は鬼じゃから知らん!情報はありがたくいただくぞ!ではな!」
「ツレないじゃないか。それは妖怪としての性質なの?それとも君自身の」
厳蔵は通話を無理やり終了させ、大きくため息をついた。千里はこの教授の長話を避けるために自分に電話をさせたのではないだろうかと邪推してしまう。
大学教授と言うものは、皆このように冗長な話し方をするものなのだろうか。他の大学教授に会うような機会があれば確認してみたいものだと厳蔵は思い、また様々な場所へ連絡をとるのだった。
せっかく100年ぶりに帰ってきたこの場所をとられてはかなわない。打てる手はあらゆる面で打たねばならんと気をはる厳蔵であった。
零崎虚識さんの鬼ヶ島厳蔵をお預かりしてお送りしました。
厳蔵さんのコネクション便利ー。ありがとう、厳蔵さん!




